複合魔法
私はすぐさま対応する為、呪文を唱える。
「我がマナ使いて敵を焦がせ。火球!」
呪文に応じて私の前に火球が形成される。
こちらへ向かってくるシャノンを迎撃すべく火球を飛ばした。
「ハァ!!」
シャノンは難なく火球を一太刀で真っ二つに切り裂く。
一刀良断が発動しているのだろう。絶対切断能力とか、なんてふざけた能力だ。
しかし私は慌てる事無く次の呪文を唱える。
「我がマナ使いて形を現せ。魔粘土」
大地を自由な形に作り変える中級土魔法の魔粘土。
それが発動し、地面が盛り上がり、目の前に石の壁が出来上がる。
その頃にはシャノンは目前まで迫っていた。
「さっきの魔法で分からないのか。俺は一刀良断を発動している。こんな石の壁を作った所で意味なんか無いんだよ。これで終わりだ!!」
シャノンは剣を構え振りかぶる。
シャノンの剣は甲高い音を上げ石壁を中程まで切り込むと、そこで太刀筋が止まった。
「馬鹿な!? 一体なんで━━」
間違いなく斬れると思い込んでいた為かシャノンが一瞬立ち止まる。
その隙を今の私が見逃すわけがない。
「我がマナ燃やして眼前全てを荒らし尽くさん暴威を現せ。暴乱風」
私は風の上級魔法を唱えると、世界が私のマナを消費しその結果を創り出す。
空気中の魔素が大気を揺らし、大きな風を生み出す。膨れ上がった暴風は指向性を持ち一方向へと向かう。
「ぐっ、うわぁあああ!!」
暴風は石壁ごとシャノンを吹き飛ばし、その身体を切り刻む。
魔法が消えるとそこには、大きく削り取られた決闘場と身体のあちこちから血を流すシャノンが残されていた。
死んでもおかしくない威力で放ったのだが、生き残っている辺り流石転生者とでも言うべきだろうか。
「何故だ……、何故一刀良断が発動しなかった」
シャノンは石壁が切れなかった謎がまだ分からないらしい。
「貴方のスキルは発動してたわよ」
私は彼の答え合わせに付き合ってあげる。
「嘘だ! 発動していたなら断ち切れない訳が無い」
「ちゃんと切れてたわよ。私の魔法の部分はね」
「何を言っている? 石壁は切れていなかったじゃ無いか!」
シャノンはまだ先程攻撃を防いだトリックが分からないらしい。
引っ張る程でも無いので私は早々に種を明かした。
「さっきの石壁、貴方には全て魔法に見えていた様だけど私の魔法が作用したのは地面を持ち上げた基礎の部分だけ。貴方が切っていた壁の部分は私の魔力が関与していないこの決闘場の石畳よ」
私は魔粘土で石畳の下の地面を盛り上げて、そのまま石畳を起こし一枚の石壁とした。なので実際の魔法は基礎の部分のみで石壁の表面部分はただの石畳なのだ。
「そんな、まさか……」
ここに来て漸くシャノンも何かに気付いたらしい。
もしかしたら優れた戦闘能力と恵まれた一刀良断によって、今まで戦闘で追い詰められた経験が無かったのかも知れない。だから深くスキルを知る機会も無く、こと此処に至るまで自身のスキルの隠れた仕様を把握出来ていなかったのだろう。
「貴方に初めて襲われた時、私は防御障壁を作って防ごうとしたけれどまるで紙でも斬るみたいに何の抵抗も無く切り裂かれたわ。なのにその一撃は後ろにあった木を断ち切る事無く石壁同様途中で止まっていた。あの時は特に気にしなかったけど、貴方の能力が絶対切断なのだとしたら、後ろの木も断ち切れないのはおかしい」
勝つと決意してから一番初めに考えたのはシャノンのスキルに関してだ。私は可能な範囲で把握したと自負している。なので先程、火球が切られた時も焦る事無く対処できたのだ。
私は揺さぶりも兼ねて、一刀良断に関して推理を披露する。
「貴方のスキル本当は貴方が言う程強いスキルじゃ無いでしょう。少なくともズルと呼ぶには扱い辛過ぎるわ」
「……ッ!!」
シャノンは図星を突かれたのか苦い顔をする。
「まず発動が簡単じゃないわね。もし思うだけで発動出来るなら戦闘中常時発動してればいい。なのに貴方はそうしない。何故か、恐らく何某かの発動基準があってそれを満たさないと発動しない。少なくとも怒りで振るう様な突発的な攻撃ではスキルが発動しないわね」
私の脳裏にあの馬車と対峙するシャノンが浮かぶ。シャノンはあの時馬車に対して一刀良断を使わなかった。
もし仮に簡単に発動出来るならあの場で発動しなかった理由が無いのだ。
シャノンはギリリと歯噛みをするが、続けて弱点を上げる。
「それに発動してもそれは任意の対象に関してだけ。装備や魔法とか本人に関する物には作用するけど、それ以外に関しては一切の効果は無いわね。これに関しては貴方も曖昧な認識だったんじゃない」
否定しようにも、つい先ほどの石畳に阻まれるがあるので。シャノンは否定出来ずにいた。
「今あげた点をまとめて一つの仮定に辿り着いた。貴方のスキルは剣に作用するバフスキルじゃなくて斬る対象に対して作用するデバフスキルなんじゃない?」
