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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
18/27

真実は何時だって冷たく悲しい

 家に着くなり私はすぐに自室に籠もりシャノンとの出会いからこれまでを思い浮かべていた。

 戦うとなればもはや身辺調査などしている暇は無い。明日は準備やらで一日が消えるだろうから今ある情報で作戦を組まなくてはいけない。

 シャノンは厄介な相手だ。優れた身体能力に絶対切断能力のスキルまで有している。

 今わかる範囲で奴のスキルの内容を推測するなら切断強化、刃物や剣状の物体で対象を斬る事で発動すると言った所か。切る事に特化した日本刀ですら正しく芯を捉えねば切断する事など出来ないと言うのにあいつは適当に振るって当てるだけで切断できるのだ。素直に強いと認めざるを得ないだろう。

 しかし強いからと言って勝てないかと言われればそうでは無く、勝つ作戦自体は最初からだいたい出来ている。奴のスキルが無敵化とかそんな感じだったら無理だったが、ただ切れ味を上げるだけのスキルなら問題なくこの策が使える。

 問題なのは勝った後だ。聖女とはまず間違いなく敵対する事になるだろう。

 だがそこはこの際どうでもいい。元より女神陣営と不本意ながら邪神陣営で最初から相容れないし、勝った時点で最優先討伐対象入りだ。それならば聖女の事は聖女と事を構えるその時に考えるとしよう。

 問題はシャノンが負けた場合、間違いなくしつこく私を狙ってくるだろうという事だ。それも今までの様に様子見では無く機会があればすぐにでも斬りかかって来る様になる。

 先程殺すとは言ったが殺すのはあくまで最後の手段だ。何故なら私が手段を問わずシャノンを殺した場合間違いなく聖女から全力で討伐される事になるだろうから。

 聖女は私の力を過小評価している。だからこんな決闘(茶番)を用意したのだ。シャノンを倒した時点で私の警戒レベルは否応なしに上がる。

 その時にもし私がシャノンを殺したとしよう。流石にシャノンも抵抗する事が予想出来るのでこちらもルール無視で全力で相手をする事になるだろう。そして勝った私に対しての聖女の評価はどうなるか、本能で暴れる理性無き魔獣と同じ扱いになるだろう。そしたら交渉も何もあったもんじゃない。直ちに討伐隊を編成され終わりだ。

 私も抵抗はするが、流石に一国と敵対して生き残れると考えられる程幸せな脳味噌はしていない。

 これは別に聖女だけの考えでは無いだろう。私が同じ立場でも同じ事をする。

 理性も無くただ周りに殺戮を撒き散らす存在等害獣と同じだ。話し合いも出来ないなら被害を抑える為に速やかに殺すしかない。

 しかしもしシャノンを生かしたとしよう。敵対はするがすぐに強硬手段に出る事は無くなるだろう。何故なら相手がただ周りを殺す存在じゃなくなるからだ。

 例えるなら私は爆弾魔の様なもの。不用意に追い詰めて周りを巻き込み爆発(暴れられる)より交渉し落ち着いてる所をサクっと仕留めたい筈。聖女だって被害は少ない方がいいのだから。

 勿論シャノンを生かした所で大規模な討伐隊を組まれる可能性も無くはないが、その時はどの道死ぬ最後の一瞬まで暴れまわればいい。それならば少しでも交渉する可能性があるシャノンを生かす選択を選ぶしか私にはないのだ。

 私がこれから取るべき行動はシャノンを生かして戦闘不能にした上で、再戦する気が起きない程徹底的に打ち負かす事である。

 条件を考えると困難に感じるが何も難しい事では無い。肉体を傷付けられないなら精神を攻撃すればいい。立ち上がる気力を失う程徹底的に否定すればいいのだ。

 なので私はシャノンについて考えていた。何が好きで何が嫌いか、どんな信条を掲げてどんな信念で動いているのか。どんな風に前世を生きて、何を望んで異世界に転生したのか。それこそがこの戦いの鍵を握るのだから。

 あいつの表情や行動を思い出し、その時の感情や思考を想像する。

 接触した時間は一週間にも満たないが、足りない情報は推測で導き出せ。

 自分の考えは捨てろ。私自身がシャノンの視点に立って考えろ。

 シャノンならどう思うか……シャノン()ならどう考えるか。

「『俺は正義感の強い人間だ。どんな悪事も見逃せない。だから鍛錬を続けて強くなった』……いや違う。ただ正義感が強いだけで悪漢と戦うなんて危険な事が出来る? シャノンのスキルは身体能力の向上では無い。だからハードな鍛錬を続けているの。それこそ大人相手にも引けを取らない水準になるまで。悪人と戦う動機が無ければそんな鍛錬続けられる訳が無い。正義感なんて簡単な言葉では表せない何かが彼を動かしている……、自分を追い込む程の何かが」

 それを否定出来なければ彼は何度でも私に立ち向かってくるだろう。

 考えろシャノンの事を、なんでもいい、何に笑ったか、何に怒ったか、何に驚いたか。

 少しでもシャノンの表情や行動が動いた事を全て思い出せ。その一つ一つが本当のシャノンの輪郭を浮き彫りにするのだから。

 どれだけそうしていたか、シャノンの詳細な人となりはなんとなく掴めて来た。

 並々ならぬ思いがあり悪行非行を決して許さず、その為ならば命すら掛けられてしまう。

 初めはただの正義漢だと思っていたがそんな言葉だけでは纏められない。いや、そもそも正義なんて一言で纏められる人間なんていないのだ。人間には人それぞれその人の物語があり、様々な問題を経て人格や主義主張を形成するのだ。シャノンのそれはこの世界で起こった事では無い。恐らく前世で起こった何かが関係している。


