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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
11/27

理想の美少女式自己紹介(スキル込)

 講堂の中には既に大勢の新入生が座っていた。席はクラス別に分けられている様で私はCクラスと書かれた席に座った。

 少し周りを観察する。Aクラスは講堂の前列に配置され、その後ろにBクラスCクラスDクラスと並んでいる。優秀さは滲み出るのか上位クラスの大半はピシッと背筋を立て式の開始を待っているが、我らが下位クラスの面々は大半が談笑をして時間を潰していた。

「えっぐ……受かって(うがっで)よがっだよぉぉ……」

 中には号泣している女の子も居る――いや、いくら何でも泣き過ぎじゃないかしら? 周りの注目を浴びてるし、上位クラスでも何人かチラチラとその子を見ていた。座っている場所的にあの子もCクラスのようね。

 周りを見て確信する。恐らくこのクラスなら私が地獄の一年の合間に画策した、異世界充実計画を実行する事が出来ると。

 スキルの使い方はこの八年で大体わかった……今度は絶対失敗しないわ!


 入学式も終わり私達は自分のクラスへと移動していた。入学式が始まって五分くらいは覚えているのだけど、そこからの記憶が曖昧だわ。確か校長っぽい人が学校の説明を話している所までは辛うじて覚えているんだけど、新入生代表の挨拶くらいからは完全に記憶が消えている……睡眠(長い瞬き)しかしていない筈なのだけれども。

 今は皆、席に座り担任の挨拶を聞いていた。

「今日からこのクラスを担当するカボナ・フェーデンだ。よろしく頼む」

 担任が自己紹介を始める。教師の名前なんて覚えなくてもいいだろう。先生って呼べば大体振り向くからね。

「それじゃあ、皆も自己紹介を始めてくれ。ローウェ君から順番によろしく頼む」

 それからクラスメイトの自己紹介が始まる。大体が名前と一言挨拶をして終了するので覚えにくいのなんの。まあ自分も前世、同じ様な自己紹介をしていたので文句は言えない。

「ナリサ・キグザスです! 皆さんに迷惑をかける事も多いと思いますが、どうかよろしくお願いします!!」

 先ほどの号泣少女はやはり同じクラスだった。彼女は……号泣ちゃんね。めっちゃ泣いてたし。

 それ以降も代り映えの無い自己紹介が続きとうとう自分の番になった。

 さて、ここまで何も考えずに待っていた訳では無い。ずっとこれからの学園生活について考えていた。

 私が最悪な晩餐を作り出してから八年、過酷な修行の中でも時間を割いてスキルについての造詣を深めていた。

 私のスキルは自身の能力以下に相手の能力を下げる効果があるが、実際に能力が落ちている訳では無い。

 相手が私の言動や行動が正解だと認識する事によって私と同じ事をする。つまりは認識を改変する効果なのだ。

 しかしこの認識改変は行為や言動に対して直接行われるのでは無い。

 このスキルの効果は私を自身にとって最も尊敬し敬愛する者と認識させることにある。

 自身が絶対的に尊敬する存在がこう言っているから、これが正解だと信じて疑わず愚直に実行する。デバフの仕組みはこんな感じだろう。

 この効果だけ見ればメリットと言えるだろう。初対面でも一瞬で私の好感度を最高に出来るのだから。

 そしてデメリットに関しては私自身が間違った事を主張しなければいいだけなのだ。

 ここから私が必死に考え出したこのスキルの運用法は、間違った行動はあまりせずにメリットのみを享受する。


 私はすくりと席を立つと心の中で叫ぶ。

世界一理想の女の子(ミイズガル・デスペア)

 久し振りにビリビリとした感覚に包まれる。大丈夫だ。私ならやれる。

 出来るだけ美しい声を出す様に意識する。

「――初めまして。」

 これまでと雰囲気が変わったのを感じたのかクラス中の視線が私に集まっているのを感じる。だがこの程度ではまだ駄目だ。最低限のリスクで最大限のメリット得る為に、私自身が上辺だけでも理想の女の子にならなくては。

「本日より皆さんと共に勉強させてもらいます。リベル・フォル・エスピリアです。勉学はもちろんですが、それ以外にも様々な事を体験し、実りの多い最高の学生生活を共に謳歌出来る事を願っています。皆さん是非とも仲良くしてくださいね」

