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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
9/27

剥がれた金メッキ

チートスキルと言ったな? あれは嘘だ。

 今回も私が一番最後だったようだ。

「お待たせして申し訳ありませんわ」

「気にするな、そんなに待ってないよ。さあ座りなさい」

 父が優しい言葉を掛けてくれる。私はサッと自分の席に座った。

「それではディナーをお持ちいたします」

 そう言って一礼をするとメイドは食堂から出て行った。

 私は魔法を使った疲労感からか今まで以上にわくわくしながら料理を待っていた。朝と昼があれだけ美味しかったのだから嫌でも期待感が高まる。

 朝昼は豪勢だったのでもしかしたら夜は落ち着いた食事って可能性もある。今の気分はガッツリ肉を食べたいのでそれは少し悲しいが、それはそれでどのような料理が出されるのかと楽しみに待っていた。

「部屋に居ないって聞いたけれど、どこにいたの?」

 母が質問する。私が居ない事をメイドから聞いたのだろう。

「中庭で魔法の練習をしていましたの」

「まあ、あれだけ嫌がっていたのに! 偉いわリベル!」

「『魔法なんて誰かに使わせたらいいのよ!』って言ってたのにな」

「そ、そう言う気分だったんですわぁ」

 思わず声が少し上擦る。確かに今日、最終的に「無理して自分で使わなくても良くね?」なんて事を考えていた。

 その後父が「ボンドルにより本格的な魔法の鍛錬を始めて貰うか」なんて呟いていたので苦笑いで聞き流した。頭の中ではどうやってボンドルを言い包めようか考えながら。

 しばらく他愛もない会話を続けているとメイド達が料理を運んで来た。

 お待ちかねのディナータイムだ! 朝昼同様ガッツリ系か、はたまた落ち着いたシンプル系か。


「――なんだこれは」


 それは一体誰の口から出て来たのか。父の発言なのだが、恐らく皆同じ心境なので一瞬、自分の口から出た言葉かと勘違いしてしまった。因みに私は『何この生ごみ』なので少し違う。

 その料理は朝とも昼とも、いや想像していた料理の全てと全く違う物が出て来た。

 まずこれは本当に料理と呼んでいい物なのだろうか? 大量の油と液体、それと……卵?の混ざった物に乱雑に切られた野菜と火加減が滅茶苦茶な肉が文字通り突っ込まれた一品だった。

 何よこれ無茶苦茶じゃない。野菜も昼間に食べたものと比べるまでもなく汚く切られているし、肉に至っては生の所と焦げている部分が存在していた。少し酸っぱい臭いもする。それで油と共に入れられた液体は酢である事が分かった。

 更にこの料理何やらただならぬ気配が漂っているのだ。それが一層この料理に言い知れぬ恐れを抱かせる。

「なんなんだこれは!今すぐ料理長を呼んで来い!」

 ついには激昂した父が料理長を呼び出した。

 すぐに料理長は食堂にやって来た。

「お呼びでしょうか旦那様」

「貴様、この失敗作はなんだ! こんなものを出してどういうつもりだ! 返答次第では二度と厨房に立てなくしてやるぞ!」

「落ち着いて下さい旦那様、その料理は失敗作などではございません」

 自分の料理人生命を脅かされているのに、料理長は一切臆する事無く返事をする。

 料理長は本気でこの失敗作を料理だと思い込んでいるらしい。

 何故彼はこの失敗作を料理だと思っているのだろうか? よく観察するとこの失敗作、どこか見覚えがある様な……。

「では料理長、これは一体何なのですか?」

 母が落ち着いた口調で質問する。しかし少し声が震えているので恐怖は感じているようだ。

「これは料理の新たな可能性です!」

「料理の可能性?」

「私は昼に素晴らしい一品に出会いました。それは既存の料理の概念を覆す一品でした。身の毛もよだつ見た目、食欲を減退させる風味、一般的な観点では評価の出来ない味。私では見向きもしない道に光を指し示して下さった方がいるんです」

「……あ」

 そこまで言われて、私は全ての違和感が繋がった。何故この料理に見覚えがあるのか。何故料理長が急にこんなものを作り出したのか。

「そう、そのお方こそ、そこにいらっしゃるリベルお嬢様です!」

「リベルが?」

 ここでの名指しはやめて頂きたい。ほら両親の目が料理長から私に向かってるじゃん!

