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逆転世界はもうどうしようもない  作者: あああああ
12/27

上手くいく気がしない

 

「初めまして、僕はパーティーのリーダーを務めるヴァレリア。ウチのギルについて話があるみたいだけど、いったい何かな?」

「話すことはないよ。お兄ちゃんが聖都に帰って余生を過ごすことはもう決まったことだから」

「らしいけど? 説明してくれるよね、ギル」

「だいたい二年前に聖都を飛び出した。そのとき、許嫁とか家族とか全部そのままで置いてきた。話を付けるためにも一度聖都に帰る必要がある」


 つまり、とリアが言う。


「ギルはあくまでパーティーを抜ける気はなくて、むしろ続けるために帰省したいってことだね」


 横で見守っていたティアとルナがあからさまに安堵する。

 俺も同じ気持ちだ。ここが新しい俺の居場所で、実家はもう古巣になった。

 帰っても居着く気はない。


「……許嫁の話、忘れてなかったんだ」

「忘れるわけにいかないからな。俺がいなくなって人生設計崩壊してるだろうし。まあ元から宮廷魔法使いになって崩壊させるつもりではあったが」


 改めて口にすると中々酷い文言だ。

 あいつには迷惑をかけた。


「うん、よし! 決めた。ギルは聖都に戻っていいよ」

「待ちなさい。あたしは反対よ、リア。もう戻ってこない――戻ってこられない可能性が高いわ」

「ティアさんに賛成します。ギルさんはもうこのパーティーにとって必要不可欠な存在です」

「みんなの気持ちは分かってるよ。僕もそうだ。ギルは僕の仲間で、ギル自身がそれを望んでいるなら、引き離す者に容赦はしない」


 リアは冒険に憧れている。

 それも彼女の師匠が語った、危険と仲間と名誉の冒険に。


「仮に、君が敵対するのなら――」


 普段興味を他人に向けることがほとんどないリアだが、一度仲間として定めた者との友情は大切にしているし、諦めない。

 狂気が俺という仲間を放さない。


「――――っ!」


 思わず身構えたギルベリタの横を通り抜け、その肩をぽんと叩く。


「ギルの妹でも、容赦しないよ?」


 殺意があった。

 害意が、敵意があった。


 それらに塗り潰されて、ギルベリタは首元まで這い寄っていた白刃に気付くことすら出来なかったようだった。


「リア。そのあたりにしておきなさい」

「ティアがそう言うなら」


 相変わらずイカれてる。

 それが妙に頼もしく、その発揮された相手が俺の妹であることは複雑だった。


「お兄ちゃんは渡さない。私より強くたって関係ない、お兄ちゃんだけは渡さないから」


 震えた声でそう宣言し、ギルベリタがリアに背を向け――俺の胸の中に飛び込んできた。


「うわ~ん! 怖かったよ~! あの人怖いよ~! お兄ちゃん助けて!」

「はいはい、よしよし。落ち着け」

「ううぅ、怖かったよ~! ちらっ」


 数年ぶりにかわいい妹が頼ってくれたことで少し嬉しく思う。

 今年で十四になるはずだったが、まだまだ甘えたい盛りだろう。


「あの、リアさん。あの子今こっち見ましたよね。しかもちょっと笑ってませんでした? 処します?」

「リア、もう止めないから半殺しにしなさい。仮に殺してしまっても構わないわ」


 とんでもない会話が聞こえる。


「二人とも落ち着きな? あれくらいのスキンシップ、妹なんだから別にいいでしょ」

「だとしてもよ。義妹(いもうと)とは言え許しがたいわ」

「なんか僕が言った『いもうと』とニュアンス違うね?」

「ギルさんの妹があんなに邪悪なはずありません。あれは偽物です。処分しましょう」

「また随分な危険思想を……」


 ティアとルナの話に怯えてか、ギルベリタが震え始めた。


「あれだけ私に殺気飛ばしておいて、あの人がフォローする側なの……? 意味わかんなすぎ、こわ……」

「なんだ、リアのことか。あいつは頭がおかしいから考えるだけ無駄だ」

「ギル、僕だって傷つくんだよ?」


 よく意味が分からないことを言うリアに首を傾げると、彼女は助けを求めるような目でティアやルナを見る。

 二人は黙って頭を振った。


「まあ、これはあとでたっぷり話し合うとして。本人がそれを求めてる以上、僕はギルが帰ること自体に異論はないよ。これは決定」


 リアの言は正しい。

 二人もそう感じたんだろう、一先ずは黙っている。


「ところで、二級以上の仕事は四人未満のパーティーだと原則として請けられないって規則は知ってるかな? それと、二級以上の冒険者が二級未満の仕事を受けるのは良い顔されないってことは分かるよね」

