第13話 【港を越えて 再びそれぞれの道へ】
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松明の火が揺れ、無数の槍先が月を弾いて煌めいた。
桟橋を埋め尽くす兵たちの足音は波の音さえかき消し、空気は張りつめていた。
その中で、リュウコクは剣を振るい続けていた。
軽やかに、だが容赦なく。舞うような剣筋が次々と敵兵を薙ぎ倒していく。
ミサトは目を見開き、声を失っていた。
「なに……これ……。リュウコクって、剣も、こんな……強いの……? てか、あいつやり過ぎ!!こらぁぁぁ!殺しちゃダメだからねーーー!!」
『はい、ミサト。彼は想像以上に強いのです。戦場を支配するカリスマ、戦術眼、剣技……甘いマスク、全部持っている。いわば、“怪物”ですね』
「な、なにサラッと怖いこと言ってんのよっ!それに甘いマスクは別に言わなくていいでしょうがっ!」
リュウコクはふと剣を納め、息を吐いた。
「……うん。頃合いだな。これ以上やるとミサトに怒られる……。おいっ!!船を出せ!」
マリーが振り返り、怒鳴る。
「おい! 舵を切れ! 港を離れるぞ!」
海賊船の帆がはためき、重たい音を立てて動き出した。
その様子を見ていたカリオスの所の傭兵たちが慌てて追いすがろうとするが、桟橋にはカリオスが仁王立ちしていた。
「通さねぇって言ってんだろうがぁぁぁ!!行けええぇぇぇっ! 王を守るのが俺達の役目だあぁっ!」
巨躯が振るう剣が弧を描き、兵士たちを弾き飛ばす。
「リュウコク…上手く逃げられた様だな…。よしっ!お前たち! 殿は俺に任せろ! 下がれ! 乗ってきた船まで退くぞ!」
背後から聞こえる轟音。港に花火のような赤光がまた弾けた。バレンティオが杯を掲げ、笑っていた。
「ふん……逃げても地獄。残っても地獄。だが、ここから先、このアルガスの網は広いぞ。好きに動けると思うなよ、“坊ちゃん”」
その花火の音を背に、リュウコクは船べりを蹴り、帆船へと大きく跳んだ。
軽やかに甲板へと降り立ち、振り返って傭兵たちに声を投げる。
「やぁ!君達!成金王に伝えておいてくれよ! 次は“もらう”からってね!!」
その嘲笑が波間に響いた瞬間、船は港を離れ、闇夜の海へと滑り出した。
◇◇◇
潮風を受け、船は黒い水面を切り裂いて進む。
甲板に腰を下ろしたリュウコクは、満足げに笑った。
「いやぁ、旅行楽しかったねぇ!ミサト♪」
「どこがっ! 楽しくないわよぉぉっ!! 死ぬかと思ったんだから!初日以外、走りっぱなしだよ!」
「えぇ〜!僕は楽しかったよ。酔っ払ったミサトの寝顔も見れたし…。ご褒美ペロペロ眼福ありがとう♡」
「○ねぇぇぇぇ!!二度とそんな事言うなァァァ!!」ミサトが髪を振り乱して叫ぶ。
マリーはあきれたように腕を組んだ。
「お前ら……いつもこんな調子なのか?」
『はい。ええ、二人はいつもこんな感じでイチャイチャしております』
「イチャイチャしてないわぁぁぁっ!!」
顔を真っ赤にするミサトに、リュウコクは愉快そうに肩を竦めた。
潮風と笑い声が交じり、甲板には奇妙な安堵感が漂う。
港の松明はもう遠い。代わりに頭上では星々が瞬き、自由の道を照らしていた。
◇◇◇
やがて夜明けとともに、船はラインハルトの港へと戻った。石造りの防波堤が見えたとき、マリーが思わず拳を握った。
「ここでいいんだな? やれやれ、やっと一息つけそうだな」
桟橋に降り立つと、リュウコクは振り返り、笑みを見せる。
「さて、僕はやることがある。ラインハルトに戻るよ」
ミサトは驚いたように目を丸くした。
「えっ……帰っちゃうの??」
「ふふふ、心配するな。どんなに忙しくてもミサトのことを忘れるわけがないさ」
「ぬぐっ……っ、そ、そういう恥ずかしい事をサラッとよく言うなぁぁ!」
「ふふふ、また遊びに来るからそれまで待っててね☆」
リュウコクは軽やかに手を振り、部下を連れて王国の街並みに消えていった。
ミサトはため息をつき、マリーに微笑む。
「ふぅ〜、、ん〜……それじゃ私も湯ノ花に帰るかな。みんな待ってるだろうし…。マリー達も一緒に来る?」
「んっ?……いいのか?」
「もちろん! みんなで温泉入ろっ!」
「温泉!?あるの??やったー!入る入る!!」
マリーは目を瞬かせ、すぐに笑って頷いた。
◇◇◇
湯ノ花の里に戻ったとき、マリーは石畳の広場で目を剥いた。
「なっ……なんだこれ!? 村じゃねぇ! まるで国じゃねぇか!」
行き交う人々がミサトに頭を下げる。
「あらっ?王様、お帰りなさい!」
「えっ……お、王様??女王ぉ!?」
マリーはその場で崩れ落ちそうになった。
「おい、聞いてないぞ!? お前……女王だったのか!?」
「えへへ、まぁね。成り行きでね……驚いちゃった??」
「驚いたどころじゃねぇっ!!」
マリーの絶叫に、周りの村人たちがどっと笑い声を上げた。
◇◇◇
そして湯ノ花の門をくぐった瞬間、エルナが飛び出してきた。
「ミサトさ〜ん! 本当にご無事で……!急に出て行っちゃうから…。お帰りなさい」
後ろからカイルが腕を組み、、
「どーせ、また厄介ごと抱えて帰ってきたんだろうな」と苦笑する。
ゴブ次郎とゴブ太郎は顔を見合わせ、同時に胸を張った。
「ボス!シュッチョウお疲れ様!」
「がははっ!無事に帰って来たなら安泰だ。それとゴブ次郎。出張な。お帰り。ミサト」
ミサトはみんなを見て思わず吹き出す。
「ただいま〜。でも、安泰かどうかはまだ分からないよ?」
その光景を見たマリーと船員は、、
「ゴ、ゴ、ゴブリン??人間とゴブリン!!あとあそこ歩いてんの……エ、エルフ??」
湯ノ花の里の状況に目をまん丸にさせて驚いた。
◇◇◇
一方その頃、ラインハルト王国。
王城の前に、旅装を解いたリュウコクの姿があった。
少し遅れて、肩に傷を負いながらも元気なカリオスが帰還する。
リュウコクは歩み寄り、労わるように声をかけた。
「……お疲れ様。大変だったろう」
カリオスは大笑いし、肩を叩く。
「いやぁ、いい汗かいたわ! 久々に骨のある殿ができたぜ!」
二人の笑い声が、城下に響いた。
◇◇◇
こうして、アルガス港での一件はひとまず幕を閉じた。
しかし、宮殿の椅子に座るバレンティオの杯はまだ空にはならず、その笑みは次なる戦いを予兆していた。
続




