蚊帳の外
リベルは基本人に興味が無い。スキルを使えば人付き合い等どうとでもなるからだ。
それは人付き合いの極致とも言える貴族社会でも変わらない。スキルを任意発動などせずとも自動発動の効力だけで基本的に全てはリベルの都合の良いように動くからだ。
勿論使い過ぎれば歪みが生じるが無理な事を願わなければ問題は無かった。
故にリベルは基本、人の事を覚えない。ちゃんと覚えている人数など両手の指で数えられる程だろう。
その証明にリベルは自分の国の国王の顔と名前すらぼんやり思い出せる程度、王子や王女の顔や名前は全く覚えていないと胸を張って言える程だ。
ボンドルとの勉強で知識としては入っているはずだが、誰かに言われて思い出す程度で自分から自発的に思い出せる程、自分の中でしっかりと定着している訳では無かった。
それ故に今回の事故は起こったのだ。
もし聖女の顔を知っていたらスキルを使ってなんて、いや知っていても使っていたかも知れない。
聖女にスキルが効かない等使って初めて知ったのだから。
聖女?! 聖女がなんでこんな所に!! て言うかなんで私のスキルが効かないの!!!
予想外の出来事の連続でだんだん頭がくらくらしてくる。
しかしそんな事はお構いなしに聖女はハゲに話しかける。
「ヴェイロン、貴方の帰りが遅いから心配したんですよ。一体何があったのです」
「は、申し訳ありませんラクリ様。こちらの方からこのケーキを譲ってくれと言われていまして。戻るのが遅れてしまいました」
なんとか思考を立て直そうとしている間に聖女がどんどん話を進める。
「そうなんですか。どうしてこのケーキがそんなに欲しかったんですか? この方は考え事をしている様なので誰か教えてくださいませんか?」
「ちょ、あな……いや聖女様……」
完全に主導権を奪われどんどんと話が私を置き去りにして進んでいく。
私はと言うと突如現れた聖女に混乱し、未だにどういうスタンスで接するか迷っていてそれどころでは無いのに。
この前の転生者と言い、なんで聖女にもスキルが効かないのよ!! ってそんな事を悔いている場合では無い。何とか事態を収拾させなくては。
しかし私の願いとは裏腹にどんどんと話は私の手元を離れていく。
「そのケーキはリベルさんの週に一回の楽しみなんだよ」
「リベルさんは毎週必ず食べるんだからルーティンの邪魔をしないで!」
「ちょっとあなた達! もっと穏便に」
先程の熱が冷めていないのか聖女に対してこの口調。生憎あの女は別にどうでもよさげだが隣のハゲはプルプルと怒りで震えていた。
先程、唯一皆を止めようとしていた号泣ちゃんに目をやると、顔を青くし目に涙を溜めてプルプル震えていた。こっちは恐怖のせいであろう。震えたいのも泣きたいのも私の方だよ!!
「週に一回の楽しみ? ここのケーキは確か行列が出来る店で並ばなければ買えないと伺ったのですがどうして毎週買えるのですか?」
「それはクラスの平民を使って買いに行かせてるのさ」
「きちんと報酬も支払われているのよ。なんて誠実な方なのかしら」
「ちょ……!」
もはや会話の主導権を握られてしまい私は完全に蚊帳の外になってしまった。
聖女はクラスメイトの発言を聞き顎に人差し指を添え少し考える素振りをする。先程から思っていたが少し演技臭いくてイライラする。駄目だ、冷静になれ。
「クラスメイトに買いに行かせるって、それって使いっぱしりにされてるってだけですよね? 報酬が支払われるとか言ってそんな下らない事で学校を早退させて、それのどこが誠実なんですか? 平民の生徒に行かせるのもクラスメイトを下に見ている証拠なんじゃないですかぁ?」
演技臭いと言ったが訂正しよう。この女は間違いなく演技をしている。それも相手を小馬鹿にして怒らせるように仕向けている。と言うかそれを言うならハゲに買いに行かせてるお前も同罪だろ!!
