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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
12/27

天敵

「やめろダークネス! 貴様の悪事はこのブライトマンが許さない!!」

 子供の頃からヒーロー物の作品が大好きだった。物語の中では悪者が居るのだが必ず正義のヒーローに退治されるのだ。そしてヒーローは市民から感謝の念を向けられる。

 悪事をすれば必ず天罰が下り、良い事をすれば必ず報われる。

 子供の頃はそこまで考えて観ていた訳では無いが、その勧善懲悪に感銘を受けていたのは確かだ。

「わぁ……、ブライトマンはやっぱりかっこいいなぁ!!」

 ブライトマンとは世界を闇で包み込もうと企むダークネスと戦う光の戦士だ。悪のみを切り裂き、守る者は決して傷付けないと言う、正義のヒーローらしい武器、善光剣フォトンライザーで人々を守る姿は、ずいぶん昔の作品だが未だに思い出せる程強く鮮明に印象が残っている。

 テレビの向こうのヒーローの活躍(輝き)は、俺の心に強く焼き付き、俺の人格を形成する上で間違いなく原体験となった。

 勿論子供の頃と違ってヒーローが作り物である事や、どれだけ頑張っても変身出来ない事は理解している。だが悪事を見過ごせないのは子供の頃から変わる事がなかった。

「おい、今月金ねぇんだわ。友達なんだから貸してくれるよな?」

「もう僕お金無いんだけど……」

「ああ? てめぇの事情とかどうでもいいんだわ」

「おいやめろよ。いじめなんてみっともない」

 俺はそう言っていじめをしている奴らに注意する。

「はぁ? お前誰だよ。俺はコイツと友達だから金借りようとしてただけなんだけど」

「俺にはそんな風に見えなかったが」

 そう言うとそいつらは舌打ちをしてその場を後にする。

「大丈夫か? ちゃんと先生に相談した方がいいぞ」

「あ、ありがとう」

 こんな感じで正義感が強く虐めなども見過ごせない性格になってしまうのは自然な流れだったのだろう。

 清く正しい学生生活を過ごしていた、そんなある日帰宅していると信号無視の車によって轢かれそうになっている子供に気付いて咄嗟に助けた。しかし俺は逃げるのに間に合わずに死んでしまったのだ。


 気が付けばテクトリアの女神様に善良な魂として見出され、スキルを貰って転生する事になった。

 スキルは貰ったが身体能力を向上させる類では無かったので漫画の様にすぐに最強っといった事は無く、なのですぐに鍛錬を始めた。

 聞けばこの世界には魔族や邪神の手先が居るらしく、そいつらを倒す命令を女神様より賜ったからだ。

 女神様の命令が無くても、俺はこの性格だから同じことをしていたと思う。悪は見過ごせないからな。

 年月が過ぎ俺は村でトップクラスの実力者となっていた。

 だからだろうか、俺にこの国一番の学校へ行く話が舞い込んできた。

 王立魔法学園ラヴィノギアは卒業後、騎士になれて国の為に戦う事が出来る。

 俺は迷う事無く、この学校の試験を受ける事にした。

 村を出て冒険者になっても、救える人数はたかが知れている。それより騎士となり多くの国民を守る方が、より大勢の命を救う事に繋がると思ったからだ。

 そしてなんとか試験を乗り越え、無事王立魔法学園ラヴィノギアに入る事が出来た。

 これからより多くの鍛錬を積んで多くの人々を救う、そう思いながら過ごしていたある日学校のラウンジで人だかりを目撃した。

「リベルさん、これ最近流行のスイーツです!」

「リベルさん! 席確保しておきました」

「ありがとう皆さん」

 ラウンジとは言え大人数で固まるなど迷惑だ! と思い注意をしようとそちらに目を向けた。

 その瞬間ぞっとする気配を感じた。なんなんだ!? この気配は!!

 すぐに物陰に隠れ集団に注目したら、すぐにその気配の原因が分かった。

「あのリベルとか言う奴……なんて気配を出してるんだ!」

 その集団の中心人物と思われる女生徒が、とんでもなく邪悪なオーラを漂わせていた。これまでに何度か魔物と戦った事もあったが、それとは比べ物にならない程の禍々しい気配。

「まさか、あいつが女神様の言っていた邪神の手先か」

 その漂わせる気配はそう確信してもおかしくない邪悪さだった。

 冷静に周りを見渡すとリベルの取り巻き以外の生徒も、当たり前の事の様に嫌な顔一つせず過ごしている。きっとこのオーラが原因で、何か洗脳の様な事をされているんじゃないのか?

