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逆転世界はもうどうしようもない  作者: あああああ
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全然血筋関係ないな?

 

 

 家の中に八人。

 名のある士官だった母さんの稼ぎや父さんに貢がれた財産で購入された俺の家はそこそこ広い。

 とは言え四人家族にしては広いというくらいで、これだけの人数が集まれば手狭に感じる。


 ということでルナを膝の上に乗せて話を聞く。


「ねえ、あとで代わって」

「ギルさんのベッドに潜り込む権利をくれたらいいですよ」

「……ヤダ。お兄ちゃんの妹は私だけだし」

「そういうことです。むふー」


 二人は年が近く言い争うことも多いが、なんだかんだ仲良くなっているようで何よりだ。


「ボクもまた一緒にお昼寝したいなぁ、なんて。ダメかな、ギーくん?」

「暇だったらな」

「いいの!? えへへ、じゃあギルベリタも一緒にどう?」

「……スクリータのそういうとこ、好きだけど嫌い。お兄ちゃんを独占したいとか考えないの?」

「ギーくんを奪わないなら何でもいい。ボクは一緒にいられるだけで充分だよ」

「ふーん」


 儚げに微笑むスクリータ。

 ギルベリタは胡散臭そうに目を細めた。


「本音は?」

「リアさんに教えてもらったの、ギーくんは草食系女子が好きなんだって! ギーくん、ボクこれから草食系になるの!」

「そうか、頑張ってな」

「うん!」


 スクリータは本当に真っ直ぐだなぁ。

 ただの都民だから教育を受けていないとは言え、ここまで馬鹿――素直に育つとは。


「ギルベリタ、スクリータ。あなたたちと違ってあたしたちはどんな話がされるのかも分かってないのよ? 放り出して雑談を始めないでちょうだい」

「はーい」

「あとあたしも昼寝に混ぜなさい」

「あ、それなら僕も」

「では私も」

「司教様はさっさと話を始めてください」


 薄桃色の髪を揺らし、キラキラと赤の目を輝かせる司教様の言葉を切り捨てる。

 あ、しょんぼりした。


「それでは、お話しいたします。『水面の金月』改め『涙残月輝』の皆には、新たな依頼が下されています」

「依頼? 誰から?」


 冒険者の業務には三種類ある。

 一つは誰もが請け負える仕事で、普通はギルドから提示される幾つかの中から選ぶ。原則として上の階級の仕事は受けられない。

 もう一つはこのような依頼。相当に高名な冒険者が指名されることでほとんど強制的に請けさせられる。余談だが、指名するには最低でも貴族以上の権力が必要になる。

 最後の一つは従軍だ。西方或いは北東の戦況が悪化することで発動する最後から三番目くらいの手段だ。


 その中で二つ目の依頼。

 ティアに視線をやると、彼女は首を全力で横に振るセルウィタへと射殺さんばかりの視線を向けていた。

 まさかセルペンス家の――。


「依頼主はキサラ様、そして法皇様の連名です」

「法皇様? 法皇様って、あの?」

「……ティアさん、すごく嫌な予感がします」

「奇遇ね、あたしもよ」


 法皇。教皇を除けば、教会のトップ。

 選帝侯によって選出される存在であり、法治の大部分を管轄する人間種代表のような人だ。


「依頼内容は――『嫌悪』の聖女と共に東方領の戦線支援を行い、また、『冷笑』の神族であるファトゥス様を護衛すること」

「『嫌悪』の聖女が、どうして聖都を離れるのよ」

「中央区で療養している聖女様方は? 確か二人いるはずでしたよね?」

「お二人とも、戦況の悪化により儚くなられています」

「……聖女が?」


 東方領で活動していた頃ですら、そんな噂は聞いたことがなかった。聖女が敗れたなどと、そんなことが世に広まれば必ず耳に入るだろうに。

 箝口令を敷くほどには余力が残っている、のだろうか。形振り構わず戦力をかき集めるほど窮してはいない、それなのに聖女という貴重な戦力を失っているのか?


「初めからきちんと申し上げましょう。皆は魔物についてどこまで知っていますか? 特に、その成り立ちについて」


 リアを見る。

 常識は所々抜けているが、冒険に人一倍の情熱を捧げているだけあって、こういうことには詳しい。


「『破壊』の創造神様であるメリス様によって創られた存在で、元は命や体すら持たない概念的な存在だったらしいね。その一つが源流となって今の魔物がいるとか」

「ええ、その通りです。では、何故魔獣や獣魔などと呼ばれる獣に似た魔物がいるのかはご存知ですか?」

「……分からない」


 魔獣。ファトゥスの一つ前に受けた依頼で俺たちはトカゲのような魔物を倒した。

 しかしどうして魔物が獣のような形をしているのだろうか。

 考えたこともなかった。


「『情動』や『知識』が八つに分かれているように、『破壊』もまた八つに分かれています。そのうちの一つ、『混沌』は『秩序の破壊』を司るものです」

「『秩序の破壊』……」

「その特性は被造物の模倣。魔物は獣の体や命を模倣したことで、今のような姿形に至ったということです」


 知能の欠片も感じられない魔物にそのような機能があったとは。


「模倣の対象は『破壊』行為が成立した相手のみ。人間種や精霊種の模倣は微々たるもので、今まで獣以外の魔物が発見されたことはなかったのですが……」

「五百年前の大侵攻ですか」


 メリスが魔物に注目し、メアの相手をしなくなった原因。

 西方に聖都を遷都する事態すら招いた五百年前の侵攻では、人間種や精霊種の多くが『破壊』されたはずだ。

 であれば当然、人を真似た魔物が出現するわけで。


「知能を持った魔物――魔人或いは邪霊と呼ばれるものが一部魔物の統制を始め、それによって予想外の反撃を喰らい、二人の聖女様が殉教の徒となっていたようです。これが四年前のことだと」


