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第51話 【三つ巴】

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 国王は荒い息を吐きながら、なおも前へと進んでいた。

「我が行く! 我自らが門を打ち破ってみせる!怠けたお前たち!!ちゃんとついてこぉぉぉい!!」

 その怒声は、疲弊しきった兵たちの耳に、罵声にも似て響いた。


 二十日を超える籠城戦、、。湯ノ花の里からは一向に攻撃が出てこず、逆に自軍の兵糧が底を突きかけていた。補給所にはもはや乾いた豆と硬い乾パンしかなく、兵士たちは日に日に頬をこけさせている。


 それでも王が剣を抜き、先頭に立てば、兵は従うしかない。誰もが心の底では「無謀だ」と思っていながらも、背を向ける勇気は持てなかった。王の命令に背けば、その場で斬られる。それを知っているからだ。


「前へ! 死んでも城門を開けるのだ!」

 苛烈な叱責と共に鞭のように言葉が飛び、士気は上がるどころか地の底へ落ちてゆく。


 矢の雨が城壁から降り注いだ。盾を掲げるも、既に疲れ切った腕は重く、声なき呻きがあちこちから漏れる。

「おいっ!矢など気にするな!我の盾となり前にすすめぇぇぇぇ!!」


◇◇◇

 

 湯ノ花の城壁上、ミサトは冷静にその光景を見つめていた。

「うわぁ〜……すっごいこと言ってんねぇ〜。でもついに来たね。国王が前に出てきた」

 その声は小さかったが、確かな決意を帯びていた。


 リリィが横で淡々と告げる。

『はい。ミサト。予定通り。作戦通りと言った所でしょう。兵たちの心は既に折れています。ここからは王を押さえれば決着となるでしょう」

「うん……よし!じゃあ準備しよっか♪」

 ミサトはぐっと腕を組み直し、視線を前線へと向けた。

 

 ミサトはみんなを見て深く息を吸い込んだ。

「……ここまで、みんなが本当に頑張ってくれて、ありがとう。エルフも、ゴブリンも、村のみんなも。だから、、ここからは私の番だ!」


 その言葉に、リリィが光を瞬かせて答える。

『はい、ミサト。あなたが出る時が来ましたね。これまでの積み重ねを、決して無駄にはしません』


「お、おい待てよ!本当に、、本当に行くんだな?!死ぬかもしれないぞ!?」

 カイルが慌てて声を上げる。

「私の番だとか言うけどな、ミサトは里の頭だろ!?倒れたら全部終わりなんだぞ!」


 ミサトはにやりと笑った。

「ふふっ!だからだよ、カイル。私が出れば、全部終わらせられる。……信じて」


 カイルは舌打ちをして、肩を落とす。

「ったく……お前の言う事は毎回心臓に悪いんだよ……でも、不思議と外れる気がしねぇんだよな」

「あははっ!カイルは私のこんな無茶が好きで湯ノ花の里に就職してきたんでしょ☆また面白いの見せてあげるよ〜ん!あははっ!」

 リリィがくすりと笑う様に言う。

『はい。ミサト。そうですね。それにご安心をカイル。ミサトの勝率は、あなたの今の血圧よりも安定していますから。カイル…意外にも緊張してるんですね』


「うっ、うるせぇー、そんな比較いらねぇよ!この場面で緊張しないって、、肝座りすぎなんだよっ!!」

 カイルの叫びに、ミサトの笑みはさらに強くなった。


◇◇◇


 その時だった。

 遠方、高台から馬の蹄の音が鳴り響いた。地鳴りの様な音が戦場を震わせる。


「な、何事だ!?湯ノ花の援軍かっ!?」

 国王が振り返るより早く、山の斜面から土煙が舞い上がった。

 二百の兵が、矢のごとく駆け下りてくる。槍を前に突き立て、獣のような咆哮をあげて。


「あ、あれは!リ、リュウコク王子だ!?」

 混乱が走った。次の瞬間、鋭い槍が魚鱗の横腹を突き破った。堅牢であるはずの陣形は、側面を穿たれるとあっさりと瓦解し、兵は次々と倒れ、血と叫びが大地を染める。


「押し潰せ! 王の背を裂け!」

 カリオスの怒号が響き、リュウコクの兵たちはさらに勢いを増した。

 国王軍は混乱に陥り、互いを敵と錯覚して刃を交える者すら現れる。


「なぜだ!?なぜこちらに刃を向ける!? 息子なら余を守れ! 馬鹿どもも我を守らぬか!」

 国王の声は、空しく響くだけだった。兵たちは背を向け、誰もが自分の命を守ることに必死だった。


 孤立した王の前に、堂々と一人の青年が姿を現す。

 黄金の装飾を施した鎧、冷ややかな眼差し、、王子リュウコクである。

「やぁ!父上??お散歩中でしたかな?? あははっ!  さあ……バカ親父、、国を貰うぞ!!」

 その声は冷徹で、戦場のざわめきをすべて呑み込んだ。


 国王の顔が蒼白に染まる。

「き……きぃさぁぁまぁぁぁ!!裏切りおったな!!」

「裏切り? やめてよ!人聞き悪いって!父上はただ、今日終わりを迎えただけだ」

 リュウコクの剣が太陽のように煌めいた。


 リュウコクが振り下ろした剣を受け止める最中、国王の目が見開かれた。

「リュウコク……! 貴様、我が子でありながら、父を裏切ると言うのだなっ?!」

 リュウコクは冷笑を浮かべ、刃を押し込む。

「だ•か•ら〜……裏切りじゃないって! 違うよ、父上。あなたが国を飢えさせた時から、国民はもう父上を見限っていた。ただ、それを僕が代弁してるだけさ。父上にこの国を任せていたら、いつかこの国は終わるんだ!そう……今日みたいにね」


 その時、城門が軋みを立てて開いた。鉄が擦れる重い音。

 そこから現れたのは、湯ノ花の面々たち。

 ゴブ太郎、ゴブ次郎、カイル、リュシア、エルナ、各村の代表、、そしてミサトだった。


 ミサトは無言でリュウコクを見据え、深く吐息をついた。

「ふぅ〜、、……みんな、あんたの仕業だったんだね〜。こっちを巻き込むなっつーの!」

 リュウコクは笑みを浮かべる。

「はははっ!気付いちゃった?? 君は小さな村をまとめ、ゴブリンにエルフまで従えた。君のやってることは、まるでおとぎ話の国造りだ。このバカ親父が何年かかっても出来なかったことを、君はやってしまった。だから利用させてもらったんだ」


 湯ノ花、国王軍、そしてリュウコク軍。

 三つの勢力が、城門前で睨み合う。


 リリィがぼそっと呟く。

『はい。ミサト。……やっぱり顔が整ってると、悪役やってても歪んで見えませんね』

「リリィ。空気読んで…」

 ミサトは苦笑した。戦場の只中であっても、皮肉と冷静さを失わないリリィのAIっぷりにほんの少し救われる気がした。


 リュウコクから国王は必死に距離を取り、剣を構え直す。

「貴様らっ!!我を誰と心得るか! この国の王だぞ!」

 だが、誰も応えはしなかった。


 三つ巴の影が、戦場に濃く落ちていた。



            続


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