 何が目的なのか分からないが生徒を洗脳して従わせるなんて邪まな企みがあるに違いない。

「何者かは知らないが悪は決して見逃すわけにはいかない!」

 この瞬間、俺はこのリベルとか言う女生徒と直接対峙する事を決めた。




 私は現在、告白されると思っていた男子生徒から剣と殺意を向けられている。いや、どういう事よ?

 ないわぁ……さっきまであれだけロマンチックだったじゃん。人気の無い所に呼び出して緊張して顔を強張らせて、不愛想な態度で……あっ、これ相手を殺す前って置き換えても違和感ないわ。

 そう思うと、さっきまであれだけ神秘的に感じていた、この薄暗い環境が殺伐とした物に見えてくる。心なしか空気が乾燥して……いや緊張で喉が渇いているだけか。

 少し取り乱してしまったが、相手の態度を見て正気に戻る。こんな所で死んでたまるか! と言うか何故コイツは私を殺そうとしているのか。

「おおお落ち着きなさい! 貴方冗談でも許されないわよ」

「冗談を言っているのはお前だろう! 何が告白だ邪神の手先め!」

「っ!」

 その発言に、私の心臓はドキリと跳ね上がる。

 何故コイツは私が邪神の転生者だと知ってるのだろうか。別に私は人類に対して敵対行為をしていた訳では無い。まして大っぴらに行動していた訳でも無い。

 それにも関わらず、この男子生徒は私を邪神の手先だと言った。

 勿論の事ながら、忌々しい肉塊(邪神の手先)になんてなったつもりも無いのだが、それはそれとしてどこで邪神と繋がりがある事がバレたのか。

 そんな考えの最中にも男子はじわじわとこちらににじり寄って来るので、一歩後ずさるが後ろの木にぶつかる。

 これ以上退く事は出来ない。このままではアイツにバッサリと切られてしまうだろう。

 唯一の逃げ道はこの男子生徒の背後のみなのだが、頼んでも道を譲ってくれたりはしないだろう。このままでは、こっちがじり貧だ。

 一心不乱に策を考えつつ、時間稼ぎもかねて先程から言っている言葉について質問する。

「邪神の手先なんて気さらさらないのだけれど、貴方どうして私が邪神の関係者だと分かったの?」

「あれだけ邪悪なオーラで周囲を洗脳していてとぼけるつもりか。お前が女神様の言っていた存在なのは明らかだ」

 邪悪なオーラ? 洗脳? まさか世界一理想の女の子(ミイズガル・デスベア)の事を言っているのだろうか。

 実際その判断は正しい。私自身は邪悪と思っていなかったがこの気配の様な物が届く範囲がスキルの効果範囲なので、実際この気配自体がスキルだと言っても過言ではない。

 この気配にあてられた者はスキルに掛かる。なので私の周りにさえ来なければ基本的にスキルに掛かる事は無いのだ。とはいえあくまで気配なので見えない筈なのだが、あの男子には邪悪な物に見えているようだ。

 因みに、私のスキルに掛かった者が私の洗脳した事を唱えるとその内容に限り第三者にもこのスキルが影響を与えるらしい。勿論私が直接掛けた時とは比べ物にならないが、それでもその内容を疑わないで受け入れる位の効果はある。代表例はあのマヨネーズもどき事件(地獄の晩餐)だ。

 あの料理が食卓に並んだ時、私はスキルを発動なんてしていなかった。なのにあの料理は非難される事なく受け入れられたのだ。一度歪めた認識が正常な認識を更に歪める。まるでゆっくりと身体を蝕む毒の様に。

 なるほど確かに邪神の転生者のスキルにふさわしい能力だ。自分自身も割を食う事を除けばね!!

 私は初めてスキルについて言及されたので更に驚く事になったが、それと同時に一つの疑問が生まれた。

 女神様が言っていたってまるで直接話したかの様な言い方……こいつまさか!!

