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第1話 【新王の初仕事はプロポーズ!?】

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 湯ノ花の空は高く澄み渡っていた。国王軍との籠城戦の喧噪が去り、ようやく訪れた静けさに、人々はまだ慣れずにいる。折れた槍を片づける者、焼け落ちた柵を組み直す者、負傷者の包帯を替える者……。それぞれの手が確かに未来へと伸びていた。


 その日から一週間、、、。

 城の前に再び人々が集められた。理由はただ一つ。リュウコクが《王》として即位を宣言するためだった。


 高台に立った若き王子の姿に、人々はざわめき、そして拍手と歓声が広がる。

「リュウコク様万歳!」「これからのラインハルト王国に栄光あれ!」

 まだ顔には戦いの傷(ミサトに殴られた傷)が残っていたが、それはむしろ若き指導者の勲章として、民の胸に深く刻まれていた。


 リュウコクは胸を張り、声を張り上げた。

「我が父、国王から王位を譲られ、このたび新たにラインハルト王国を治める者となった! ここに誓おう。この国を、人々を守り、より良い方向に導くことを!!」

 民衆は大きな拍手を送る。だがその次の瞬間、リュウコクの言葉が全てを吹き飛ばした。


「そして! ここで皆に宣言する! 湯ノ花の里を国と認め、友好国とし、そして!英雄ミサト! 僕と結婚してくれ!!」


 、、、シーン。


 場が凍り付く音がした。

 人々は固まり、兵士たちは顔を見合わせ、ゴブリンたちは「え?」と目を丸くする。


「はぁああああ!?!?あいつ何言ってんの??」

 一番大きな声をあげたのは、もちろん当の本人だった。ミサトは顔を真っ赤にして跳ね上がる。

「なっ……なに言ってんの!このバカ!! ここ国の公式イベントでしょ!? みんなの前で!? あんた正気!?」

 リュウコクは真剣な目でまっすぐに彼女を見ていた。

「僕は本気だ! 君しかいないんだ!」


 場内は再び静まり……次の瞬間、爆発した。

「ぷははははっ! 新王の初仕事がプロポーズかよ!」カイルが腹を抱えて笑い出す。

「がははっ!なんだぁ? 英雄ミサトもついに王妃か?」とゴブ太郎が冷やかす。

「いやいや、まだ承諾してないから!」ミサトは全力で否定するが、顔はさらに赤い。


 ただ一人、冷静だったのはリリィだった。

『はい。ミサト。確認ですが、求婚に関する書式はまだ未整備ですので、この宣言は法的に無効となります。今後は婚姻届のフォーマットを整えたうえで再申請してください』

「リリィうっさい!!みんな楽しんでんじゃないわよっ!!」ミサトが叫ぶ。


 人々は笑い、歓声は「王と英雄の結婚話」一色に染まっていく。

「いやいやいや! 違うから! 私の意思を勝手に決めるなぁぁぁ!!」

 ミサトは耐え切れず、城門から逃げ出した。


◇◇◇


 混乱の渦を背に、ミサトはひとり港へ向かっていた。

 そこには、湯ノ花の里籠城戦で共に戦った仲間、、港の書記官ルディアがいる。

「本当にあいつらバカじゃないの??いきなり結婚とか…まずは手を繋いでデートしてからだろがいっ!!」

 ミサトはぶつぶつと独りごちりながら港町を歩く。

 

 港町は戦の影響で一部流通が荒れたものの、もう荷馬車が行き交い、商人たちが声を張り上げていた。そんな中、整った制服姿のルディアが帳簿を抱えて立っていた。


「あっ!?ルディア!」

 呼びかけると、彼女は振り返り、涼やかな笑みを見せた。

「おや。お久しぶりですね、ミサトさん」


 ミサトは深々と頭を下げた。

「ありがとう。本当に……あなたがいてくれなかったら、あの籠城戦での戦いは絶対に勝てなかった」

 ルディアは軽く首を振る。

「ふふふ、礼など要りません。私が動けたのは、あなたが私なら出来ると信じてくれたからです。……それに、湯ノ花が残れば港の商人たちも助かりますから」


 ルディアはふと声を潜めた。

「ですが、、これからが本当の試練ですよ。国に認められた以上、、“政治は戦より厄介”です」

 その目は冗談ではなく、冷徹な現実を見据えていた。

 ミサトは背筋を正し、力なく笑った。

「やっぱそうだよねぇ……。戦争の方がまだシンプルだよ……。私のやり方で湯ノ花が飢えたり、潤ったり……」


 ルディアは頷きながら帳簿を一冊取り出し、ミサトに差し出した。

「ちなみに、、前回の国への食料差し押さえにかかった経費、こちらです」

 ぱらりとめくった瞬間、ミサトの顔が引きつる。

「ありがとう。……え、うん。けっこう……かかったね……。想像以上に桁が多いんですけど!?」

 ルディアは涼しい顔でニコッと答えた。

「ふふ、戦に勝つには必要経費です。たくさん賄賂をばら撒きました」

「ふんぐぅぅぅ!賄賂を必要経費って言って済ませるのやめてぇぇぇ!」


◇◇◇


 湯ノ花へ戻ると、待ち構えていたのはやはりリュウコクだった。

「あっ!ミサト!」

 彼は人目もはばからず駆け寄り、真剣な目で言った。

「君がいなければ、僕は王でいられない! だから、、そばにいてくれ!」


 その迫力に、ミサトは一瞬言葉を失う。

(や、やば……真剣眼差し真っ直ぐにハンサム過ぎ…。ちょっと惚れそうになった……! でも違う! 絶対コイツ、私に残業増やすタイプだ!!)

 心の中で絶叫し、彼を突き飛ばす。

「はぁぁぁ!? あんた、まず自分のとこの国政の帳簿整理やんなさいよ!!」


 リュウコクは首を傾げる。

「帳簿?? ……そんなもの、君がいれば解決だ!」

「いやいや!!解決するかぁぁぁ!!!はよ!家帰れぇぇぇぇ!」


◇◇◇


 その夜。ミサトは帳簿の山にうずもれながら、頭を抱えていた。

「残業代ゼロで徹夜とか……これブラック国家だよ……って、私が一応湯ノ花の里の王になったのか…」

 リリィが横から淡々と口を挟む。

『はい。ミサト。現在、湯ノ花の里には労基署は存在しませんので、訴える先はありません』

「おおぉい! AIまでブラック寄りとか!すぐに労基作るしかないか??あれっ?みんなが相談に来たら私に来るのか??」

『はい。ミサト。そうですね。でもご安心ください。ミサトが倒れた場合は私が遺言を代筆します』

「うんうん。ありがとう。って!!それ安心じゃなぁぁぁい!!リリィ適当な事書きそうだから、“遺書”って小説でも書いて残しとくわっ!!」


 二人の相変わらずの掛け合いが響く湯ノ花。

 国政の火消しと恋の火花が同時に燃え上がり、湯ノ花の里の新しい日々が幕を開けたのだった。



            続

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