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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
19/27

決闘の開始は爆発の音と共に

 七日目・決闘当日


 とうとうこの日が来てしまった。一週間前は如何にやり過ごすかを考えていたのに、まさか本気で勝ちを目指す事になるとは思わなかった。

 だが勝ちを目指すからには打てる手は全て打った。私の勝ち筋はもはや揺ぎ無いだろう。

 現在は放課後、私は決闘の場所となる闘技場へと向かっていた。

 闘技場は学校の施設の一つで、グラウンドをぐるりと観客席で囲んだ様な建物だ。一番近いイメージはイタリアのコロッセオと言ったところか。

 グラウンドには一面石畳が敷き詰められ、見栄えはいいのだが実際に戦う闘技者の安全等は一切配慮されていない。

 普段は授業や生徒の自主練の時に使われる場所なのだが、今回は決闘の舞台として選ばれたのだ。

 闘技場の近くに着くと既にかなりの生徒が来ているのかざわめきが外まで聞こえてくる。恐らく聖女が噂を流して人を集めたのだろう。私が無様に負けて恥をかく所を衆人環視の元に晒そうとでも思っているのか。あんなあくどい女を誰が聖女に推薦したのか甚だ疑問だ。

 闘技場から聞こえる喧噪が否応も無しに決闘の存在を私に意識させる。

 私はその喧噪を聞き流しながらゆっくりとグラウンドへと向かった。

「本当に逃げずに来たんですね」

 グラウンドへと続く廊下を進んでいると聖女に声を掛けられる。

「私はてっきり理由を付けて逃げるかと思ってましたよ?」

「最初はそれも考えていたのだけれど、貴方の所の代表者さんに奮起させられたのよ」

 聖女はこくりと首を傾げる。聖女の理解なんて求めていないので無視して続ける。

「私は主人公だからこんなイベントちゃっちゃと終わらせるわ。私の完全勝利でね」

 私の発言を聞いて聖女はくすくすと笑いだす。

「自分と彼の実力差ってわかってます?」

 揺さぶりをかけているのか聖女がそんな事を聞いてくる。

 なので私も意趣返しに質問を返す。

「貴方こそ彼が何を理由に戦っているか分かっているのかしら」

 私の質問に聖女は少し考え、すぐにいつもの調子に戻る。

「その質問になんの意味があるのか分かりませんが、まあ頑張って下さい」

 その言葉を最後に聖女はその場から立ち去った。観客席からこの試合を見るつもりなのだろう。

 しばらく薄暗い廊下を歩くと光が見えてくる。そこを抜ければもうグラウンドだ。

 ここからは一つの失敗も許されない。一度主導権を相手に譲れば取り戻せる確証はどこにもない。

 大丈夫、私なら出来る。

「……すぅ」

 私はゆっくり息と共に緊張を吐き出し、万全の状態でグラウンドの中央へと向かった。



〈聖女視点〉

 あの女は何か言っていましたが下らない。

 何を理由に戦っているのかなんて分かり切っています。邪神の手先を滅ぼす為です。

 まあ多少同情を買ったのか甘い事を言っているのは感心しませんが、彼は女神様より遣わされた転生者です。それ以外に理由などあろうはずもない。彼は正義感が強いようですから、決闘で手を抜く様な真似はしないでしょう。

 今回の決闘の審判は彼女のクラスのカボナ先生に頼みました。彼女の洗脳(スキル)に掛かっているかは目を確認すれば分かります。スキルに掛かった者は虹彩の周りに薄っすらと闇の様な靄が掛かるのです。カボナ先生は彼女と接触していると言うのに掛かっていませんでした。

 カボナ先生の家は熱心な聖女神教会の教徒らしく、あの女のスキルも防いでいたようです。

 こう言っては何ですが女神からの祝福も無く、まして対策のアイテムすら持ってない一般教徒すら満足に掛けられない彼女のスキルには哀れさすら感じます。

 カボナ先生にはその後すぐに上位の対洗脳アイテムを渡したので対策も万全です。

 女神様から神託で「低位の洗脳スキル程度の威力で満足に使えない」と聞いた時には正直疑いましたがカボナ先生の事を知った時には確信しました。

 彼女は低位のスキルを与えられて転生させられた哀れな存在であると。

 思い返してみても、最近出現する邪神より力を与えられたと思わしき魔物や魔族は、ただ基礎能力が向上しているだけ。邪神も力が底を尽きそうで彼女に力を割く程の余裕も無いのかもしれませんね。

