主役喰い
転生して数年が経ったある日、私は自分の戦闘力をどうにかして上げられないか試行錯誤していた。
修行して分かったが私の戦闘の才能はよく言って中の上と言った所だろう。武術も魔術も私より優秀な者などいくらでもいるだろう。このまま馬鹿正直に伸ばし続けても高が知れている。
それ以外で私の能力は魅了兼洗脳するだけの使いにくいスキルだけだ。弱い能力では無いと思うが、戦闘に於いては決定打に欠ける。
正直考えるのも面倒臭いのでいっその事、家に引きこもって居たいのだが、ミイズガル・デスベアがそうはさせてくれない。
この命の価値が軽い世界で生き残るには、どうにかして私の戦闘力を上げる事は急務なのだ。
しかし意識を覚醒させてすぐ試した時に、このスキルが魔法や魔力に干渉しない事は確認済みだ。
おかしい、私は主人公すら喰らうチートキャラを頼んだはずなのに、戦闘面がモブキャラなんだが……。
「世界一理想な女の子」
私は世界一理想な女の子を自身に掛けようとするが不発に終わる。それもそうか、自分自身の毒に掛かる生物なんていない。このスキルにも私には掛からない何か防衛機能があるのかも知れない。
「私自身にスキルを掛けて、理想の身体能力に成れたりしたらどうかと思ったのだけれど」
ここで私は改めて世界一理想な女の子について考える。
このスキルは魅了と洗脳をするスキルで常時発動している。また意識的に出力を上げる事も出来て、その際は認識を書き換える事まで出来る。
スキルに掛かった時、私の発言を百パーセント肯定する様になり、能力(戦闘や生産も含めて)が私以下のレベルになる。尚スキルの出力によってはこの能力低下がとんでもないレベルになり、この結果を私が操る事は不可能である。(むしろこの副作用こそ肉塊の狙いであるので癪に障る)
とまあ能力の詳細はこんな感じなのだが、この後半の能力低下について私は一つの疑問を持ったのだ。
相手の能力を下げるのが世界一理想な女の子の効果では無く、あくまで私の望み(相手に勝つ)を叶える為に相手が手を抜いているのではないかと言う事だ。
だとしたらこの能力はデバフでは無く、催眠術の様な物という事になる。
何度か他者に能力向上として使え無いか試したが、どうやら自分以上にする事は出来ないらしい。
ここで最初の試みに戻る。他者が私の上限を超える事が出来ないのなら、私自身が超える事は出来るのではないかという事だ。
脳と言うのは常に制限が掛けられていて、それが外れれば常軌を逸する成果が出せると言うのは有名な話だろう。例を挙げるなら、車の下敷きになった人を助ける時に普段では出せない力を発揮して車を持ち上げたり、スポーツでゾーンに入り凄まじい活躍を遂げるのもこれに当たるだろう。
まあ私としてはバトル漫画である様に、凄まじいパワーアップを期待しているのだが、これがまた難航している。
何度自分に掛けようとしても掛からないのだ。
そもそも正直な話、どういう仕組みでスキルが発動しているかもわかっていない。あくまで意識的に発動した際に強まるこの気配の様な物が作用しているんじゃないかと仮定している位だ。
まあ間違ってはいないと思うので、この仮定のまま進めるが、自身から発生しているこの気配で如何にして自身が掛かるのかと言うのが今の課題なのだ。
一度周りに人が居ないのを確認して、全力で発動してみたのだが、いくらやっても掛かる気配は無かった。
もしかしたら仕様として自身には掛からない様になっているのかも知れないが、だとすれば何か別の方法を考えねばならない。
しばし顎に手を当て考える。
「私自身には掛からずに他者に掛かる様になっているのよね……」
ならば自分自身を他人だと思い込むのはどうだろうか?
私は他人だ、私は他人だ、私は他人だ、私は他人だ……。
「違う、方向性は悪くないと思うけど、これじゃ一生出来ないわ」
思い込みレベルでは無く、もっと根本的に違うと認識しなければ発動しないとなんとなく分かってしまう。
それでは無理なのだろうか?