 私はせめてもの抵抗で言い逃れをする。

「えぇ、確かに昼間戯れにそんな事もしましたわ。でも何故、味などが分かるのかしら? 私は貴方に処分を命じたはずよ」

 調理工程のみを観察して良く知りもせず作った模倣品ならば私のせいにされても困る! 詭弁でもなんでも使って必ず乗り切ってみせる。

 そう意気込んだ私に料理長は耳を疑う言葉を言い放った。

「ええ、きちんと処分致しましたよ」

「なら……」

「きちんと全て()()()()()()()させて頂きました」

「貴方、まさかアレを――」

 理解した瞬間、猛烈な吐き気が襲う。この場で吐かなかった自分を褒めて欲しい。

 あの卵と油と酢を適当に混ぜただけの混合液を? ボウル一杯丸ごと飲んだって言うの!? よく見ると料理長は少しやつれている気がする。吐いて味見してを繰り返したのかも知れない。

 そうか、相手はきちんとあの失敗作を研究し改悪(改善)したのだ。これは模倣品などではなくまごう事無きあの失敗作の上位互換と言う訳だ。

 道理で変な気配が漂っていると思った。これはまるで私のスキルの気配にそっくりではないか。

 口を抑えて話せない私に料理長は語り掛ける。

「お嬢様、貴方のおかげで私はまた次のステージへ上る事が出来ました。ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げる料理長。その顔は至上の逸品を作り出したかの様な清々しさすら感じた。

「お嬢様はこの料理に名前を付けていらっしゃらなかったので、僭越ながら私がこの料理にピッタリの名前をつけさせていただきました。お嬢様(リベル)(・デ・)気まぐれ(カプリース)と」

 この状況やこんな失敗作に自分の名前が使われた事、色々な情報が押し寄せてきて頭の中が真っ白になった。

「リベル……その話は本当なのかい?」

 父が私に問いかける。正直に答えるしかないだろう。多少怒られるかも知れないが皆の夕食を滅茶苦茶にしたのだ。その報いとして甘んじて受け入れよう。

「ええ、本当ですわ。お父様申し訳――」

「料理長、この料理を失敗作だと言って申し訳ない。無知な私を許してくれ」

「――え?」

 理解が出来なかった。何故父が料理長に謝るのだ?

「料理の高みを知らない私には理解出来なかったんだ。私に新たな気付きの機会を設けてくれた事感謝する」

「やめてください旦那様!わたくしもお嬢様に言われるまで理解する事が出来なかったんです。理解出来なくて当然なんです」

「それにしても新しい料理に娘の名前が使われるなんてとっても素敵ね!」

 母までそんな事を言いだす始末だ。慌てて皆に問いただす。

「待って下さい! お父様、お母様こんなのただの失敗作ではありませんか!」

「なんて事を言うんだリベル」

「リベルが一生懸命作った料理が失敗作なはず無いじゃない」

 そんな事を笑いながら話すその異様な状況に、私は走って食堂を飛び出した。



 自室に駆け込みすぐに鍵を掛けた私は大声で叫ぶ。

「聞えてるんでしょ! 出てきなさいゴルゾニーヴァ!!」

 数秒後にどこからともなくげらげらと下品な笑い声が聞こえ始める。

「げひゃひゃひゃ! ずっと見てたぜぇ、想像以上の働きだなメアリー・スー。いや、今はリベルって言った方がいいのか?」

「黙りなさい! 一体どういう事よこれは!」

「どういう事もねぇよ? お前の望んだ通りじゃねぇか?」

 この状況が望んだ状況? こんなの望む訳ないじゃない。

「お前は昼間、あのおっさんにスキルを使ったな? その影響でこの惨状を生み出したんじゃねぇか。まあ、あんな失敗作にまさか自分(てめぇ)の名前が付けられるとは思わなかったがな」

 そう言って再度、下品に笑いだす。

「私はあの場でスキルを使っただけよ! こんな料理を作れだなんて頼んだ覚えはないわ!!」

「だからだよ、あんなゴミをまるで神の一皿かの様に褒めさせたんだ。あのおっさんの認識が歪んでもおかしかねぇよ」

「貴方さっきから何言ってるのよ!」

 ここで昼間から溜まっていた不満が爆発する。

「そもそも貴方がスキルを創り間違えるから悪いのよ! 何をやっても上手くいかないし、戦闘面でも強くならないのは確認済みよ! 相手の好感度を上げるだけなんて、これじゃただの魅了スキルじゃない!」