「……ギルさんがいなくなったら生計すら立てられないってことですか」

「そう。だからギルの離脱は僕としても受け入れられない」


 仕事が生き甲斐のリアには耐えられない。

 昇級手続きで街の中に押し込められているのも、これからの冒険に胸を膨らませていたから耐えられただけだ。

 普通の休暇だったなら二日で剣を取り街の外に向かっている。


「回りくどいけど、見えて来たわ」

「何が言いたいの?」


 理解を示すティアと眉を顰めるギルベリタ。

 ふっふーん、とリアはもったいぶって口を開いた。


「つまりは……」

「やっほー、嬉しい知らせと一緒にファトゥスちゃんの登場だよ! あれ、何この雰囲気――ぎゃー! なんで!? なんで斬るのぉ!? 斬るにしても早くない!?」

「服の部分を斬ってあげただけ感謝してほしいね」


 斬られた部分を境にズレてしまった体を慌てて押さえるファトゥス。

 毎度のことながら本当にどうなっているんだ。位置からして心臓斬られてるはずなんだが。


「何この人たち、やば」

「見なくていい。見ない方がいい」

「……それで、嬉しい知らせって何なんです?」

「ふっふーん、それはね」

「前置はいいからさっさと話しなさい。それ二回目なのよ」


 出鼻を挫かれつつも相変わらずな眩しい笑顔を浮かべてファトゥスが宣言する。


「なんと、このパーティーにファトゥスちゃんが加わることになりました! てんててれててーん! ファトゥスちゃんが仲間になった!」

「何が嬉しい知らせだ、ぶち殺すぞ」

「お兄ちゃん急にどうしたの!?」

「こいつは今なお残る魔法()を俺に負わせ、更には犯そうとしてくるやばいやつだ」

「え、なんでまだ殺してないの……?」

「殺して死ぬようなやつならとっくに殺してる」

「ファトゥスちゃんちょっと泣いちゃうかもなぁ! 本当に! 一切の虚実なく道化が泣いちゃうかもなぁ!」

「はぁ……分かった。あとで歓迎会してやるからしばらく黙ってろ」


 俺のチャックを閉じるジェスチャーに合わせて、ファトゥスの口が閉まる。突然のことでもしっかり応えてくれるあたりにプロ意識を感じる。


「そっか、ファトゥスはそうなったんだ。じゃあ案外いいタイミングだったかもしれないね」

「リアさん、どういうことですか?」

「僕の提案は――ギルと一緒にパーティーみんなで聖都に行くこと。お目付け役が僕らである以上ファトゥスにも来てもらう必要があったし、ここで一緒に伝えられて手間が省けたよ」


 少し考えてみる。

 三人とファトゥスなら俺絡みで刃傷沙汰になっても上手く収められるはずだ。

 反対に、俺がもし監禁されても助け出してくれるだろうと信頼できる。


「ティア、費用は?」

「問題ないわよ。今までリアに合わせて非常識なペースで働いてたもの。一年くらいなら周遊したっていい資金が溜まってるわ」

「それなら決まりですね!」

「いいよね、妹さん?」

「好きにすれば。お兄ちゃんさえ帰ってくるならどうでもいい」


 妹、という言葉にファトゥスが目を見開く。

 値踏みするような視線で無言のまま矯めつ眇めつ眺め、最終的には胸を見つめて、鼻で笑った。


「お兄ちゃん」

「相手にするな。絶望的な戦力差だ」


 フリルが幾つも付いていて、一見シルエットの分かりにくい道化服だが、それでも女性らしい体つきはハッキリ見て取れる。

 一方のギルベリタはティアほどではないにしろ壁である。

 『冷笑』がいっそう深まる。


「まだ、大きくなるもん……!」

「――うぐっ」


 ティアが胸を押さえて蹲った。

 どうしようもない現実は誰もフォローできない。

 成長が止まって久しい彼女にどんなことを言おうが気休めにもならない。


 ファトゥスは再び鼻で笑った。


「……まあ、うん。じゃあ、聖都に行くってことでいいよね?」


 『冷笑』の道化師が加入して五人になるらしい俺たちのパーティー。

 上手くいく気がしないのは俺だけだろうか。


「聖都、楽しみです」


 打ちひしがれるティアを努めて見ないようにして、ルナはぎこちなく微笑んだ。

 


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