私はなんとか冷静になろうと思っているのでそう判断出来たが、私のスキルで洗脳状態のうえ現状で頭に血が上っている彼らにはそれが理解出来ない。
自分の一番仲の良い友達が侮辱されたらどうするか。誰だって怒るだろう。
「お前に関係ないだろ!」
「貴方にリベルさんの何が分かるのよ!」
正直聖女の言っている事は正論だ。私のやっている事は間違っている。
しかしこれまでスキルを使い洗脳してきた彼らにはそれが理解出来ない。故に暴走する。
こいつ! この世界一理想の女の子について理解している。
「あなた達落ち着きなさい!」
「クラスメイトに間違った事をさせ、それをまるで良い事の様に振る舞うだなんて、あなた人としてなっていませんね」
「リベルさんを馬鹿にするなら俺が許さない!」
「謝ったってもう遅いんだから!」
私の静止も空しく聖女の発言で取り巻きの二人はもはや一触即発状態だ。
「貴様ら……聖女様に対してその態度。いい加減にしろよ!」
ヴェイなんとか……ハゲもとうとう沸点に達したのか魔力が身体から漏れ出している。こちらもいつ爆発してもおかしくない。
あわや一触即発と言う空気が出来上がったその時。
「ちょっと待った!」
突然どこからか待ったが掛かる。
遠くから瞬時に駆け出し両者の間に割って入る。そしてハゲには剣を、クラスメイトの二人には魔力を凝縮して剣に見立てた手刀を向ける。
「熱くなってる所悪いがここは町中だ。こんな所で戦うなら見過ごせない。関係ない一般人に迷惑をかけるならお前らは悪だ」
ここ最近見なくなった転生者だった。
「そうですよヴェイロン、冷静になりなさい」
「……申し訳ありませんラクリ様」
聖女の一言でヴェイロンは魔力を分散させる。そうだ、ヴェイロンだった。
聖女は少し考える素振りをする。
「争いに発展しそうになったのはこちらにも非がありますが、あなたの事は見過ごせません。反省をすると言うのであれば別ですが」
聖女からそんな提案が出されたので私は瞬時に土下座をしようとするが、それよりも早く取り巻きの二人が口を開く。
「反省する事なんかねぇよ!」
「リベルさんのやる事は正しいのよ!」
「あなた達!」
もうやめてくれぇ! この二人は特に一緒に居る。だからスキルの影響が濃いのかも知れないが、行動の一つ一つが今の私の求める物ではないのが何とも空しい。
スキルに掛かった者でも全てが私の良いように動いてくれる訳ではない。これも今改めて理解した事だった。
「どちらの意見も対立して平行線ですね……」
聖女は暫く唸ってから何を閃いたのかポンっと手を叩く。
「それでは後腐れなく決闘で決着を付けましょう」
この聖女様は何をとち狂った事を言っているんだ。仮にも聖女が暴力を提案するなど――
「聖女神教会では互いの了承の上、女神ベルシア様の名の元に誓い合った規定を守り、誇りを賭けた決闘は良しとされています」
マジかよベルシア、やべぇな……頭女戦士かよ。
「今回はリベルさんの行いの善し悪しを決めると言う事でお互いの代表者を戦わせると言うのはどうでしょうか? そちらはリベルさんが代表として、こちらはこの……ええっと」
「……シャノン・レイズです」
「シャノンさんを代表とするという事でどうでしょうか」
転生者が自分で名乗る。と言うか聖女の奴代表にするとか言っといて名前覚えてないの?
いや今はそんなどうでも良い事は置いといて、私の意見は既に決まっている。
「そんなのお断r……」
「おう!上等だやってやるよ」
「では決闘成立という事で。ルールについては後日詳細を連絡します。決闘日は七日後でいいですか」
「だから断……」
「大丈夫ですよねリベルさん!」
大体この茶番劇の狙いが分かって来た。恐らくこの女、転生者の男から私の事を聞いた……いや聖女はシャノンの名前も分からなかったな。ならどこか別の所から私の情報が漏れたのだろう。そしてこのシャノンの事も知り、この作戦が立案されたのだ。
確実に私を嵌める罠なので断ろうと思っていたのに、取り巻き二人がどんどんと話を進めてしまった。
「それでは七日後、闘技場でお待ちしてますね」
そうして聖女は笑顔のままその場を後にした。
結局私は終始取るべきスタンスが決めきれずあれよあれよという間に決闘が決まってしまった。
「……あなた達」
「リベルさん聖女の野郎見返してやりましょうね!」
「絶対ぎゃふんと言わせましょう!」
こうなってしまってはもうどうしようも無いが、とりあえずまずは一つ言っておく事がある。
「私を置き去りに決めてんじゃねぇですわぁぁああああ!!!」
この私の慟哭は王都の結構広い範囲に聞えたらしい。
異世界物と言えば決闘ですよね(n番煎じ