「お前、どうして俺のスキルを……!!」
シャノンは私の推理に目を見開く。この反応が全てを物語っていた。
私は一刀良断の正体を言い当てる。
「貴方のスキルは貴方が本心で切って良いと確信した対象に両断と言う結果を付与するスキル。そしてその判断基準は貴方が悪であると確信する事」
「ッ! お前一体何者だよ!!」
全てを言い当てられ、シャノンは恐れから叫び声を上げる。
今のシャノンは取り乱している。冷静では無いのだ。
「さて此処で推理を披露した私から貴方に質問なんだけれど」
私は極めて冷静に、なんでもない様にシャノンに疑問を投げかける。
「自分の自慢の能力を言い当てられて錯乱している今の貴方に一刀良断が発動できるのかしら?」
「お前!!」
私は無詠唱で魔法を発動し、数発の石礫を発射する。
シャノンは咄嗟に剣で対応するが、まるで野球の様にカンカンと石礫を弾くだけであった。
一刀良断は既に切れている。この様子では即時発動も難しいだろう。
私は次の作戦に移る。
再度無詠唱で石礫を発射しつつ、口では別の呪文を唱える。
「我がマナ糧とし渇きを癒せ」
目の前に水の玉が三つ生まれる。ただの水の初級魔法だ。
だが詠唱はまだ終わらない。
「我が呼びかけに答えし水のマナよ、それは飛来する矢、その姿流動なる不定形、我望む、堅牢なる結束を」
一つの魔法に別の効果を付与する、詠唱魔法の高等技術。
その名も複合魔法。
「氷結水矢」
詠唱の完了と共に魔法が発動する。
絶え間なく襲ってくる石礫の対応に追われていたシャノンの元に矢の形をした水が襲い掛かる。
石礫同様、剣で弾いて見せるが、水の矢に触れた瞬間変化が訪れる。
剣に触れた水の矢は剣に纏わりつくと、瞬時に凍って固まる。
「何!」
急な剣の重さの変化に対応出来ずシャノンはよろめく。
その隙に残り二つの水の矢がシャノンに殺到する。
一つは傾いた腕と剣に、もう一つは左脚部分で弾け、シャノンの身体を地面に縫い付ける。
これが複合魔法、もとい詠唱魔法の強みだ。
詠唱する手間は掛かるが詠唱さえ出来てしまえば後はマナを消費して確実に魔法を発動する。
しかしそれ故にルールや詠唱文を暗記する必要があり覚えるのに苦労した。ボンドルの地獄の訓練は辛かったが今ばかりは感謝をしてもいい。
まあ、一部の天才は無詠唱でも複合魔法を発動出来るらしいがそんなのは例外なので今は関係ない。
「お前実力を隠していたな」
なんとか拘束から逃れようと藻掻きながらシャノンが睨みつけてくる。
「複合魔法を使えるならB組、いやA組だって狙えたはずだ」
「いや、それに関しては狙って無いんだけど」
「嘘を吐くな!」
力を抜いたのも、上のクラスになるのが面倒臭いだけだったのだが、シャノンが下衆の勘繰りをする。
一瞬変な空気が流れるが関係ない。私はシャノンの拘束が成功した事を確認し、次なる行動に移る。
「まあ取り合えず一つ決着がついた所で、貴方も動けない様だし次は話し合いで戦いましょうか」
「……くそ!」
シャノンはガタガタと身体を動かしなんとか拘束から抜け出そうとするが少しして諦めると悪態をつく。
言外に敗けたと言われ、反論できない現状に苛立つのだろう。
安心して欲しい。まだシャノンは本当の意味で負けてはいない。
「私ね、この決闘に向けてたくさん準備して来たの。本当にたっくさんね」
「お前と話す事なんてない」
「私貴方に言ったわよね。貴方を殺すって」
アニメや漫画なんかでも主人公がこう言う台詞を言う事があるだろう。
『負けてない』
そんな台詞を吐く主人公は決まって心が折れてないのだ。「まだ負けたと思って無いから負けてない」と。
なるほど、一理ある。
ならばシャノンはまだ負けていない。その目がまだ死んでないから。
では主人公にとっての本当の負けとは何だろうか?
それは心が折れた時なのでは無いだろうか?
「さっき言ったけど、私本当にたくさん準備したのよ。貴方を殺す為に」
「ッ!」
「貴方の事を考えて、考えて考えて考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて……」
では主人公の様なシャノンを殺すにはどうすればいいか。
心を殺せばいいのでは無いだろうか。
「それで一つ、貴方の前世についての仮説を思いついたのよ。それで主人公の化けの皮を剝がそうかと思ってね」
「前世? そんなの、分かる訳ないだろ」
シャノンは私の雰囲気の変化に緊張しているのか声を震わせる。
「まあただの与太話だと思って聞いて頂戴。間違えていたら反論してくれていいから」
私は笑顔でシャノンに辿り着いた答えを提示する。
「貴方、昔虐められてたでしょ?」
「……はぁ?」
私の発言を聞いたシャノンは顔色を手足を縛り付ける氷の様に凍らせた。




