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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
20/27

蝕むは音も無く始まる

「おい、貴様。決闘が見れると聞いたから来てみればなんだこれは?」

 前に出てきたヒュームは冷たい目で見下していた。

「なんだとは、どういった意味でしょうか?」

「皆まで言わねば分からぬか?」

 眉根を吊り上げこちらを睨みつける。

「決闘とは本来互いの尊厳を賭け戦う血沸き肉躍る神聖な物。至高とも言うべき試合には値千金の価値があると俺は思っている」

 ヒュームは目を瞑る。その姿はまるで愛しい恋人を思い浮かべているだった。

「数年前に見た剣聖と近衛騎士団長との決闘などまさにそれだ。まああれは決闘の名を冠したエキシビションではあるが、あの一戦はまさに至高の試合と言うべき物だった」

 そこで一呼吸置き、再度こちらに目を向ける。

「対してお前はどうだ? 開始前から上位の魔法を構築、挙句審判まで買収するなどこんな馬鹿馬鹿しい決闘今までに見た事も無い」

 その発言で周りからも野次が飛ぶ。

「そうだそうだ」

「こんな決闘あるか!」

「貴族の戦い方じゃないわ」

 どんどんヒートアップする会場に聖女もうんうんと満足げに頷く。

 興奮がピークに達するとヒュームは叫ぶ。

「こんなのは決闘では無い! これは正しく真剣勝負だ!!」

「━━はい?」

 予想と反した発言に聖女は呆気に取られる。

 そんな聖女を無視して会場のボルテージは更に上がる。

「勝負とは常に戦う前から始まっていると言われているがそれをまさに体現した決闘だ。常在戦場の心意気であれば最初の爆撃も避けれたであろう」

「アガリバジュウ卿!? 一体何を」

「であれば単に自力が足りなかっただけでは無いか。声高に違反などと馬鹿らしい。素直に自身の実力の無さを認める方がまだマシだ。それに比べてなんと考えられた作戦、その明敏な頭脳には恐れ入るな」

「そんな、まさかそこまで高度な事が行われていただなんて」

「貴族では無く計略家の戦い方だったという事ね」

「天才の考えている事は我々一般人には計り知れないって事なのか」

 急激な流れの変化に聖女はついて行けず、周りを見渡す事しか出来ない。

 まだ何が起こっているのか分かっていないようだ。

「武術の面では劣るがこの決闘も見所のある戦いであった。こんな決闘を繰り広げてくれた彼女、いや()()()()には感謝をしてもし足りない!」

「……リベル様? ッまさか!!」

「漸く気付いたようね」

 聖女は目を見開いて周りを凝視する。その様子を見てつい笑みが零れてしまう。

「聖女様、これは一体……」

「やられました。ここに居る全員に彼女のスキルが掛かっています!!」

「そんなまさか! 洗脳スキルはそんな簡単に掛けられる物じゃ無いではありません! 無理に掛けても失敗するか廃人になるはずです! こんな精度出鱈目だ、あり得ませんよ!」

「信じる信じないは勝手だけど、残念ながら事実なのよね」

 私はこの決闘が始まる際に漏れ出る魔力をスキルの発動によるオーラで誤魔化していた。しかしそれはただの目くらましではない。世界一理想の女の子(ミイズガル・デスベア)なのだ。

 決闘場は広いので流石に自動発動だけでは掛ける事が出来ないが、任意発動の世界一理想の女の子(ミイズガル・デスベア)ならば時間を掛ければこの様にかける事が可能なのだ。

 本気を出せば一気にかける事も可能だろうが、それでは聖女やシャノンに気付かれた可能性が高い。よってこの様に時間を掛けて秘密裏に掛ける事にしたのだ。

 これがこの状況の種明かしである。

 先程までの意趣返しにニヤニヤと笑いながら話しかける。

「どうやら形勢逆転の様ね?」

「……貴方の実力を読み間違い一本取られたのは認めましょう。でもここからどうするつもりです? まさかここに居る全員を使って私達を襲うつもりですか」

 その瞬間、聖女とヴェイロンの身体に魔力が迸る。

 一目見ただけで分かる。シャノンなんかより圧倒的に強い。

 もし戦う事になれば負けは必至だろう。

 そう、()()()()()()だ。

「何を勘違いしてるの? そんな事する訳ないじゃない?」

 そう言うと私は周りの生徒に向けて一つのお願いをする。

「皆さん! 私の為に()()()()()()()()?」

「ッ、一体何を!?」

 聖女はここに来て初めて驚愕の表情を表す。

「リベル様の為に死ねるかって?」

「そんなの当たり前の事だよな?」

「嗚呼、リベル様にお願いされちゃった! こんなの嬉し過ぎるでしょ!!」

 周りの生徒達は口々に喜びの言葉を発すると、各々が持っている剣やナイフなどの武器を、手元に武器を持っていない生徒は杖に魔法を構築して首元に構える。

「平民の生徒も居るでしょうけど、ここに居るやんごとない方々が一斉に死んだら、流石に大変なんじゃない?」

「貴様ぁあああ!!」

「やめなさいヴェイロン!」

 私に魔法を放とうとしたハゲを聖女は止める。

「何故止めるのですラクリ様!!」

「もし攻撃して他の生徒に被害が出たらどうするのです。それに……」

「なんだ、まだ死なない方がいいのかリベル様」

 聖女としての体裁を気にしての発言だろうがその視線は何よりも本心を物語っている。

 聖女の視線の先には、公爵家の長子であるヒュームが高そうな剣を首筋に構えている所であった。

「私の勝ちでいいかしら?」

「……下手な演技はやめて下さい。ここまでの事をしておいて、こんな茶番の勝敗一つが本意では無いでしょう? 何が狙いですか」

 聖女は魔力を解いて話を振る。

 漸く要求を聞く位には立場が向上したらしい。

「私にとってはこの決闘の勝敗も本意の一つではあるんだけど、まあいいわ」

 私は腕を組み、あくまで余裕を態度で表す。

「まずは貴方たちの間違いから訂正するわね。確かに私はゴルゾニーヴァに転生させられたから邪神の手先と言えるかも知れないけど、私にとってはどうでもいいのよね。別に世界征服する気だとか、人類滅亡とか望んじゃいないし。逆に人類の安寧を求めていると言ってもいいわね」