 ここで初めてゴルゾニーヴァの笑いは止まった。

「お前何言ってんだ? ちゃんと望み通りのスキルはやっただろ? 現に今日お前は誰にも負けてねぇじゃねぇか」

「意味が分からないわ! こんなの私は望んじゃいない」

「いんや、お前は望んださ。あの時お前はこう言ったんだ。『メアリー・スーみたいになれるスキルはありますか?』てな」

 そうだ、その通り私は理想のキャラ(メアリー・スー)になれるスキルを望んだのだ。楽しく気楽に生きれるように。世界一理想の女の子(ミイズガル・デスベア)は全然違うでは無いか。

「だから俺様はわざわざ創ってやったんだぜ新しいスキルをよぉ。普通はチャチャっと強くして終わりの所を手間暇かけたんだ。感謝して欲しいくらいだぜぇ」

「だから――」

 私が反論する前にゴルゾニーヴァが遮って話を続ける

「対象を洗脳するスキルでお前の意のまま周囲にお前を褒める様に操作する。そしてお前レベルに対象のスペックを下げるデバフスキルは周囲の者を漏れなくお前以下の性能に落としてくれる。おかげで今の料理長と料理対決をしてみろ、千回戦ってもお前が勝てるだろうさ」

「デバフ、確か相手の能力を下げるスキルとかの事よね? 分からない、どうして私のスキルにそんなものを使ったの」

「察しの悪い奴だな、要するに誉めて欲しいし強くなりてぇし何事においても負けたくねぇってこったろ? なら答えは簡単じゃねぇか。周りの奴らをバカにして総じて能力をお前より下げればお前はぜってぇ負けるこたぁねぇだろ?」

「能力を、下げる……?」

「まあ簡単に言えば、お前が料理の世界に進めばその世界の食卓には今日みたいな生ごみが毎日並ぶことになるだろうな。お前が魔道具の世界に介入すれば世界はガラクタだらけになる。そういやお前貴族だったな? 町の運営に関わってみろよ、一日で街は機能をしなくなるだろうぜ?」

 今日一番の笑いをゴルゾニーヴァはあげる。私は今ゴルゾニーヴァに言われた事を反芻していた。

 要するに私の能力は自分を上げるのではなく、他者を下げ相対的に自分を上げる能力という事か。

 何の労力もなく尊敬される代償として優秀な人も皆、私レベルに能力が下がる。

 私が能力を使えば使う程どんどん世界は歪み、住みにくくなっていく……。

 気付けば視界が揺れている事に気が付く。涙が目に溜まっているのだろうか。

 震える声でゴルゾニーヴァに質問する。

「でも……これじゃあスローライフどころか世界を救う事も、魔王も倒せないわよ?」

「あぁ? 俺様はお前に魔王討伐なんて望んじゃねぇぜ?」

「でもこの世界には魔王が居るって……」

「俺様が望んだのはお前のスローライフだ。その過程で世界を滅茶苦茶にしてお前の慌てふためく姿を見せて楽しませてくれればそれでいいんだよ」

 何よそれ、それじゃまるで神は神でも。

「今更だがこちらの世界での身分を明かして無かったな? 俺様は邪神ゴルゾニーヴァ。人類の敵だ。」

 ゴルゾニーヴァは事も無げに正体を明かした。何よそれ、なんなのよ……。

 正統派異世界転生だと思ったら邪神転生で、しかも目的がその邪神を楽しませる為にピエロを演じる事で、生死は問わないどころか死んだ方がコイツが喜びそうで……。

「うわぁぁああん! こんなのって無いじゃない。こんなの望んでないわぁぁあああ!」

 ついに感情が一定を超えたのか私は号泣した。威張れない異世界転生なんて何も楽しくない!!

「ぎゃははは! お前がメアリー・スーになりたいって言いうからそんな能力にしてやったんだぜ?」

「うるさいわ! 私は周りから訳もなくちやほやされたいだけで自分よりアホになれなんて望んじゃいないの!」

 こうして私の輝かしい異世界転生の金メッキは早くも剥がれ。どどめ色の異世界転生が幕をあけた。

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