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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
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逝ってらっしゃい

 私は空中を飛び回る。鳥の様な力強い羽ばたきでは無く、耳障りな羽音をまき散らしながら。

 どうやら私は虫に転生したようだ。虫の転生は一見ハードモードに感じるが、やり方次第では最強に至れる浪漫溢れる転生と言えるだろう。

 勿論、地球基準の虫転生なら九割外れだ。流石輪廻転生の外れ枠。人に戻る為には、人並みの徳を積まなきゃならないとか。……無理ゲーじゃないそれ?

 その点異世界の虫転生はまだ逆転のチャンスが残っている分まだましだろう。

 まず自分の意識が残っているので、人間並みの知能や知識で行動が出来るという事だ。虫とか殆ど本能と反射で行動してるらしいがこちらは理性で行動出来るのだ。これは大きなメリットだろう。

 上のメリットを更に生かすのが、異世界特有のスキルの存在だ。

 ただの力比べをして子供が大人に勝つことは殆ど困難だと思う。五十キログラムの物を運ぶ勝負だとして、子供には到底敵わないだろう。これがスキル無しの場合。ではこの子供が、てこの原理やら仕事の原理やらを使いこなしたらどうだろうか。いい勝負をしそうではないだろうか。ではこの子供がフォークリフトを使いこなしたら? 大人がよっぽど筋肉自慢じゃ無ければ子供の圧勝だろう。

 これが俗に言うスキルと言う奴だ。剣術のスキルを持たない大人より、剣術のスキルを持つ子供の方が勝つのだ。

 勿論、作品によってパワーバランスはまちまちだ、さっきの例えの大人と子供の戦いで普通に力で農民が勝つ場合もある。だが頭を使いスキルを使いこなす事で、絶対的不利な状況からの逆転勝利がしやすくなるのは大体に言える事だろう。

 これまでの説明を上手く使うと何が起きるのか。まず勝てない勝負はしない。勝てそうな格上にだけスキルを駆使して戦う。そしてそれを繰り返し、安定して強くなっていくのだ。

 ここまで聞いて「でも虫のカテゴリーで強くなるだけで、人には敵わないんでしょ?」と思う人もいると思う。しかし異世界虫転生には、まだ語っていないメリットが一つ存在する。

 それは「進化やら強化で人より強くなっちゃいます」だ。

 異世界の虫は、まずある程度強くなると、大きさが人より大きくなったりするのだ。二メートルのカマキリを想像して欲しい。まず一般人では勝てないだろう。なので虫転生は、B級映画の怪物の気分が味わえる。

 それでも虫は虫と言う貴方、安心して欲しい。虫モンスターの最終的な進化先は大体、人型虫モンスターなのだ。人型ゆえに人語を介するので後々に人と共生する道もあったりする。見た目ががっつり虫の外れパターンも存在するが、殆ど見た目が人の「虫の要素どこ?」の勝ちパターンを引ければ下手な転生よりもよっぽど勝ち転生と言えるだろう。

 長々と虫転生について語った所で、私の目標は人型になる事だろう。勿論この世界の虫が先程語った虫転生に該当しない可能性は十分にあるが。初めから希望を捨てる意味は無いだろう。

