第22話 【ご褒美とずる休み】
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港に吹く潮風は、まだ戦の余韻を含んでいた。
瓦礫と血の匂いが混じり合い、それでも新しい空気が流れ始めている。
「……じゃあな。私はここの後始末だ」
マリーは腕を組み、気取ったように顎をしゃくった。
「おお……完全に領主顔だね〜☆」
ミサトがからかうと、マリーは顔を真っ赤にする。
「ち、違う! 私はただ……! ほら、船乗りだから港が落ち着かないと困るし!」
「ふふっ、照れちゃって!」
リュウコクが肩を竦めると、マリーは怒鳴った。
「だ、だから照れてねぇっつの! お前は黙ってろ、カッコつけ王子!」
そう言い合いながらも、目は優しい。
きっと、港を任せられる仲間を得た、、その安堵がそこにあった。
ミサトは小さく笑い、ひらひらと手を振る。
「じゃあまたね、マリー。元気で!」
「おう……お前らもな!何かあればすぐ連絡するから頼んだぞーー!!」
潮風に乗せた別れは、思いのほか温かかった。
◇◇◇
船が沖へと出ると、静寂が戻る。
甲板に立つリュウコクは、どこか不満げに唇を尖らせていた。
「あ〜あ。結局いいとこ全部ミサトが持ってったなぁ」
「へ? 私?」
ミサトは首をかしげた。
「うん。あんな風に“殺しちゃダメだ”って堂々と言えるの、普通できないよ。アルガスの連中の心を掴んだのは、僕じゃなくてミサトだ」
その言葉に、ミサトはぽかんとした後、ふっと笑った。
「そう? でもリュウコクも十分カッコよかったよ♪」
「……え??……もう一回いい??」
リュウコクの耳が赤く染まる。
「いや、ほら、最後、剣でピタッてやったとこ! あれ映画だったら拍手喝采だよ。私、素直に痺れたもん」
「っ……そ、そうか?ははは…」
リュウコクは視線を逸らすが、口元は緩んでいた。
その様子を、リリィがすかさず突っ込む。
『はい。ミサト。あらあら。胸焼けがしそうですね。恋愛糖分過多で体に悪いですよ』
「うっさい! リリィはちょっと黙ってなさい!」
ミサトが赤面しながら声を上げると、船上に笑いが広がった。
◇◇◇
ラインハルト港の桟橋に船が着くと、先に着いていたカリオスが腕を組んで待っていた。
「やれやれ……遅かったな。港の連中が、王とミサトの武勇伝を延々と語っていたぞ」
「ぶ、武勇伝!? いやいや、私なんもしてないから!」
ミサトが慌てて手を振ると、横からゴブ太郎が口を挟む。
「ぐははっ!さすがオレたちの王!港でも里でも、人気者だなー。オレの方は……ほら、この通り」
そう言って袖をまくると、腕に包帯がぐるぐる巻き。
「おお、派手にやられたな!あの時の傷より深いのか??」リュウコクが目を丸くする。
「ぐへへっ!これは……船で料理中に鍋をひっくり返しただけだよっ!あははっ!」
「はぁ〜、、戦傷じゃないんかい!心配したろうがっ!」
ミサトのチョップがゴブ太郎を突っ込むと、同時にリュウコクが羨ましそうな顔をした、、
その光景を見てた港の労働者たちまで笑い声を上げた。
「ふふ、まあゴブ太郎のおかげで場が和んだよ」
ミサトがくすっと笑うと、カリオスが真顔で付け足す。
「……いや、あのな。港で笑い者になった分は次の戦で働いて返してもらうぞ」
「ひぃぃ! ブラック上司!」
「なんだその反応!?それに俺はお前の上司じゃね〜!意味分かってねぇのに、ミサトの真似すんなって」
そんな掛け合いに、リュウコクは腹を抱えて笑った。
「あははっ!……なんだかんだでみんな、いいチームになってきたじゃないか!うん。悪くないな」
船旅の疲れも吹き飛ぶような、騒がしい再会だった。
◇◇◇
湯ノ花の里。
帰還を告げる旗が上がると、村はお祭り騒ぎになった。
「おっ!おかえり〜ミサト! 大変だったろ?」
真っ先に駆け寄ってきたのはカイルだ。眼鏡を光らせ、声を弾ませる。
「まさかアルガスまで治めちまうとはなぁ、、 湯ノ花の威光、ますます高くなるな!」
「いやいやいや、治めたっていうか……押し付けたっていうか……」
ミサトが苦笑する横で、エルナがぱぁっと顔を輝かせた。
「ミサトさん! 温泉入れる様に、もう用意してありますからね! あとご飯もいっぱい!」
「うっそっ!嬉しい☆ありがと〜♪はぁぁ……生きて帰って来れてよかったぁぁぁ……!」
ミサトはその場でへたり込みそうになる。
その夜は祝宴となった。
魚と野菜の煮込み、焼き立てのパン、湯気を上げる温泉酒。
ミサトは遠慮なくムシャムシャと頬張った。
「おいしいぃぃぃ……幸せぇぇ……」
『はい。ミサト。食べすぎで翌日動けなくなる未来が見えます』
「未来予知すんな! もういいの! 今日は食べる日!」
腹を満たしたあとは、もちろん温泉。
「ふぅぅぅ〜〜……はぁぁぁ〜〜……」
背中を流してくれるエルナに「ありがとね」と声をかけつつ、湯に身を沈める。
心も体も、とろけていく。
そして布団に倒れ込めば、、秒でイビキをかき眠りに落ちた。
◇◇◇
翌朝、、、
『はい。ミサト。起床時間です。出勤のチャイムが鳴ってますよ』
「んっ?……んにゃ?……イヤダ…今日は休む……」
布団にくるまったまま、ミサトは唸る。
『はい。ミサト。亀と言うには亀に申し訳ないぐらい布団に潜ってますけど、、理由をどうぞ』
「んっ??……理由?、、えーと……親戚のエランおじさんが……死んじゃった……」
『はい。ミサト。……架空の親戚を殺してまで休むと、後で地獄を見ますよ』
「ぐぬぬ……うるさいなぁ、、じゃあ電車が遅れてるって言っといて!」
『はい。ミサト。異世界に電車は走っていませんが』
「じゃあ……じゃあ……、、奥の手!馬車が事故った!」
『はい。ミサト。……やれやれ』
リリィのため息を聞きながら、ミサトはさらに布団に顔を埋めた。
温泉と宴と布団。世界はまだまだ大変だけど、、今日だけは、ご褒美みたいに優しい。
続




