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逆転世界はもうどうしようもない  作者: あああああ
15/27

頬をぐにぐにしてみても

 

「聖都ってどんな所なんですか?」


 道すがらルナがそう言った。

 どう言ったものかと頭を悩ませるのは、俺とティア、司教様だ。

 ギルベリタは現在俺の右肩に寄りかかって熟睡中。


「簡単に言うと世界一安全な場所だな」

「世界一、ですか?」

「ギルが使う『嫌悪の魔法』は知っているわよね。聖都は都市全体にそれを張り巡らせる聖女が代々常駐していて、絶対魔物が侵入しない安全地帯になってるのよ」

「聖女……魔法の適性を最大数持ってる魔法使いのことだっけ? ギルに教えてもらったことだよね」


 ふんふん、とルナが頷く。


「そして教皇様がいらっしゃいます」

「政治の中心地で、学問や研究が最も盛んに行われている場所だ」

「政治ですか」


 ルナが横目で元貴族のティアを見る。


「選定侯の方々の多くがいらっしゃるから、必然的に物流や経済も活発になるわ。……あと、

あたしの名前はティアよ」

「ええと、分かっておりますよ……?」


 念押しするティアとその意図を測りかねる司教様。

 リアやルナが曖昧に笑った。


 創造神メアの信仰とその教えに基づき人々を導く教皇。

 選定侯と呼ばれる者はその名の通り、教皇を選定する権利を持つ者という意味だ。


 ちなみに選定『侯』と呼ばれるが、領主諸侯はむしろ少数で、聖女や大司教に多くの選定権が与えられているため、貴族の立場は弱い。

 あくまで貴族は統治の下請けであり、教会が治安と律令、国政を司るという形態がよく反映されている部分だと言えるだろう。


「俺としては聖女に興味があるなぁ」

「ギルさんって魔法大好きですからね」


 都市一つを覆うほどの大結界を作るだけの腕前。


「得意分野では神族にすら敵うと言われてるくらいだ。興味が出ないわけない」

「……聖都にいる『嫌悪』の聖女以外にも聖女っているの?」

「そうだなぁ、俺たちがいた東方領で名高いのは『安心』の聖女か。北東の禁足地帯で魔物と戦闘を繰り返している『泣血』の聖女も有名だな」

「『泣血』?」

「ええ、『悲哀』の強派生と呼ばれる感情です。『悲哀』を得意とするあの方は強派生の『泣血』や弱派生の『憂患』を好んでお使いになるので、そちらが通称となっていますね」


 司教様の言葉にルナが目を泳がせた。

 言われたことの半分も飲み込めていない顔だ。

 ストイックで勉強が得意なリアや下地のあるティアとは違って、ルナは魔法に親しみがないからだろう。


「俺も学生時代は『無聊』のギルバートと呼ばれたものだ。『無聊』は『嫌悪』の弱派生で、ちなみに強派生は『憎悪』……」


 ボンッ、と音が出て、ルナは口から煙を出した。

 例の如くファトゥスが笑う。


「所詮は村娘って感じ~」

「お前は村ですらない未開の山生まれだろ」

「ぎゃふん」

「まあとにかく、色んな聖女がいるってことだね」


 リアが意識を失ったルナの頭を膝の上に乗せつつ雑に纏めた。

 膝枕か。ちょっとされてみたいな。


 頭に過った欲望を押し込み、思考の焦点を聖都に戻すことで押し流そうと努める。


「『嫌悪』の聖女、か」


 古い魔法学校の記憶を思い出す。

 もう名前も覚えていないが、『嫌悪の魔法』に最も長けていた女子生徒が同級生に一人いた。

 彼女は既に三つの適性を持っていて、残り一つ、『安心』か『悲哀』のどちらかが目覚めれば聖女になれるという優等生だった。

 それなのに遠巻きにされていて、少し話してみたことがある。


 そいつが無事に目覚めて聖女となっていれば、次の『嫌悪』の聖女を務めることだろう。

 『嫌悪』の適性だけで言えばピカイチだったからな。


 それで、確か今の『嫌悪』の聖女の、名前は――。


「キサラ・デミット」


 ギルベリタが言った。


「キサラ……?」

「『嫌悪』の聖女の名前。一年前くらいに代わったんだよね」


 よいしょ、と座り直してより俺に密着するギルベリタ。

 眠っているとばかり思っていたが、どうやら既に目が覚めていたらしい。


「東方領にいたお兄ちゃんはやっぱり知らなかったんだね。そっか、代替わりのことさえ伝わってなかったなら、仕方ないか」

「何の話を……」

「聖都に着いてからのお楽しみに取っておいて」


 ギルベリタはそれきり再び目を閉じた。


「気になるならファトゥスちゃんに任せてみない? 妹ちゃんもす~ぐ素直になっちゃうよ」

「一応聞いておくが、どうやって吐かせる気なんだ」

「正直に答えなかったらギルくんにキスするって言えば――ぶべらっ!?」


 目を瞑っていたギルベリタの鋭い蹴りによって、ファトゥスは馬車の外へと吹き飛ばされていった。

 司教様は少しの間外を眺めていたが、神族なら大丈夫だろうと結論付けたらしく、中に視線を戻した。


「お兄ちゃんに手出したら許さないから」


 ゆっくりと瞼を持ち上げ、他の面々を睥睨して釘を刺す。

 リアは相変わらず何処吹く風と特に気にした様子もなかったが、ティアは少し身構えていた。

 ちなみにルナはまだリアに膝枕されて眠っている。


 ティアとギルベリタの間に緊張が走り、しかし一瞬後にはファトゥスが転がり込んできて雰囲気が弛緩した。


「はぁーっ、はぁーっ! ……なんでみんな馬車止めてくれないの!? ファトゥスちゃん落っこちたんだよ! 普通は怪我の手当から始めないといけないんだよぉ!?」

「あ、ごめん。それどころじゃなかったんだよね」

「絶対それどころだって!」


 ファトゥスの抗議をリアが笑って流す。


 道化衣装に土がついているあたり、死ぬことも大した怪我もなく戻ってきたらしい。

 相変わらずのスペックだ。


「おつかれ」

「うん、その通り。もうファトゥスちゃん疲れたからさ。妹ちゃんの場所でギルくんに寄りかかって寝たいな――うわっとぉ!」


 またしても放たれた蹴りをギリギリで回避したファトゥス。


「ふっふーん、甘い甘い! ファトゥスちゃんは一度見た攻撃はもう喰らわな――ったぁあぁあぁあぁ!?」


 隙を生じさせない二段構えは想定していなかったのか、ファトゥスは間抜けな悲鳴を上げながらもう一度落ちていった。


 一応パーティーの一員ということもあって、リアが馬車を止めさせるか思案していたが、ルナが起きたのでそれどころではなくなった。


 数分後に帰ってきたファトゥスは疲れ切っていた。

 流石のギルベリタもそれで蹴落とすのはかわいそうだと思ったらしく、心配するような目で見ていたが、俺に膝枕を要求した途端また蹴り落していた。


 南無。

 

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