温かい食卓
食堂に向かう道中で、先程ゴルゾニーヴァが言っていた事の意味が少し分かった。
私の意識が覚醒したのは少し前。なので私にとってこの屋敷は初めて来る場所なので当たり前の事だが食堂の場所など分かる訳が無い。
だと言うのに私の足は迷いなくどこかへと足を進めている。私自身は目的地を知っている訳では無いのだが今までの自分の時の記憶が目的地はこっちだと言う様に私の足を進ませるのだ。
この感覚は鼻孔をくすぐる美味しそうな香りが漂い始めた時から、間違いじゃないのだと確信させた。
食堂に着いた時、既に数人席に着いていた。
「おはようリベル」
「おはようございます、お父様、お母様」
食堂に入るとイケメンな男性に挨拶され、一瞬誰? と思ったがすらすらと挨拶を返すことが出来た。それと同時に頭の中に記憶が溢れ出る。これがゴルゾニーヴァが言ってた徐々に思い出すってなのね。
この挨拶をしてくれた男性は私の父、ヴィルバン・フォル・エスピリア。エスピリア家現当主その人だ。
セミロングのさらさらヘアーが私と同じ緑色で家族の繋がりを感じさせる。目は良く言えば切れ長、悪く言えば糸目で、継がなくて良かったと少し思ってしまった。
「おはよう、リベル。今朝怖い夢を見て飛び起きたって聞いたけど大丈夫?」
「心配してくれてありがとうございます。でも私は大丈夫ですわ」
この私の心配をしてくれているのが母のティアナ・フォル・エスピリア。
母は綺麗な青色の髪をしている。瞳の色が紫色で、瞳は母から受け継いだものだとわかった。
どちらも美しい容姿をしているので、私もこのまま進めば美形になるだろう。
「リベル、何かあったらすぐに言うんだよ」
「ありがとうございます、お父様」
この短いやり取りでとても愛されているのがよく分かる。このやり取りはスキルの影響では無く、これまでの七年間も普通に繰り広げられてきたもの。この時ばかりは素直にこの家に生まれてよかったと思った。
その後、私が揃った事で朝食を取り始める。
私には弟が一人居る。クローネ・フォル・エスピリア、母譲りの青紫の髪に、私と同じパッチリおめめをしている。だが瞳の色が若草色をしているので、これは父から継いだ物なのだろう。
長男なので恐らく家督は彼が継ぐのだと思うが、私としてはありがたい。おかげで、ある程度自由に動けるからね。
私と父、母は同じものを食べ。クローネは幼児食の様な物を食べている。
しかし、さすが貴族。おいしい物を食べている。白いパンと肉料理なのだが、そのどれもがプロの技術を感じられ、とてつもなく美味だった。前世で食べに行ったコース料理を思い出すが、そちらの方が今より数段見劣りするのが何とも悲しい気持ちにさせる。
食事の最中、父が私に話しかけてくる。
「リベル、気になったんだが少し雰囲気が変わったか?」
「え?! そうかしら」
「そう言えば、普段と違うわね」
随分と鋭い、やはり家族なので分かってしまうのだろうか?
「わ、私も貴族の娘としてふさわしい振る舞いを心掛けようと思いまして」
言い訳として苦しかったか。
「素晴らしい心掛けだ」
「でも少し寂しいわね」
……どうやら通ったようだ。
しかしゴルゾニーヴァは、ああ言ってたがやっぱり少し私と話し方が違ったりするんだろうか。
「自分ではあまり違いが分からないんですが、そんなに変わってました?」
父と母は少し考える素振りをして、今までの私がどんな風だったかを語り始める。
「高笑いを今日は一度もしていないね」
「変なポーズもしてないわ、あれ可愛くて私好きだったのよ」
「僕は魚料理に『骨があるなんて、食べて貰おうと言う気概が足りないんじゃなくて!!』って怒るのに結局完食する所とか好きだな」
ここから昔の私の数々の奇行を聞かされたのだが、悔しいが自分ならやりそうと思ってしまう事しかなかった。これなら無理に演じなくてもいいんじゃないの? と言うか途中から私の可愛い所(奇行)の発表会になってるし……。
「もう分かりました! 十分ですわ!!」
「そうかい?まだ半分も言ってないよ?」
「た、食べ終わったので部屋に戻りますわね!ごちそうさまでしたわ!」
まだ半分以上もこんなネタが眠っている事に恐怖を感じつつ私は食堂を飛び出した。
「あらあら、あの子ったら慌ただしいんだから」
「それでこそあの子らしいじゃないか」
その後も親バカな会話が聞こえたが、記憶から抹消する事で何とか精神を保たせた。