ふと私は自分の手の平を見る。
「私は私か?」
私は誰か。私はリベルだ。
いや違う。
私は魂だ。
前世ならまだしも、今の私はゴルゾニーヴァの所で魂の存在を知った。
ならば、今ここにある身体は私であって魂じゃない。
この時、何か重要な物がかちりと嵌ったような気がした。
「身体から発していると思うから駄目なのよ。もっと深く、もっと根源的な所からスキルを発動する……」
目を閉じて集中する。誰が発動しているのかをより意識して発動する。
瞬間体中の毛が逆立つのを感じた。ぞわりと何か生温い物が全身を覆うのを感じる。
悍ましい何かに丸呑みにされている様な。自分の中に異物が入り込んで来るような。脳をグチャグチャと甘く掻き混ぜられている様な。
気持ちの悪い感覚に思わず顔を顰める。
「これがスキルに掛かる最中の感覚なのかしら? 本来の想定から外れているからか最悪の気分ね」
なんとか気を持ち直し、再度集中する。
今の感覚が掛かっている最中なのならば。私は願う。あの図書室で読んだ勇者の様な力を。魔法を意のままに操る能力を、私は求める。
「……これは、体中からマナが溢れ出してくる!」
今まで感じた事の無い量のマナが身体から溢れ出す。
やっと自分の目的が達成された事を確信し、私は大声で笑った。
「アハハ! 良いわね!! やりたい事はいっぱいあるけど、まずは一番簡単な身体強化でどれだけ違いがあるか試してみようかしら!!!」
私は無尽蔵に溢れ出すマナを腕に集め、身体強化を発動する。
いつも以上にスムーズにマナが移動し、凄まじい威圧感を右腕から感じる。
「さあ、私の異世界転生物語が今始まるわ!!!」
私の拳はそのまま地面を叩き付け物凄い量の土煙を巻き上げた。
胸へと叩きつけた魔力の塊は、べちゃりと身体に纏わりつき、そのまま身体に吸収される。
一瞬の静寂の後、ドクンと心臓が高鳴ると全身に激痛が走る。
「ぐ、あぐぁ……あぁ……」
あまりの痛みに膝を付けそうになるが、その隙をシャノンに攻撃されたのでは笑いも起きない。
痛みの波を気合で乗り切り、シャノンへと笑いかける。
「はぁ……はぁ……、待たせたわね。変身はもう終わりよ」
「……お前その目はどうした」
「目?」
本気で何を言っているのか分からない私は首を傾げる。
「お前の瞳、紫だったのが赤に変わっている。まるで女神様の様な……」
そこで言葉を区切ると、鋭い視線を向ける。
「瞳の色が変わろうが関係ない。俺はお前を倒すのみだ」
なるほど、どうやら今の私は瞳の色が変わっているらしい。
「今まで一人の時にしか使った事が無かったから、身体に変化が起こるのは初めて知ったわ。まあどの道今から目の色を変えて戦うんだから些細な事よ」
剣呑な雰囲気を漂わせるシャノンを前に、身体をほぐす。
「初めてこれを使った時。私は今みたいに苦しむ事も無く全能感に満たされたわ。圧倒的な力を感じてその衝動のままに拳を地面に叩きつけた」
私は昔を思い出す様に遠くを見つめる。
「結果私の右手はグチャグチャに潰れ複雑骨折、高熱と異常な魔力欠乏症に陥り生死の境を彷徨ったわ」
あれは今思い出しても最悪な思い出の一つだ。貴族の権力と財力があってなんとか一名を取り留めたが、寒村の村人とかならあの時に死んでいてもおかしく無かった。
「試行錯誤と調整の結果、何とか使用に耐えるレベルに落とし込んだのだけれど……。それでも尚有り余る使用後の副作用が辛いから使う気が無くて、名前すらない技だったのだけどね」
十分ほぐし終わったので、拳闘の構えを取る。
「今決まったわ。主役喰い、この戦いを終わらせるにはピッタリね」
にやりと笑いかけるとシャノンは忌々し気に言葉を吐く。
「主役喰いだと? 悪が正義に敵う訳……」
「ああ、それとここから先は」
瞬間私の姿は掻き消えると。
「やられボイス以外はNOセンキューよ」
「ぐはぁ!!」
シャノンの真横に現れがら空きのボディーに全力の拳を叩きつけその身体を吹き飛ばす。