 私も含め恐らく転生者の転生スキルは転生する時にある程度は自分の願いや本質を元に適合するスキルを与えられているのだと私は思う。そうでなくては十全に力を振るえなくなってしまって、せっかく転移させる女神サイドで考えてもメリットが少ないだろう。

 シャノンのスキルは今のシャノンの悪を許さず断罪すると言った考え方と相性が良過ぎるのだ。これは転生前には既に今の人格形成になっていたと考える方が自然だろう。

 だがそうなると流石に前世の事なので要因を知っているのはシャノンだけなのだ。聞き込みなどでどうこうなる問題ではない。

 そしてその前世の記憶(ブラックボックス)が分からない故にどうしても私の中で作られたシャノンと現実のシャノンの行動で辻褄が合わない事が一つ生まれた。

「どうしてシャノンは今日私に諦める様に言ったのかしら?」

 私の中で作られたシャノンなら絶対にこんな事は言わない。それこそ黙って手加減する事はあっても一緒にお願いするなど絶対に言わない。あいつは悪人が許せないのだ。こう言っては何だが私はあいつが喜ぶような善行をした覚えはない。だからあいつが私を見逃すはずは無いのだ。今回の件も因果応報位に思っているはずなのに。

 何か、何かがアイツの琴線に触れたのだ。それこそ私の普段の生活の何気ない何かが……。

 ここまで分かれば私の生活を振り返ればいいだけなのだが、簡単に情報を得られるが故に量が膨大過ぎてヒントが無ければどれが問題の行動なのか全く分からなかった。

 私自身誰かに推奨できる様な殊勝な生き様をしているとは思っていない。まして相手は私と真逆の人間だ。軽蔑されこそすれ同情を買える事は無いと言える。

 私自身でも気付かないレベルでそれこそシャノンの前世の問題と関係があるのだろう。そうなるともうお手上げだ。

 長時間熟考していた為か、はたまたここに来て大きな壁にぶち当たった為か、ついため息交じりに独り言が零れる。

「はぁ……、本当に私があまりにも弱いから()()()()見れなくなったのかしら」

『違う』

 何気ない一言だった。それ故に生まれた閃きだった。

 私のこの一言を私の想像したシャノンが否定する。そして現実のシャノンもまた同様に否定する。

 私はシャノンが私を敵だと思えなくなったからあのような提案をしたのだと思っていた。だがそれは間違いだった。厳密には初めからシャノンは私を()()()()()()()()()()のだ。

 この思い付きがきっかけで私の中のシャノンはどんどんと構築されていく。今まで足りなかったピースがどんどんと嵌って行く。

 あくまで私の推測でしかないが恐らくそう間違ってもいないだろう。

 そして現実のシャノンと私の作った複製のシャノンは殆ど差異が無くなっていた。

 私はそばに置いてあった資料を取る。取り巻き達に調べる様に頼んでいた資料だ。

 正直意味が無いと思っていた、三人が調べた学校内のシャノンの資料。これにも十分意味はあったのだ。

 何故外の犯罪者からは恨まれ学校内の違反者からは文句が出てこなかったのか。何故クラスメイトからの意見が少ないのか。何故いい評価しか出てこないのか。全ての謎がやっとわかった。

 特に数人にしか聞けなかった号泣ちゃんの資料。これはシャノンを倒す上でこの上なく重要な情報となるかも知れない。

 対シャノンの糸口が見えたのだが私は素直に喜ぶことが出来なかった。その真相があまりにも虚し過ぎたからである。

 ここまでの事は全て得られた情報から私が憶測で考えたに過ぎない。全て私の妄想だってこともある。

 しかし、もしこの憶測がすべて本当の事なら、シャノンは初めから主人公などでは無かった。私ですら悔しくも嫉妬し羨むほど輝いていたのにだ。

 私は窓の外を見る。窓の外は真っ暗で何も見えず寒々しい闇が支配していた。時間は深夜を回っているので余計に暗く感じるのかも知れない。

 いや、今こんな事を思うのは私自身がこの光景に違う事を重ねているからだろう。

 私はこの光景が今しがた理解したシャノンの心の中の様に思えてしまった。

 この冷たい暗闇の中、一人佇む彼の姿を幻視した。

「安心しなさい。私がその座から引きずり降ろしてあげる」

 私がそう呟くと遠くの空が少しずつ白み始める。

 長時間考え事をしていたので気付かなかったが、いつの間にか日の出の時間になっていた。

 ゆっくりと、しかし確実にあれ程濃かった闇は薄くなりやがて朝日に焼かれ消えていく。そして完全に朝になった。

 その光景を眺め、私は決心する。この決闘やはり完全勝利を収めようと。

「やっぱり貴方を殺さなくてはいけない様ね」

 それが私の為であり、しいては彼の為なのだから。

 やる事は決まった。あとはそれに向かって準備を進めるだけだ。

 この先の事を考え私は力なく笑う。残り一日だと言うのにやる事が多過ぎるのだ。

 何気なくもう一度窓の外へと目を向ける。

 窓の外の景色は太陽も登り、光に包まれていた。

 私は決意を新たに学校へと向かう。

 

 決闘の日まで残り一日

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