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ちっぽけな夜の中

作者: けて

「ちっぽけな夜の中」


ー5月1日、ベテルギウスは超新星爆発を起こしたー


1週間前のから僕たちの日常から夜が消えた。大人たちは近くの星が爆発したとか何とか言ってる。小さな窓から見える景色は、もうずっと明るい。僕の部屋のベッドは僕の巣のようになっていた。携帯の電源ケーブルに、すぐ近くの窓際には時計や筆記用具、ゲームソフトなど僕の好きな小物が並んでいる。ベッドのすぐ近くには飲み物の入った一人暮らし用の冷蔵庫があり、自室から出なくともある程度生活ができるようになっている。5畳ほどの部屋には脱ぎ散らかされた服があり、もう何ヶ月も床を見ていない。この散らかった部屋が僕には居心地が良かった。食事をとるために巣を出る。時計には7時とあった、夕食の時間である。家の中は四六時中明るくて、あの星に何もかも見透かされてる気がした。渡り廊下はサッシから入った光が充満していて眩しかった。1階へ降りるための階段は少し急だけど、薄暗くて落ち着いた。お母さんとお父さんは夜が消えてからも相変わらず日常を続けている。僕はもう何年も学校に行けていない。そして、あの星が現れてからは外にも出れていない。僕は深夜が好きだった。太陽に照らされた日常や常識は僕には眩しかった。世間には正しさが溢れすぎている、僕にとってそれは毒だ。暗い深夜は日常や常識から僕を遠ざけてくれていた。夜の暗闇は僕を正しさから守ってくれていたんだ。だから僕は夜にしか外に出ることができなかった。僕はあの輝き続ける星に、外からも追い出されてしまった。階段を降りた先はリビングだ。僕の部屋よりも一回り大きいリビングの天井には安っぽい小さなシャンデリアが付いていた。母の趣味だ。年季の入った木製のダイニングテーブルは、父が中古で買ってきたものだ。綺麗好きの母親が磨いた床にはホコリ1つ無い。キッチンの上には窓があり、夜7時にも関わらず溢れた光がリビングを照らす。ダイニングテーブルの周りにはキッチン、その隣に戸棚、ダイニングテーブルを囲むように、浴室と、父との部屋を区切るための障子などがある。ダイニングテーブルの上には母が置いていったコンビニ弁当があった。障子の隙間から父の部屋が目に入った。本棚に並べられた本が溢れ出し、本やら書類が散乱した埃っぽい部屋。息苦しい部屋だ。父の部屋から庭へと繋がるサッシは開いていて縛られていないカーテンは風に吹かれヒラヒラと揺れていた。輝き続ける星の光が僕をおかしくしてしまったのだろうか。普段ならこんなことするはずがない。僕は父の部屋のカーテンを引きちぎっていた。つまらない毎日に絶望したとか、反抗期でもない。僕はただ、居心地よくいたいだけだ。長いカーテンを引きずってリビングまで歩く。散らばった本にカーテンが引っかかる。積まれた本棚は崩れ落ち、父の散らかった部屋は本の墓場のようになった。ダイニングテーブルの上のコンビニ弁当を手に取り、戸棚から箸を出す。僕は厚いカーテンを頭からすっぽりかぶって、床に座り込んだ。カーテンで作った狭すぎるテントは暗かった。僕が過ごしてきた夜とは比べ物にならないくらいちっぽけだが、夜という感じがした。コンビニ弁当の蓋を開けて、弁当の底に敷く。床に置いたコンビニ弁当から冷えきった唐揚げをつまみ、口に入れる。暖かさも無い、味の濃い餌のようだったが、久しぶりの夕食だ。日常や常識の壁は厚い。それに、僕の平穏はあの星の輝きに奪われてしまった。それでもここに夜は残っている。久しぶりに食べた夕食は、冷えきっていたけれどそれなりに美味しかった。

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