 四年前。四年前と言えば、『泣血』の聖女が北東領の前線に参戦した時期だろう。その頃から教会の戦力はギリギリだったのだろうか。


「キサラ様の『嫌悪』は、代々の『嫌悪』の聖女様方とは違い、安定した出力と規模を持っています。留めておくには惜しい人材でしょう」

「それで、キサラが俺たちを指名したわけか」


 事後処理会議の時、スクリータやギルベリタがついてくると言わなかったのは、負けた後にどうなるかを察していたからだろう。


「一度検討するという形で先送りにすることもできますが」

「ううん、請けるよ。――すっごく冒険らしいし!」

「でしょうね」


 迷いのない決定にティアが溜息を吐いた。

 まあ、もう、リアはそういうヤツだ。


「東方領の戦闘支援ってことは、僕らの街で一旦ゆっくりしてもいいのかな?」

「そうなると思うよ。支援に送られるのはキサラだけじゃないらしいし、お兄ちゃんたちは結構待たされるかも」

「せっかく買った屋敷をこれ以上腐らせておくのももったいないし、良い機会だな」

「リアさん、飾り付けはみんなでやりますからね」

「ふんっ。どうせ僕はセンスないからいいよ」


 しれっと変わっているパーティー名。

 リアの草案は『剣弓鎚魔』である。

 『チームミナシゴ』と比較すれば随分と成長しているものの、装飾や個人を指すものがなくて寂しい――という俺とルナの評価を斬り捨て、ティアは率直に「語彙が壊滅的」「安直」「そもそもセンスがない」とリアをズタボロに打ちのめした。


「じゃあボクもついていっていい? ギーくんのベッド一緒に選んであげるの!」

「それは私の役目だから。お兄ちゃんのベッドを一番使うのは私だし」

「俺のベッドを一番使うのは俺だよ」

「それはどうかしらね?」


 なにっ。


「やっぱり、僕も行く」

「おお、どんな風の吹き回しで?」

「独占欲。ティアとかルナには感じないけど……それ以外は、ちょっと嫌だから」

「ティアさんティアさん、今私たち警戒に値しないって言われませんでした?」

「事実よ、受け入れましょう」

「二人はなんでそういう、いや、まあいいか。それも間違ってないし」

「むきー!」


 こらこら、暴れるでない。

 ルナが振り回す腕は俺を殺しうるのだぞ。


「なるほど。やはり結局の所お嬢さ――ティア様は未だクソ雑魚でいらっしゃるのですね」

「あたしの剣が鞘から抜けないと思ったら大間違いよ?」

「訂正いたします。対異性クソ雑魚でございますね」

「……セルウィタだって独り身じゃない」

「私めはクーラ家の者でございますから。結婚願望などは十六の頃に捨てました」

「その時期に捨てるのは諦めたって言うのよ」


 全然血筋関係ないな?


「クーラ家と言いますと、貴族の方……それがどうしてティアに……?」

「司教様、窓の外に俺様系サド御曹司がいます」

「少々席を外しますね」


 即座に家を飛び出して行った司教様。

 少し経ってしょんぼりして帰ってきた。


「……慰めは売っていませんか?」

「結婚できなくても幸せになれますよ」

「それは追い打ちと言うのです」


 司教様が手を差し出す。

 ぽんと俺の手を乗せてやると、非常に気色の悪い視線が五指を伝った。

 これで慰めになるのだから恐ろしい。


「司教様司教様、ギーくんの指は美味しいよ」

「……口に入れると? しかし、それでは穢してしまいませんか?」

「ギーくんの指は神様か何かなの?」

「ふむ。いずれにしろ一度味わってみなくてはなりませんね。では失礼して」

「するな」


 あーん、と口を開ける司教様の下から手を引っ込める。

 膝上のルナに威嚇を頼めば「ふしゃー!」と頼もしい声が聞こえてきた。よしよし、ルナはかわいいなぁ。


「なんか流れたから纏めておくけど。僕らはキサラと東方領に帰って、面子が集まり次第戦線の支援に動く、ってことかな?」

「そういえば、司教様は?」

「同様に戦線の支援を頼まれましたが、皆とは東方領で暫し別れることとなります。それまではご一緒しますよ」


 別口の指令だろうから仕方ないな。


「悪印象を払拭するため、即座に動くと返答したのですが……大司教様からは『魔物も行けるのかー、そっかー』と遠い目で愛想笑いをされてしまいました」

「上司からすらそんな扱いなんですね」


 それで『自責の魔法』が成長するのだから、両者どちらにしてもやるせないことだろう。


「うん。それじゃあ、復路もよろしくお願いします」

「勿論です」


 大所帯になってきたなぁ。


 ルナの頬を横からつつくギルベリタや鬱陶しそうなセルウィタに構わず話しかけ続けるスクリータを見つつ、俺は平和の幸福を噛み締めた。

 この仕事で少しの間失われるとしても、また取り戻すことができると信じて。

 

 

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