 それで言えば今回の決闘は良かったかもしれません。

 今や多くの転生者を保有する我が国では、それほど邪神の手先は恐れる物ではありません。

 彼女の大敗する所を見せればクラスメイトの洗脳も勝手に解けるかも。解けなかった場合、私が解いて素面で哀れな彼女に対面させるのも面白いかもしれませんね。

 今までスキルで維持していた王座から引きずり降ろされた時、彼女がどんな泣き言を言うのか今から楽しみです。



〈シャノン視点〉

 グラウンドにはそれなりに多くの人が押し寄せていた。特に触れ込みなどした訳では無いので伝聞でここまで集まったのだろうか?

 まあ特に予定が無いのならば暇つぶしに見に来る奴が居てもおかしくないかと俺は独りごちる。

 そんな時ぽつりと俺の中に一つの疑問が浮かんだ。

『あいつはこの観衆の中で負けたとしてそれでも自分は主人公だと言えるのだろうか……』

 あいつの支配下に居る生徒が負けた時にどう思うのかは分からないが、負けた時にどう説明するのだろうか。「相手が強かった」「体調が万全では無かった」そんな言い訳をしてもあいつは自分自身を主人公だと思えるのだろうか?

 そこまで考え俺は湧いた疑問をかき消す。どうせ考えたって無駄だ。どの道俺はここであいつを倒すんだから。

 俺が湧いた下らない疑問を忘れ再度決意を固めていると、無秩序なざわめきだった観客席の一角からある声が飛ぶ。

「来た!リベルさんだ」

「やっちゃってください、リベルさん!」

「……来たか」

 グラウンドの入場口に目をやるとリベルが顔を強張らせて現れた。そのまま特に反応の無いまま適当な距離を置いて立ち止まる。

「想像より観客が多くてびっくりしたか」

「……」

 無反応だ。数日前あれだけ啖呵を切ったが緊張は隠せないらしい。

「最後通告だ。諦めるなら今の内だぞ」

 その時リベルの身体から禍々しいオーラが吹き荒れ俺を睨みつける。聖女様から聞いたが女神の加護があるので俺にリベルのスキルは効かない。開始前に少しでもスキルを掛けて手心を貰う腹積もりか、いや言外に戦意を伝えているのだろうか。数日前の殺すと言う発言を思い出す。

 相手がそのつもりなら仕方が無い。こちらも全力で相手をするだけだ。

 リベルが到着してすぐ審判が現れる。

「本日の決闘の審判を務めるカボナ・フェーデンだ。特に問題が無ければ決闘のルール説明をさせて貰うが構わないか?」

 審判は俺とリベルの顔を伺い問題ないと判断したのかルール説明に入る。

「ルールは決闘書に書いていた通りだ。審判の判断で勝敗を決める。敗者は勝者の主張を受け入れるってことで文句は無いな?」

「はい、問題ありません」

「……」

 リベルは黙って頷く。審判は同意と認識したのかそれ以上何も言わず俺達から距離を取る。

 ついに始まる。開始と同時に俺が速攻で決着をつけてやる!!

 リベルは殺すと言っていたが、俺はルール違反をする様な真似はしない。可能なら模擬剣の一振りで気絶。抵抗するようなら骨折くらいは覚悟してもらう。

 リベルと俺の間の緊張が徐々に高まるのを感じる。

 その時俺が違和感とも言えない僅かな疑念を感じたのは一重に積み重ねてきた戦闘経験故か、それとも偶然か。どちらかは分からないがはっきりとした違和感を覚えた。

『なんでコイツ()()()()()()()んだ?』

 しかし俺の思いとは関係なく審判は開始の合図を出す。

「それでは! (はじ)m――」

「くたばれ勘違い野郎」

 俺は咄嗟に無意識の領域で模擬剣に魔力を纏わせ振るう。

 その瞬間俺の目の前で大爆発が発生した。







〈リベル視点〉

 完全に不意打ちに成功したと思ったのだが、寸前の所で気付かれたのか避けられる。

 剣を振ると同時に風の魔法でも発動して相殺したのだろうか? 不意打ちの爆発を避けるとか意味が分からないが、それでも完全には避け切れなかったのか少しダメージを負っていた。

