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第12話 【殿と王子 剣を振るう時】

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 港を包囲する兵たちの槍先が、月明かりを反射して無数の銀の刃となる時。波の音さえ飲み込むその静寂の中で、リュウコクは片手をわずかに挙げ、何かのサインを出す。

 その仕草を見逃さなかったのは、ただ一人カリオスだった。


 鋼の瞳で頷いた彼は、十名の私兵を振り返り、低く問う。

「お前達、、家族がいる者は、手を挙げろ」


 一瞬の間。だがほとんど全員が迷いなく手を挙げた。震える者もいたが、その指は確かに天を指していた。

 カリオスは、口角を吊り上げて笑った。

「よし。じゃあ、手を挙げなかったその二人は俺と残れ。……残りは王と家族のもとへ帰れ」


 私兵たちの顔に驚愕が走り、やがて安堵の色に変わる。誰もが胸に手を当て、静かに頭を下げた。


 その光景を見ていたマリーは、何かを察したのか振り返り、船員に叫ぶ。

「おい!お前ら船を用意しろ!すぐだ!!」

 怒号に近い命令が飛ぶと、船員たちは蜘蛛の子を散らすように走り去った。


「えっ?えっ?な、なに? なにが始まってんの??」

 きょとんとするミサトに、リュウコクが笑みを浮かべて振り返る。

「よしっ、逃げるよ。ミサト」

 そのままリュウコクはミサトの手を掴み、勢いよく駆け出した。


「ちょ、ちょっとぉ!? 何勝手に走ってんの!? てか、手ぇ掴むな!緊張して今、手に汗かいてるから!!恥ずかしいって!」

『はい。ミサト。拒否率二割、承認率八割。これはほぼ喜んでますね』

「くそリリィ!!心覗くなってぇぇぇ!しかも喜んでないわぁぁぁぁっ!!」


 追撃に動こうとした兵たちの前に、カリオスが仁王立ちとなる。

 桟橋を塞ぐその姿は、まるで鋼鉄の壁。

「、、行け!リュウコク!! 殿しんがりは俺に任せろ!!」


 走りながら、リュウコクが振り返る。

「ふふ!ありがとう、カリオス。必ず生きてまた会おう」

「あははっ!おうともよ!! 殿を任されたからには、この命、好きに使わせてもらう!!」


 そのやり取りに、バレンティオは鼻で笑い、杯を掲げた。

「まぁ、、鼠が逃げることなど想定内よ。……花火を上げろ」


 次の瞬間、夜空に紅い閃光が咲いた。バーンと轟音とともに上がる合図。

 市場の方角からは兵士たちの足音が雪崩のように押し寄せてくる。


◇◇◇


 石畳の路地を、リュウコク、私兵、ミサト、マリー、そして船員たちが全力で駆け抜ける。

 露店の布がはためき、樽が転がり、犬が吠える。市場は一瞬にして修羅場と化した。


「みんなこっちだ! 船はこっちに用意させてる!」

 マリーが声を張り上げ、狭い路地を先導する。


 息を切らせながらも、リュウコクは笑い声を上げた。

「あははっ!! やっぱりミサトは予測不能だね。まさか、こんな手札を隠してるとは!この展開は想定外だったよ!」


「……っもう! この人、ほんと緊張感ないんですけど!!捕まったら殺されるっての!!」

『はい。ミサト。データ更新。リュウコク=非常識度95%。緊張感の欠如により仲間のストレス増加』

「今そういうデータいらないからぁぁぁ!!」

『はい。ミサト。しかし、こういう人物こそリーダーに向いているのです。ミサトが惹かれるのも自然な流れですね』

「なななっ!?なぬっ!? 惹かれてないしっ! 恋してないってばっ!!」

『はい。ミサト。顔温度上昇3.4度確認。これは明らかに惹かれてますね』

「黙れぇぇぇっ!!今走ってるからだろうがぁぁ!」


 叫ぶミサトの声が夜に響く。だが足音は止まらない。


◇◇◇


 やがて港近くの広場に飛び出した瞬間、、

「今だっ!囲めぇぇっ!!」

 バレンティオの傭兵たちが四方から雪崩れ込み、一行を包囲した。


 剣を抜く傭兵たちに囲まれ、船は目前にあるのに距離が遠い。

 リュウコクは一歩前へ出て、静かに振り返った。

「ミサト、みんな、先に乗ってて。必ず行くから☆」

 そう言ってウィンクする。


「ばっ……!? ふざけないでよっ!! 一緒に行くに決まってんじゃん!早く乗りなよ?!」

『はい。ミサト。ここは“ヒロインらしい反応”として正解です。私少しキュンとしちゃいました』

「いらん解説すんなぁぁぁ!!お前も少しは緊張感をもてぇぇぇいっ!!」


 リュウコクは短く笑うと、剣を抜き放った。

 その一閃は、月明かりを裂く光。


「あはは、、……剣が振るえない王だと思ったのかい?君達……??」


 次の瞬間、彼の剣は舞うように動き、傭兵たちを一人、また一人と切り伏せていった。

 その動きは流麗で、しかし容赦なく。兵たちの顔に恐怖が広がる。


◇◇◇ 

 

 同時にカリオスも吼えるように突撃していた。

「ところで君達?つまらん事を聞くが、、 二メートル超えのゴブリンと戦ったことはあるか!? 俺はあるぞぉぉぉぉ!!!」

 その一撃ごとに槍が折れ、傭兵たちが吹き飛んでいく。


◇◇◇


 リュウコクが次々と敵をなぎ倒していく。

 その様子にミサトは思わず口を開けた。

「ちょっと……なにあれ。リュウコクってあんな強いの??これ…映画みたい……!?」


『はい。ミサト。現状を説明します。リュウコクはまるで“ナポレオン”。奇襲と大胆さで場を支配する指揮官ですね』

「ナポレオン!? あんなに笑いながら“奇人の様に剣振り回す人”だったっけ!?」

『はい。ミサト。いえ、史実のナポレオンは笑いながら突撃していません』

「なら例えが雑すぎるでしょ!!私が知らないと思って!」


『はい。ミサト。一方、カリオスの戦いは“レオニダス”。三百のスパルタ兵を率いて峠を塞いだ英雄と同じ。圧倒的に不利な状況でも退かない殿の精神を体現しています』

「えっ?アイアムスパルタァァァの人!?映画見たよ!? 確かに体格は似てるかも……って、納得してる場合じゃないし!!」

『はい。ミサト。結論、、歴史的偉人二人分の戦力が味方についてます。ミサト、安心して叫んでいて大丈夫です。無事に帰れそうですね』

「軽く帰れそうとか言ってくれてんなよっ〜! 家に帰れるまで安心できるかぁぁぁっ!!」


 圧倒的な二人の剣舞。ミサトの強烈なツッコミ。

 港の夜が赤々と染まり、兵士たちは恐怖と混乱に陥っていた。



            続


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