第13話 【試験農場と製造工房、始動!】
見て頂きありがとうございます。励みになりますので、良かったらブックマーク、評価、コメントよろしくお願いします。
契約から二週間後
ミサトの村では、新しい施設の建設ラッシュが始まっていた。
トーレル商会との提携で予算が確保され、木材、石材、職人たちが次々と運び込まれてくる。
「ボス! 製造工房の土台、今日中に終わります!」
「よし、じゃあ明日は屋根の骨組みね。雨が降る前に片付けたいから」
掛け声を上げて動くのは、村人たちとゴブリンたちの混成チームだ。
ゴブ次郎たちは木材を担ぎ、村人は道具を扱い、互いに作業を教え合っている。
最初こそ[力はあるけど荒っぽい]ゴブリンと[丁寧だけど遅い]村人で衝突があったが、今では不思議な呼吸が生まれていた。
『ミサト。作業効率が上がっています。チーム編成の最適化、やはり有効でしたね』
「あっはっはっ!リリィ、うちの社員教育方針に“ご飯と褒め言葉で釣る”って追加しといて」
『それは教育方針ではなく、家畜の飼育法に近いような……』
「んなっ!人聞きが悪いな〜。そんなブラック企業みたいなこと言って…細かいことはいいのよ」
◇◇◇
そんな中、ミサトの自宅の修繕も進んでいた。
ミサトのDIYでは壁は一部崩れ、屋根は雨漏り、窓枠は歪んでいたが、、
村の大工とゴブリンの力仕事が合わさると、みるみるうちに形を取り戻していく。
「ボス。壁板は全部新しいのに全部取り替えました」
「うわぁ〜ピッカピカ☆ありがとう。
あの〜…この床も磨いてくれちゃったりする??」
村の大工が床板を削り直すと、黒ずんでいた木目が美しく蘇った。
窓から差し込む光が、室内を柔らかく照らす。
「……ああ、やっと“家”って感じがしてきた…」
ミサトは鼻をすんと鳴らし、ちょっと感傷的になった。
異世界に来て初めて、雨風をしのげる、ちゃんとした自分の居場所ができたのだ。
◇◇◇
そして彼女が真っ先にこだわったのは、、、
トイレだった。
「ボス。これ……ただの穴じゃないですか?」
「そう。で、この中に入れるのが、、
じゃーん! 捕まえたばかりのこのスライムくん!」
バケツの中で、ぷるぷると揺れる青いスライムがいる。
ゴブ次郎が眉をひそめた。
「えっ!?こいつ…“あれ”食うやつですよ…」
「そう!この子は排泄物を分解してくれるの。匂いも残らないし、害虫も寄らない。超〜エコスライム君よ☆ねぇ!リリィ!」
『はい。ミサト。異世界の廃棄物リサイクルの歴史に新たな1ページですね』
「そういう大げさなことじゃないの。生活の基本よ、基本!もう村のトイレの臭いには耐えられないわ…」
スライムを穴に入れると、ぴょんと跳ねて定位置に落ち着く。
早速試運転(という名の使用)をしたゴブ次郎は、トイレから出て目を丸くした。
「おお……処理する必要ないんすね…」
「でしょ〜? しかもさ、このスライム君を畑に放すと、勝手に肥料として畑に還元もできる。ゴブ次郎あとで洋式トイレ作ってね。設計図はリリィが書くから!」
『はい。ミサト。えぇ?また私に面倒なことを…でも文明レベルの向上ミッション、また一歩進みました』
◇◇◇
昼になると、広場で全員そろって昼食だ。
今日のメニューは焼きたての新作蜂蜜パンと、野菜たっぷりのスープ。
ゴブ次郎はパンを両手で持ちながら、目を輝かせてかじりついた。
「ボス! この甘いやつの新作、村で作ったんですか?」
「そう。美味しい?これからは商会経由で売る予定」
「はい。うまいっす!でも……ボスって、なんか…やっぱすごいっすね」
「なんか、は余計よ!!」
◇◇◇
午後は試験農場の整備に取りかかる。
新しい灌漑用の水路を掘り、野菜やハーブの種を植える。
ゴブリンたちは最初、慣れない畑に足を踏み入れるたびに苗を踏みそうになったが、何度も注意されるうちに、ちゃんと列を避けて歩くようになった。
「ボス、あの……これって本当に儲かるんですか?」
「えぇ!儲かるわよ。種が育てば食料にもなるし、余った分は売れる。しかも安定供給できれば商会も助かるでしょ☆」
『ミサト。説明が完全に営業トークです』
「あははっ!営業トークじゃなくて現実よ!」
◇◇◇
夕方、作業が終わると村の広場には笑い声が広がった。
子どもたちは新しくできた水路で水遊びし、大人たちは焚き火の周りでパンを焼く。
その光景を見て、ミサトは小さく息をついた。
、、たしかにここは、ただの異世界の村じゃない。
ミサトの手で、会社として動き出した《生きた拠点》なのだ。
夜、リリィが静かに問いかける。
『ミサト。次は何をするつもりですか?』
「半年後の幹部研修。そのときまでに、ここの利益構造を固める」
『はい。ミサト。研修という名の……畑地獄ですね』
「ふっふっふっ!……そうよ〜」
星明かりの下、ミサトは未来を描いて笑った。
その夜、ミサトは新しく直った自宅に一人で入った。
足を踏み入れた瞬間、木の香りがふわっと広がる。
昼間は作業と打ち合わせで慌ただしかったが、こうして静かな部屋に立つと、じんわりと現実感が押し寄せてきた。
窓からは月明かりが差し込み、磨き上げられた床に柔らかな光の模様を描く。
壁の隙間風もなく、屋根からは雨のしずく一つ落ちてこない。
、、これが、私の家。
「ふぅ……」
ベッドに腰を下ろし寝転ぶと、ふかふかの感触が背中に広がった。
あの硬い干し草の寝床から比べたら、天国だ。
思わずごろんと横になり、目を閉じる。
『はい。ミサト。感想は?』
「いや〜、もう最高。私は結局どこでも寝れるんだけど、会社員時代、六畳一間のアパートで寝転んだとき以来の安心感かもね〜」
『ミサト。それは褒め言葉なんでしょうか……?』
「えっ? …もちろんっ!☆」
外からは、焚き火を囲む村人とゴブリンたちの笑い声が、遠く微かに届く。
ミサトはその音を子守歌にしながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
続