 何が起こったか説明すると私はここに来た時から魔法を構築し続けていた。

 この世界では呪文を口で唱える詠唱魔法が一般的だが無詠唱で発動する事も出来る。無詠唱魔法と呼ばれるのだが、やり方としては魔法を強くイメージして発動させると言う物。

 言うは簡単だが、実際は魔法に対する深い造詣が求められるので、かなりの熟練度がある魔法使いでなくては使えない。

 私自身も簡単に使える訳では無く、先程の上位魔法大爆発(プロトガ)を無詠唱で使う為には、しばらく全力で集中して身体から無駄に魔力を漏れ出させ一分弱時間をかけて魔法を構築してやっと一発撃てるのが限界である。

 多大な隙を晒す上に漏れ出る魔力で何かしてるのが丸わかりなので、正直使い物にならない。だが今回は決闘の開幕で使う為に、試合前から構築に入る事で構築時間を、漏れ出る魔力を世界一理想の女の子(ミイズガル・デスベア)の気配で誤魔化す事で何とか問題を解決して使用する事となった。

 ここで倒せるのが理想ではあったのだが少しでもダメージが入ったのなら及第点だ。

 しかし相手も馬鹿では無い。正確に何をやったか分からないまでも、私が無詠唱魔法で上級魔法を発動させたくらいは分かったのだろう。

 シャノンは審判に抗議を入れる。

「おいカボナ先生! 今のはどう見ても上級魔法だ! 死んでたっておかしくない。これは明らかなルール違反だ!!」

 シャノンは反則であると声を上げる。彼でなくても対戦相手がルールガン無視で攻撃して来たならばすぐに審判に訴えるだろう。

 だからこそ、()()()()なのよ、シャノン。

 審判はシャノンの方に顔を向けると首を振る。

「いや、今のが上級魔法と言う証拠は無い。それに君も死んでいないじゃ無いか? よってルール違反ではない」

「はぁ!? あんた何言ってんだよ!!」

「その通りですカボナ先生。あれはどう見ても上位魔法の大爆発(プロトガ)です。立派なルール違反では無いですか?」

 観客席にいる聖女からも抗議の声が上がる。隣にはさっき居なかったハゲまで居る。

 使った魔法もお見通しの様だ。

 しかし、ただそれだけだ。

 今回に関してはこの闘技場に来た時点で、既にお前の負けは決まっている。

 審判は聖女の言い分をきっぱりと否定する。

「いいえ、いくら聖女様と言えど了承しかねます。証拠が無い以上違反と断定する訳にはいきません」

「貴様! 聖女様の判断を疑うつもりか!!」

「待ちなさいヴェイロン。彼の様子がおかしいわ」

 憤るハゲを止める聖女。審判を暫く凝視して目を見開く。

「貴方……スキルを使ったわね」

「ええ、使ったわよ。スキルの使用は禁止されていなかったわよね?」

「あり得ないです! カボナ先生には洗脳の対策アイテムを持たせていたのですよ。貴方の脆弱なスキルでは掛ける事など不可能なはずです」

「……なるほど、女神も完璧では無いのね」

 これは嬉しい誤算だ。女神なんて言うからてっきりこちらの手の内は完全に把握していると思っていたが、こちらの世界の神は決して全知全能ではないらしい。思い込むのは危ないが、ライブ配信の様に今現在起こっている事しか認知出来ないのでは無いだろうか。

 だから私のスキルがクラスメイトにしょうもない命令しか出来ない、ショボい洗脳スキルだと勘違いしたのだろう。

「簡単な事よ、私のスキルの方が貴方の与えたアイテムより凄かったってことでしょ」

「そんな馬鹿な」

 聖女はカボナ先生を暫く注視すると突然目を見開く。

「アイテムが……壊れている」

 壊れてる? そう言えば昨日掛かり辛くて、少し強く発動したらパキンッなんて乾いた音が鳴ったな。よく見れば指輪の石が割れてしまっている。

「正直スキルに掛かっているのも想定外ですがそれ以上に分からない事があります。何故カボナ先生が審判だと分かったのですか。彼が審判をするのを知っている人物は私のみです。貴方がその情報を得るのは不可能です!」

