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第24話 【治安と帳簿】

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 夜の湯ノ花の里は、昼間の活気をそのまま引き継いでいた。

 露店の片付けに追われる者、荷を抱えて宿へと向かう旅人。温泉街の灯りがぽつぽつと瞬き、人の気配が絶えない。


 、、その賑わいの中で、事件は起こった。


「誰かぁぁぁ!!泥棒だぁぁぁっ!!」


 悲鳴が夜気を裂く。人々がざわめき、駆け出す足音が石畳に乱れる。

 ほどなくして、商人の荷車から高価な織物が抜き取られていたことが判明した。


 ミサトは飛び起きるようにして現場へ駆け付けた。

「ちょ、ちょっと!大変っ! こんな時にリュウコクがいてくれたら……!」

『はい。ミサト。王子はラインハルトで外交中です。しかも湯ノ花の王はあなたです』

「うわぁぁぁん!……王って響き、責任重いんだよなぁ!」


 夜警の兵はまだ常設されていない。見回りを担うのは自警団の数名とゴブリン自警団だけで、とても追いつける状況ではなかった。

「ぐへへ!よっしゃ! こういう時こそゴブリン遊撃隊の出番だな!」

 胸を張るゴブ太郎に、横で槍を担いだゴブ次郎がぼやく。

「兄貴、張り切るのはいいけど……昨日は寝過ごして見回りサボったろ」

「グハハっ!ゴブ次、まだ甘いな!あれはな“敵を油断させる高度な戦術”だ!」

「へへっ!ただの二度寝だろ……」

 周囲の村人が苦笑する中、二人は小踊りしながら歩き出す。

「まぁでも、兄貴がいると不思議と安心するんだよな」

「ふん♪ふん♪ふふん♪。 おう! 任せとけ! オレたちがこの夜を守る!」

「お前たち……!!いいから、、追いかけろぉぉぉぉ!!」

 ミサトは二人の前に鬼神の顔で仁王立ち叫んだ。


◇◇◇


 翌日、、、

 今度は昼の楽市楽座で喧嘩が勃発した。

「ふざけんなっ!ここは俺の場所だっ!あっち行けっ!」

「なにぃぃ!!俺は昨日からここって決めてたんだよっ!!文句があるなら他所へ行け!」

 大声とともに、殴り合い。周囲の客も巻き込まれ、場は修羅場寸前だった。


「ちょ、ちょっと待って! 喧嘩はやめてっ!!」

 ミサトは必死に間へ割って入る。ゴブ太郎が腕力で二人を引き剥がし、カイルが慌てて帳簿を抱え走ってきた。

「……これはまずいな。どうしても売りたい農民と、利益を優先する商人の衝突だ」


 農民の男は涙目で訴えた。

「今日売れなきゃ、、国の税が払えねぇ!飯も食えねぇ、、畑を売るしかねぇんだ!」


 その声に、ミサトの胸がきゅっと痛んだ。

「……あー、ごめん、、完全に内政の穴ってやつだね…。全部の場所で平等にが理想に近いんだけどね…」

『はい。ミサト。治安維持と帳簿管理は急務です。歴史的にも似た事例があります』


 リリィの声が淡々と続く。

『豊臣秀吉は“検地”を行い、土地と収穫を正確に把握することで税と保護を両立しました。徳川家康は“町奉行”を置き、治安を制度として管理しました』


「おおぉ……リアル超有名歴史偉人の合わせ技〜……!」

 ミサトは思わず声を漏らした。

「でも、私にそんな大それたこと……」


 エルナが小さく手を握った。

「できますよ。ミサトさん。だって、ここまで導いてくれたじゃないですか、、ここまでの事だって後世に語り継がれる出来事ですよ…」

 ゴブ太郎も力強く拳を突き出す。

「ぐははっ!オレたちがここに居る時点ですげぇーことだ! 治安でもなんでも、オレたちが体張って支えるぜ!」

 カイルはため息をつきながらも頷く。

「まぁ、仕組みづくりは大変だが……数字をまとめるのは俺の役目だな」


 ミサトは肩をすくめ、頭をかきながらぼやいた。

「はぁ……でもさ、私ってそんなカリスマ君主タイプじゃないんだよね〜? むしろ事務処理とExcelマクロ担当だよ?」

『はい。ミサト。ええ、その自覚があるなら適任です。歴史を振り返れば、カリスマよりも実務能力で世を治めた人物も少なくありません』

「うぐっ……なんか遠回しに“地味だけど必要な人材”って言われた気がする…。まぁ必要と言われるだけマシか…」


 リリィが小さくくすりと笑う。

『はい。ミサト。こんな有名な言葉をご存知ですか? “泣かぬなら……”という三人の解釈。織田信長は“殺してしまえホトトギス”。豊臣秀吉は“鳴かせてみようホトトギス”。徳川家康は“鳴くまで待とうホトトギス”』

「うんうん、テストで出た出た! ……で、私のバージョン作ってくれるの??」

『はい。ミサト。もちろんです。では提案します。“泣かぬなら、鳴くまでExcelでグラフ化ホトトギス”』

「最早俳句じゃないっ!! ちょっと! それ完全に社畜仕様じゃん! でも、妙に私に当てはまる説得力があるのが悔しい……!」


 ミサトは頭を抱えつつも笑ってしまう。

「まぁ、仕方ないか。殺すまで行く勢いも、鳴くまで待つ忍耐も、鳴かせる工夫もできないけど、数字と仕組みで支えるのが私流だね、、ここまでそれで何とかやってきたし! うしっ!いっちょ頑張りますかぁ!!」

『はい。ミサト。ミサト流のホトトギス戦略。それでこそ、この里を守れます』


◇◇◇


 その日の夕刻、、、

 湯けむり立つ天守閣の一室に、主要な面々が集められた。

 ミサトは深呼吸し、みんなを見回す。


「は〜い!みんないますね〜。よし……じゃあ宣言します!」


 びしっと人差し指を突き出す。

「湯ノ花の里に“治安システム”と“帳簿改革”を導入します! その名も、、“盗みや喧嘩はごめんだし、農民が泣くのも嫌! 数字でちゃんと守って、みんなが安心できる仕組みを作ろう”!大作戦!」


 ゴブ太郎が「おおーっ!作戦名ながっ」と吠え、エルナがぱちぱちと拍手する。

 カイルは眼鏡を押し上げながら真顔で言った。

「……やれやれ。結局また、大仕事だな…。まぁ、、国だからしょうがないのか……」

『はい。ミサト。ここからが本当の内政改革です』

 リリィの声が少しだけ誇らしげに響いた。


◇◇◇


 外では、夕暮れの市場に再び灯りがともる。

 けれど、ただの賑わいではない。

 これからは《仕組み》がその賑わいを支えるのだ。


 ミサトは胸に新しい火を灯し、拳を握りしめた。

「さぁ、元社畜OLの意地見せてやるかぁ!」


 、、湯ノ花の里、社畜OLの内政改革の幕が上がった。



            続

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