レッドローズの事情
コメディーのはず
エッ?ナニコレ。
暗すぎない?
「すまない。俺はもう無理だ」
げっそりとこけた、頬。
目の下を真っ黒に染めた、くま。
切れてかさついている、口元。
日本人にしては高い背丈。
がっちりと鍛えられた身体は、一回り薄くなったように見えた。
なぜ?なぜ、あんなところで。
そんなにも絶望に満ちた表情で。
鳩の置物に対して、謝っているのだろう。
「・・・叔父さん?」
恐る恐るかけた声。
叔父さんは更に絶望を深くした表情で、俺を見た。
そしてその瞬間、鳩の置物から光があふれた。
ーーーーー
母さんが、年末年始に帰ってこなかった叔父さんを心配した。
親族は関東県内に住んでいて、頻繁に顔を合わせるわけではないが、
ばあちゃんのために、せめて正月には集まろうと約束していた。
俺はまだ学生であり、お年玉もかろうじてもらえるから、
今年も嬉々として両親についていった。
従兄のマモ君も、従妹のユウちゃんも、奥さんも、
叔父さん一家は来ていた。
けど、叔父さんだけいなかった。
『どうしても仕事が忙しい』『自分はいけないが、親戚に挨拶してきてほしい』
と。
家でも少しピリピリしていて、
それを隠そうとしているけど、かなり追い詰められた感じ。
とっても心配だって。
叔父さんの家族は話して帰っていった。
メールして、
電話して、
話をしても、
最終的に『大丈夫』としか言わなくなる。
どこかよそよそしくて、根本的な解決にならない。
『こちらから会いに行くしかない』と、母さんが主張した。
俺が叔父さんを訪ねることになったのは、母さんの直感。
『それじゃないと解決しない気がする』って。
ーーーーー
あふれた光が収まると、
さっきまでいた叔父さん家ではなく、見知らぬ部屋。
俺の斜め前に立っている叔父さんと、その隣にもう一つ影があった。
「あれ?君も資格あるね?魔法生命体にならない?」
知らない声が、俺に語り掛けてきた。
叔父さんじゃないもう一つの影。
ブラックスーツに、真っ白なシャツの袖。
赤のネクタイ。
きらりと輝く不思議な石のタイピンとカフス。
そして、鳩の頭部。
鳩の?頭部ぅ??
それは、その話しはみんな知っている。
ある日鳩がやってきて・・・って。
「・・・叔父さん。魔法少女なの?」
「あ、い、いや。その・・・。」
俺の素朴な疑問に、顔を真っ赤にして叔父さんは口を開こうとした。
「はぁ~。別に、レッドローズ辞めたいならやめていいよ?」
鳩の表情はわからないけど、あきれているなぁって声で鳩は言った。
「魔法生命体、強制じゃないし。
直ぐに地球侵略されないし、別に地球人も死なないし。
守秘義務はいくつかあるけど、
正体バラしちゃいけないなんて言ってないし。
バイト代だって、結構出てるはずなんだけど?」
ぷるぷる頭部を左右に振り、鳩はさらに続けた。
ちょっと、なんか、空気が冷たい。
「ち、違う!!違うんだ。魔法少女が嫌とか、そんなんじゃなくって・・・。」
真っ赤な顔のまま、叔父さんは叫んだ。
「悔しいけど、俺の力では活動エネルギーの変換率が落ちて、
レッドローズはうまく活躍できないし、でも、もうちょっと魔法少女でいたい。
魔法少女に関わっていたい。
でも、やっぱりこのままは無理だって、かつていた仲間は皆いなくなっていくし・・・。」
がっくりと膝をつき、両手で顔をおおい、絞り出すような声で叔父さんは言った。
「あぁ、いなくなったあれ?お約束破った子達でしょ?
特に今期のイエローサンフラワーはひどかったよねぇ。
器爆発四散させて、活動エネルギーものすごく無駄にして。」
鳩は叔父さんの暗い声を聞き、一瞬目を輝かせた。
が、直ぐに忌々しとまた首を振り言った。
『活動エネルギーためるの大変なのに!!』と怒り出しもした。
「別に、魔法生命体動かすだけがバイトじゃないよ?
お手伝いはいっぱい欲しいから、
嫌じゃないならレッドローズ辞めても来なよ。」
少し、緊張した声で鳩が言った。
「え、行っていいのか?行く!!」
すくっと、立ち上がり鳩の肩をバシバシたたき、
めっちゃ嬉しそうに叔父さんが答えた。
・・・あれ?俺何見せられてんの?
あれ、マジでなんか解決した??
「そんで、君?魔法生命体にならない?」
かなり置いてきぼりになっていたけど、
叔父さんから、魔法生命体引き継ぎました。