能力の片鱗
「言ったろ? 転生してからも話す事は出来るってよぉ」
「そう言えばそんな事言ってたわね」
話す事は出来ると聞いていたが、こんなにあっさり出来るとは思っても居なかった。もっと教会に行ったり、祭壇に手を合わすとか考えていたのだが。
「一応、お前が一人の時限定だけどな。俺様が暇な時、名前を呼べば接続してやるよ」
随分と便利な感じだな。てか忙しい時があるのだろうか?
「それで? 私は今どんな状態なの?」
周りの人に「私ってどんな子ですか?」って聞いて回るのは流石に違和感があるから、何も気にせず話が出来るゴルゾニーヴァに今聞いてみる。
「お前は……確か、そう! リベル。リベル・フォル・エスピリアっつぅ子爵の長女に生まれたんだ。生まれてから七年経ってるから、今は七歳だな。細けぇ事は知らねぇから自分で調べろ」
随分と扱いが雑だが、名前と歳が知れただけでも大きな前進だ。これで自分の名前を聞くと言う事態は避けられた。
七年……、そんなにも経っているのか。
「七年間の記憶が無いのだけど大丈夫なの?」
「そりゃ転生のショックで一時的に思い出せないだけだ。今までの人生もこれからの人生も行動して来たのはお前だ。今の意識が無いとはいえ、この身体の行動原理はお前の魂。お前がやらない事はぜってぇやらねぇし、お前がやる程度の事しかしねぇ。だから記憶も意識的に思い出せないだけで潜在的には覚えてるよ」
なんだか分かるような分からないような。徹夜で覚えた知識はじきに忘れるが、趣味で覚えたしょうもない雑学はいつまでも忘れないって感じだろうか? 違うんだろうな。
「ま、普通に生活してりゃその内自然と思い出すってこった。息の吸い方を忘れた事はねぇだろ?」
「思い出せるならいいんだけど」
「たまに観察してたが、虫けら以下のつまんねぇ生活しかしてないから、思い出せなくても問題ねぇけどな」
人の七年間を虫けら以下って、神じゃなければ殴ってるわ。
「そんな事より、これからの事を伝えるぜ。この七年間お前は覚醒してないとは言え、本気で下らねぇ生活しかしてねぇ。基本怠惰を絵にかいた様な感じだ」
さっき自分のやる事しかしないとか言ってたな。自分がこの貴族の生活で、必要以上に活動しないのは想像に難くない。
「それじゃあ俺様の目的が果たされねぇんだよ」
「確か健康的な生活をすればいいんでしたっけ?」
「ああ、そうだ。出来るだけ多くの人と関わりを持て。んで与えた力を使えば最高だな」
確か、世界一理想の女の子だっけか?
「あれは基本は常に発動し続けてるんだが、自分で意図的に発動する事も可能だ」
「その上で自由に生きればいいのね」
「ああ、そうだ」
ゴルゾニーヴァは満足げに肯定する。元々そう言う生活をするつもりだったし問題は無い。
「お前は生きてるだけで俺の目的が達成される特別な存在なんだよ。是非とも世界にお前と言う存在を知らしめろ」
それを最後にゴルゾニーヴァの声は聞こえなくなった。接続が切れたと言う事だろう。
「特別……悪くない響きね」
嗚呼、この絶対的主人公感がたまらない。世界が私を中心に回ってる感覚。間違いなく今、流れはこちらに来ているのが分かる。
その後、メイドの持って来た紅茶を飲んでこれからやる事を考えていた。
神から直々に目立てと言われているのだ。それならば私も妥協する気は無い。私はこのスキルを使って、世界を私の物にする。別に人類を滅ぼすわけじゃない。ただ世界中の人から肯定されて、愛されて、祝福されたいだけなのだ。もし物語ならつまらない事間違い無しだが、私にとってのご都合主義なら大歓迎だ。
「目立つって言ったら、やっぱり魔王討伐とかかしら? 私の有り余る才能で並み居る敵を瞬殺! いやいや知識チートで凄い発明とかも捨て難いわね……、「え? これってそんなに難しい事なんですか?」とか言ってめっちゃ敬われたい、そう言えば私って貴族なんだし王族と恋に落ちちゃったり~! キャー夢が広がるぅ!!!」
「お嬢様」
「ぎゃああああ」
妄想もとい人生設計をしていたらいつの間にかメイドさんが来ていた。恐らく今のがっつり見られてたよね?
「朝食の準備が出来ましたので、お呼びにまいりました。」
「はい……じゃない。ええ、分かりましたわ」
これまで通りの口調で答えそうになったが私はこれから貴族令嬢なのだ。それに相応しい話し方をしなくては怪しまれると言うもの。決してこの話し方に憧れがあった訳では無い……いや無くてよ。
「ところで貴方、今の独り言を聞いていたのかしら?」
「はい、拝聴させていただきました」
くっ、物凄く恥ずかしい。メイドさんが部屋を出たら枕で叫びたい衝動に駆られる。だがメイドは話を続ける。
「しっかりと先を見据えた人生プラン。私、感動しました。やはりお嬢様程の人物なら、常人では想像出来ない幾手も先を常に考えているのですね」
一瞬、あんな糞妄想でこの人はなんでこんなにべた褒めなのか意味が分からなかった。しかし少し前のゴルゾニーヴァの言葉を思い出す。
私のスキルは常に発動状態にある。ならば今の妄言も、この人には金言に聞えたのかも知れない。
「そ、そうよ! これくらい常に考えているわ」
「お嬢様の慧眼、感服致します」
そう言ってメイドは部屋を後にした。
私は今のやり取りで世界一理想の女の子が有能チートスキルである事を確信した。
私が、このスキルに求めたのはメアリー・スーになる事だ。メアリー・スーは全キャラから愛される。恐らくこの部分がスキルの能力となり今の状況を作り出したのだろう。今の能力は他人の好感度が高くなるとかそんな感じじゃないだろうか。先程の様子を鑑みるに下らない行動も極限まで好意的に捉えられると考えてもいいだろう。
このスキルには、まだ戦闘面での能力や運気や因果律操作の能力が含まれる可能性も秘めているので今から実証するのが楽しみだ。もしかしたら本当に英雄になる事だって出来るかも知れない。
「異世界転生ってやっぱり最高ね!」
私はスキップしながら食堂へ向かった。