「こんな悍ましい光景を作り出してよく言えますね」

 聖女は疑惑の目を向ける。まともな反応だ。私が聖女でも同じ反応をするだろう。

「別に信じようが信じまいがどっちでもいいけど、ただ実際私がこの一か月の間に何かを企んでる様な動きはしていない筈よ?」

 聖女は私の言葉の真意を探る。真意も糞も全て真実なのだがそれが相手に伝わるかは別問題なので仕方が無い。

「それに本当に何か目的があるのならもっとうまく動いているわ。今のこの現状が私の身の潔白を証明しているとも言えるわね」

「下らない詭弁ですね。それで、貴女は何を望むのですか?」

「私と周りの人の安全と安寧」

「それが本気で通るとでも?」

「その時は暴れるだけね」

 私は観客席に視線を向ける。聖女もその視線を追いかける。

「この子達が今からどうなるかは想像がつくわよね。その後私は今以上にスキルを使って暴れまわるわ。流石に生き残れるとは思わないけれど、その時に王都の機能がどこまで生き残っているかしらね?」

 聖女はギリリと歯噛みする。押すならここだろう。

「逆に言えば、今ここで私に手を出さず、()()()()私を狙わないと誓えるなら私も自棄的な攻撃はしないと誓うわ」

 聖女は私の言葉に少し思案する。

「その言葉を信じろと?」

「少なくともここでやり合うより理性的だと思うけど」

「……はぁ、帰りますよヴェイロン」

「ラクリ様、奴を見逃すつもりですか!」

「流石に今回は私達の負けですよ。こんな茶番の結末などどうでもいいです」

 聖女はこちらに視線を向ける。

「これでいいでしょうか?」

「ええ、問題ない……」

「良いわけあるかぁあ!!!」

 それまで黙っていたシャノンが吠える。

「シャノンさん、聞いてませんでしたか。今回は私達の負けで……」

「うるさい! 悪に屈するなどあり得ない!!」

「貴様! ラクリ様になんて口の利き方を━━」

「ここでコイツを見逃すと言うのなら!」

 シャノンは剣の切っ先を聖女達に向ける。

「お前達も悪だ」

「……」

 聖女はシャノンに冷たい視線を向ける、だがシャノンの瞳に迷いは一切ない。

 心底面倒くさそうにこちらに向き直る。

「はぁ、じゃあもう勝手にして下さい。それではリベルさん、そちらの方は私共とは一切関係がありませんので後は煮るなり焼くなり殺すなり勝手にして下さい。私達は()()()()手を引きますので、皆さんの武器を下ろしてもらえませんか?」

「……皆さん、ありがとうございました。武器を下ろしてもらえますか?」

「なんだ、面白い光景が見れると思ったのだがな」

 そう言うと観客席の生徒達は次々と武器を下ろす。

 ヒュームは憎まれ口を叩くが、それを無視して聖女は無事を確認すると踵を返す。

「それでは私達はこれで」

 人質が解放されたのを確認すると聖女はハゲを連れ、決闘場から去って行った。

「……何故聖女に俺を止めるよう頼まなかった」

 シャノンはこちらへの警戒を一切緩めずに質問をする。その顔は強い憤怒の感情に塗りつぶされている。

 私はそんなシャノンへとあっけらかんと答える。

「勝てる勝負なのにそんな貸しを作る様な真似する訳ないじゃない」

「本気で言ってるのか?」

 シャノンはより強く顔を歪ませる。

「先程の発言、納得はしていないが嗚呼その通りだ。俺はお前の卑怯な奇策に虚を突かれただけで、警戒さえしていれば避ける事など容易い。そして俺はもうお前に関して一切の油断はしない。最初の爆発で仕留められなかった時点でお前の負けなんだよ!!」

 全身から強い怒気を発するシャノン。しかし私は初めの頃に感じていた脅威を一切感じなくなっていた。

 むしろその姿は傷を負った獣が虚勢を張っている様に見え、痛々しくすら感じていた。

「貴方は最初の爆発を失敗と思っている様だけど、追い詰められているのは貴方よ?」

「あ゛あ」

「これ以上の手加減は出来ないって言ってるの」

 私はシャノンの瞳を真正面から見つめる。

「この決闘が始まる前、貴方は私に諦めるチャンスをくれたわね? だから私もチャンスを上げるわ。ここで諦めなさい」

 シャノンは暫く睨みつけると、武器を構える。

「断る! お前は悪だ!!」

 やはりそうなるか。予想通りの展開だ、私も気合を入れる。

「そう、なら貴方を殺すしかないわね」

 私のその発言が口火となりシャノンが飛んでくる。

「一刀良断!!!」

 決闘の第二ラウンドが今始まる。

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