 飛びながら標的を探していたのだが少し疲れた。ちょうどいい葉っぱがあるので少し休憩する事にする。

「!?」

 葉っぱに乗った瞬間、私はとてつもない殺気で身体が固まる。

 なんだ?この空間が歪む様な感覚は?! 辺りを見渡すとそれはそこに存在した。

 生々しい肉塊に触手が付いている気味の悪い物体。肉塊部分に口のみ付けられた子供の落書きの様な見た目が、余計にその物体の悍ましさを掻き立てていた。

「よぉ、楽しんでるかぁ?」

 何が楽しいのか、肉塊は下品に笑いながら話しかけてくる。

 気さくに話しかけているのに、その触手の一本一本からはただならぬ殺気を溢れさせている。

「げひゃ、やっぱり虫はぶっ叩かなきゃなぁ?」

 次の瞬間、私の翅は消し飛んでいた。続けざまに四肢も捥がれる。

 何が起こっているのか分からないが、消し飛ぶ度に触手の位置が変わっているので、この肉塊の攻撃によるものなのだろう。

 今私は凄く冷静だ。それと同時に必死に警鐘を鳴らす自分も居る。恐らく虫の機械的な部分が冷静な私で、人間の部分が必死に警鐘を鳴らしているのだろう。

 翅も消え。手足も捥がれた状態で出来る事はもうない。ただ死を待つのみだ。

「ま、最後はこれだよなぁ?」

 そう言うと触手を大きく振りかぶりプルプルと力を溜め始める。そんなに力を溜めなくても、触手の一本でも軽く振るえば私は死ぬ。わざわざする理由は私に恐怖心を感じさせる為だろう。見た目だけじゃなく性格まで悪趣味らしい。

「そんじゃ、いってらっしゃい!!!」

 限界まで高められた力を解放する触手。やはり目で追う事は出来ない。

 何故だか前にも同じことがあった気がするのだが――






「ぎゃあぁあああ!」

 私は叫ぶ、間違いなく死んだ。あの肉塊の化物に触手で消し飛ばされたのだ。何が「いってらっしゃい」だ。「逝ってらっしゃい」の間違いだろう!

「はぁ、はぁ、……あれ私、生きてる?」

 どうやら転生は無事、出来たようだ。今までのは夢だったのだろう。転生して初めに抱いた感想が死とかとんだ異世界転生だ。

 徐々に覚醒する意識が、周りの状況を一つずつ理解していく。

 それなりに広い部屋の中で、私はベッドに寝ていた。先程の悪夢の感覚と、今寝ているふかふかなベッドの感触。その感覚の差異が僅かに思考をかき乱す。

 窓から見える空の色が、まだ早朝なのだと私に教えてくれる。

 その時、扉の向こうから走る足音が聞こえた。まっすぐこちらに向かっているようだ。

 そして少し乱暴なノックの音が鳴る。

「叫び声が聞こえたのですが、ご無事ですかお嬢様?」

「え、えぇ。大丈夫……です。少し怖い夢を見てしまって」

「入ってもよろしいでしょうか」

「だ、大丈夫よ」

「では失礼します」

 正直、断るニュアンスで言った大丈夫なのだが、どうやら肯定の意味で受け取ったらしい。言葉って難しい。

 入って来たのはメイド服に身を包む女性だった。本職のメイドを見た事が無かったため少し興奮してしまった。

「顔色も優れないご様子ですが体調に問題はございませんか?」

「かなり怖い夢を見てしまったの……です。まだ少し動揺しているだけ……です」

 ヤバい。まだ話し方が固まらないせいで、たどたどしい感じになってしまっている。悪い事している訳じゃないのに、バレるんじゃないかって気分になる。

「……? それならば気分が落ち着く飲み物を持ってきます。それを飲めば少しは気が静まるはずです」

「あ、ありがとうございます」

 メイドさんは少しこちらに笑いかけ、会釈をしてキッチンへと向かう。

 恐らく悪夢で気が動転してると思ってくれたのだろう。

 意識がはっきりし始めた頃に部屋に姿見がある事に気付いた。姿見の前へと行く。

「これが、今の私……」

 そこには幼い女の子の姿があった。

 歳は五歳位だろうか。綺麗に整えられた緑の長髪に、紫色の瞳のパッチリのおめめ。その他のパーツも全体的に整っていて、自画自賛だが美少女の部類に入るんじゃないだろうか。

「よぉ、ずいぶん遅いお目覚めだなぁ?」

「ひぅ!!」

 自分の姿に見惚れていると、突然誰も居ない部屋から声が聞えた。もはや軽くトラウマになっているので、思わず悲鳴が上がる。

「暫くぶりだな、メアリー・スー」

「その声、ゴルゾニーヴァ?」

 それは自分をここに転生させた神の声だった。

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