「もしかして貴方も転生者なの?」

「それがどうした」

 マヨネーズの時から予想はしていたがやはり実際に私以外にも転生者は居たようだ。

 これで私一人だけが転生している説は崩れ去ったが今回は助かった。

 確かに私は人類の敵(ゴルゾニーヴァ)に転生させられたが、私自身に人類を滅ぼそうなんて思いはこれっぽっちも無いのだ。

 正直女神の信者とかならヤバかったが同じ転生者ならば同郷のよしみで少しは話し合う事も出来るかも知れない。

「私も同じ転生者なのよ! 私のスキルに攻撃の意図はないわ。今回は勘違いとして許してあげるから剣を下ろしなさい」

「邪神の転生者の言う事など信用出来るか」

 一切考える素振りも無く即答されてしまった。コイツ女神の信者だったか!!

 確かに私が同じ立場でも剣を下ろす事はしない。だが私なら剣を向ける事もしない。だって転生者同士の戦いとか面倒臭い予感しかしないからね。

 私は非戦闘系のスキルなので戦うよりも不戦条約でも交わす方法を選ぶが、仮に戦闘系のスキルだったとしても戦うなんて選択肢は選ばなかっただろう。

「私だって望んで邪神の転生者になったわけじゃないわ、気付いたら転生させられてたのよ? 望んで転生した訳じゃないのに、それでも貴方は私を殺すと言うの」

 私は出来る限り最大限の笑顔で話す。あくまで友好的で害意が無い事を伝えれば、いくら邪神の転生者相手だとしてももしかすれば剣を下ろすかも知れない。

 想像通りに少し剣先が下がる。よし、いけるか!

「……仮にお前の言う通り、敵意が無いとしよう。確かに俺も意図的に転生した訳じゃないし、邪神に転生させられていたかも知れない訳だ」

「でしょう! だったら――」

「だが!」

 男子は下ろしていた剣先を再び構えなおす。

「善良な生徒に洗脳を掛け支配していたのはお前の意思だ! 仮に邪神の指示だとしてもそれはやはりお前が邪神の手先という事だ! お前が悪だと言う事に変わりは無い!!」

 構えた剣先のプレッシャーがどんどん高まる。それはまるで自分がスキルを発動している時の様な気配だった。プレッシャーがピークに達すると男子はこちらに駆け出した。

「一刀良断」

 直感でヤバいと感じ咄嗟に行動に移る。すぐさま横に飛び退き、同時に時間稼ぎも兼ねて無詠唱で防御障壁の魔法を発動する。

 その直後、私が居た場所に剣が振り下ろされる。

 男子の振るった剣は防御障壁をまるで紙でも切るかの様に何の抵抗も無く切り裂く。

 いくら詠唱すらしていない簡易的な障壁とは言え砕けるでもなく、一切の抵抗も無く切り裂かれるのは流石に予想外だった。あの剣がそれ程の業物には見えないので恐らくはスキルによる効果なのだろう。

 障壁を易々切り裂きながら私の後ろにあった木を斬り付け、幹の中程で剣筋が止まる。

 もし私があの剣を喰らっていたら、ひとたまりもない事だけは確かだった。


 初撃はなんとか避けたがこのまま避け続ける事は出来るだろうか……。

 魔法の腕前は訓練で磨いて来たが実践で戦闘した事は一度も無い。自分の命を賭けられる程戦闘センスに自信もない。

 相手を倒す手立てが無い訳では無いが、今の状況ではそれを使う時間が無い。

 なんとかこの場から逃げ出さない限り私はここで終わりだ。


 男子は攻撃後すぐに後ろに飛び退き再び退路を塞いだ。どうやら逃がすつもりは毛頭ないらしい。どうにかして男子を無力化しなければ逃げ出す事は出来ない。

 力で敵わないなら、なんとか策を絞り出すしかない。

 名前すら知らない出会って間もない男子だが、この短時間で分かる人物像を分析する。

 同郷のよしみで助かる事は出来ない。こいつは私を敵だと決めつけているから。

 これだけ近づいているのに一切私に対して態度が変わらない様子から、こいつには世界一理想な女の子(スキル)が効かないかも知れない。不用意に出せば敵対行動だと思われて本格的な戦闘になりかねない。