 そんな事? あまりにも下らない事で私は吹き出してしまう。

「そんなの簡単じゃない」

 ここで一つ例え話をする。

 色んな色のボールが入った箱の中から特定の色のボールを一つ選ぶとしてその確率を百パーセントにしたいとする。どうすればいいか。

 全てのボールをその色に染めてしまえばいい。そうすればどれを選ぼうと百パーセント特定の色のボールが選ばれる。

「教師に片っ端からスキルを掛けただけよ」

 私の言葉に聖女は絶句する。

「噓です、そんな簡単に洗脳スキルが掛けられる訳がありません」

「どうでもいいわそんな事。ルールでは審判の判断に委ねるのよね? なら私は不正じゃないみたいね」


 私の発言を聞いて聖女は落ち着きを取り戻し話を続ける。

「審判の件は正直やられました。確かに審判しかこの場に居なければ貴方の作戦も成功したかもしれませんね」

 聖女は一度クスリと笑うと周りを見渡す。

「ですが、この作戦が通用するのはあくまで審判一人で決闘を行っていた場合です」

 そう言うと聖女は観客席に視線を向け、一際大きな声を上げる。

「皆さん! 今聞いた通りこの決闘は初めからルール違反だらけの八百長だったわけです。こんな事ゆるされていいのでしょうか?」

 先程まで静まり返っていた観客席からにわかに声が上がり始める。

「あれってやっぱ魔法だったのか」

「どう見ても中位魔法以上の威力はあったわよね」

「一つどころか殆どルール違反してね」

 その呟きは水に垂らした絵の具のようにどんどんと波及していきスタジアムの至る所から怒号が飛び交う。

 確かに聖女の言う通りだ。私の審判を抱き込む作戦は他に判断する者が居ない上で成り立つ。異論を唱えるのが一人二人なら、判定が覆りなんてしないかも知れない。

 しかしここには()()()()()がいる。

「ふざけんなよ! 決闘をなんだと思ってんだ」

「女神の名の下で不正を働くなんて罰当たりが!」

「勝てないからってこんな汚い作戦をするなんて」

 一人の審判の判定なんて、大勢の民意の前では無力だ。

「お前ら! リベル様が悪いって言うのか!!」

「この偉大な作戦が分からないなんて、なんて愚かなの!」

「み、皆さぁぁあん! お、おおオチ落ち着いてくだひゃいいい!!」

 濁流の様な民意の前では僅か数十人程度の擁護では打ち消せはしない。号泣ちゃんなんてもう泣き出してしまって後半噛みまくっている。よく見ると鼻水まで出してる。

 ふと聖女の方を見るとこちらに余裕の笑みで見つめていた。

 これだから聖女は驚きはしたが慌てなかったのだろう。


「全く見てられないな」


 そんな観客席の中から一人の男子生徒が歩み出る。

「おいあれって」

「公爵」

「ヒューム様!!」

 先程までのブーイングが一斉に静まり返ると皆一様にその男子生徒の方に視線を送っている。

 聖女は殊更に芝居がかった話し方をする。

「これはこれは、アガリバウジュ卿。一言声を掛けて下されば来賓席にご案内しましたのに」

「ふん、そんな高みの見物ではよく見えんだろ。それに俺は堅っ苦しいのが嫌いなんだよ」

 聖女に対して不遜な態度、しかしヴェイロンは特に諫める様な事はしない。

 一瞬にしてその場を支配するカリスマ性。聖女と同じ程の地位を持つ絶対強者。

 スキルのおかげで人生イージーゲームだと思って、あまり貴族社会に詳しくない私でも名前を知っている超有名人。

 アガリバウジュ公爵家の長子。

「俺の事はヒュームと呼べ」

 ヒューム・デイル・アガリバゥドその人だった。

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