 まだ本格的な戦闘になっていない今の内に逃げだす方法を……考えろ私、相手になりきれ。何か無いか? この男子が一瞬でも怯む方法。男子()が怯む方法……。

 必死に頭を働かせ、一つ策とも言えない案を思いつく。

 こんな作戦に命を賭けるなど素直に戦った方がマシかも知れない。だがどうせ賭けるなら少しでも生き残れる可能性が高い方に私は賭ける事にした。




 初撃は避けられたか、だが今度は外さない。

 ちゃんと一刀良断(スキル)の発動も確認できた。これなら次も発動できるだろう。

 俺はすぐに退路を塞ぎ再び剣を構える。もはや諦めたのか彼女は俯き立ち尽くしている。

 次は必ず当てる為にじりじりとにじり寄る。近寄るにつれて隠れていた表情が見え始める。

 ……おい、これは諦めと言うより……。

「うぐ……えっぐ、うぅ……」

 号泣していた。それも汚い泣き顔で。

 ……いや、惑わされるな俺。こいつは邪神の手先で、女神様の敵で、悪だ。

 少し乱れた気持ちを整えているとそいつが話し出す。

ごめんなさい(ごべんなざい)……(わだじ)悪かった(悪がっだ)でずぅ……もうしません(じまぜん)

 何故だろう、こっちが悪い事をしている気になってくる。

 こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪、こいつは悪――

一目ぼれです(ひどめぼででず)告白するから(ごぐはぐずるがら)校舎裏に来て(ごうじゃうらにぎで)って言ったくせに(いっだぐせに)!」

「そんな事一言も言っていない!」

 あまりの突飛な発言に普通にツッコんでしまう。

「隙アリぃぃいいい!」

 俺が緊張を解いた一瞬を見計らい彼女は足元の砂を俺の顔にかける。

「ぐあぁあああ」

「まんまと騙されてやんの!! ばーか! 滅びろ転生者!!」

 目を開く事は出来ないが遠ざかる足音から、あの女がこちらを嘲笑いながら去って行く姿がありありと浮かんだ。

 俺はまんまとアイツの策に嵌った訳だ。

「畜生、やっぱり悪じゃねぇか! 絶対許さねぇぞ!!」





 暫く走り続け追いかけてこない事を確信し、私は一息つく。

「なんとか逃げ出せたわね……」

 無事に作戦が成功した事に胸を撫で下ろす。

 泣き落としが成功するとは勿論思っていなかった。泣いたのは少しでも成功率を上げる為の演技。本当の狙いはその後の告白がどうこうの部分だ。

 あの男子が最初に剣を向けた時、咄嗟に「告白するんじゃないのかよ」と叫んだらあの男子は素のリアクションでツッコんできた。

 その時だけなのだ、アイツの集中が削がれたのは。

 その後に私が転生者だと告白しても一切感情の揺らぎは無かった。

 まあ、年頃の男子だったので恋愛系の話が弱点だったのかも知れない。今は逃げられた事を素直に喜ぼう。

 しかし面倒な事になった。これで終わりではないだろう。

 これからあの男子に命を狙われ続ける生活になるかもしれない。私はただ楽しい転生生活がしたいだけなのに……。

 わざわざ人気の無い所に呼び出して襲って来たところを見るに一目がある場所ならばむやみに襲われる事は無いかも知れない。もしくは私がクラスメイトを人質に取っているとでも思ってくれているのかも知れないが、それならそのまま勘違いしたままで居てもらおう。

 明日からは、一人になる時間を無くさなくては!



 そして次の日からあの男子に付け狙われる生活が始まった。

 気配はないのだがふと周りに目をやると柱の陰や物陰からこちらをじーっと窺っているのだ。

 移動教室の際。

「……」

「ひぃ! 皆さん、一緒に行きませんか」

「ぜひお願いします、リベルさん!」

 トイレに行こうとして。

「……」

「ッ! ナリサさん、一緒にお花を摘みに行かない?」

「リベルさん!? ぜひ喜んで!!」

 家に帰って窓の外から大通りを覗いて。

「……」

「こんな所まで……。メイド、今日は一緒に眠りましょう」

「かしこまりました、お嬢様」

 そんなこんなでこのストーキングもといターゲット生活は数週間に及んだ。

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