 身振り手振りを加え、そしてスカートの端をつまみ、少し微笑みながらお辞儀をして着席をする。まるで演劇のワンシーンの様な自己紹介だった。

 少し過剰だがこれくらいしなければ意識にも残らない。私は有象無象(モブ)で終わりたいわけじゃない、主人公でありたいのだ。

 普通ならば気張った自己紹介だな程度で終わりだろう。

 しかし私はスキルで好感度を既に最高にまで上昇させているのだ。あとは私自身にミスが無ければ望んだ通りになるはず。

「なんて素晴らしい自己紹介だ!」

「嗚呼、これから素晴らしい生活が始まる予感がするわ!」

「エスピリアさん最高の学生生活にしようね!」

 想定通りクラス中から喝采が沸き上がった事に私は口角を上げる。

 これで彼ら彼女らは私のスキルの影響下にある。

 私のこの学園での目標は、これまで出来なかった理想の異世界生活をする事だ。私がする事が称賛され、常に人々に愛される様な生活。

 勿論副作用があるのではじめに思っていたほど楽では無いが、私はこれでも八年間みっちり特訓してきたのでCクラスで上位の成績を維持する事くらい訳無いだろう。

 あまりに無謀なスキルの使用は避け少し生活を彩る程度に使う。これが私の考えた理想の異世界生活バージョン2.0だ。

 その後クラスの自己紹介が終わり、皆が私の所に来たので、私の出せる最高の笑顔で更に心を鷲掴みし適当に会話に花を咲かせるのであった。



 翌日から私の生活は理想通りとなった。

「リベルさん! 次の移動教室まで教科書持ちますよ!」

「あら、ありがとうございます!」

 移動教室の際には男子が教科書を持って行ってくれたり。

「リベルさん、最近話題の茶葉が手に入りましたの。 放課後お茶会でもいかがですか?」

「まあ!ぜひお願いしますわ!」

 女子にはお茶会に誘われたり。

斬風(ラフート)

「リベルさんの魔法はいつ見ても惚れ惚れしますわ!」

「威力もさる事ながら発動までの早さも勉強になるね」

 魔法を放てば尊敬される――いやこれは私の実力だからね! 本気出せば上位クラスも狙えましたから!!

「リベルさん、食堂の席取っておきました」

「紅茶貰ってきました!」

「ありがとうございますわ」

 そんなこんなで楽しい異世界生活を満喫していた。今は食堂の席取りをして貰っていたところだ。

 私の周りには常に何人かが取り巻きとして常駐している。そして私に都合の良いように色々動いてくれているのだ。

 とんでもない無双生活と言う訳では無いが、この生活でも十分と言えるだろう。

 例えるなら死ぬまでずっと青信号と言うか、魚の骨に当たらないと言うか。骨さえなければ魚は大好きよ。刺身とかお寿司とか最高!

「リベルさん! お水持ってきました!!」

「ええ、ありがとう」

 彼女は号泣ちゃんだ。少し天然が混じっているのかこの様に少しずれているんだよなぁ……。紅茶持って来た後に水を持ってくるとは、思わず苦笑いしてしまう。

 勿論その気遣いはとても嬉しいし、彼女は常に私の周りに常駐しているので、愛らしく感じてしまっている自分が居る。

 彼女は自己紹介の後凄い熱量で私に話しかけていた。要約すると確か「リベルさんのおかげで実技試験を突破出来ました! 一緒のクラスになれて光栄です」みたいな感じだったと思う。

 私は特に試験の事について語っていないので、この発言はスキル関係無しに彼女の本心なのだろう。

 入学試験を突破出来たのは彼女の実力だし、私は関係ないのだが尊敬して貰えるのなら貰うに越した事は無いだろう。

 クラスメイトに面倒な部分を取っ払って貰い尊敬される生活。これよ、私の求めていた異世界生活はこれなのよ。かなりスローライフに寄っている気はするが、面倒なイベントが起こるより全然いいだろう。

 そんなぬるま湯の様な生活をしてから一か月、放課後に突然クラスメイトから声を掛けられる。

「リベルさん、入り口で別のクラスの男子が呼んでますよ」

「何かしら? 伝言ありがとうございます」

 伝言してくれた生徒に感謝を述べつつ入り口に目を向ける。そこには一人の男子生徒がいた。

 青のショートヘアに青色の瞳のそれなりに顔も悪くない男子が、こちらをただならぬ雰囲気で見つめていた。その雰囲気に緊張しつつ近づき声を掛ける。

「私に用があると伺っているのですが何か用かしら?」

 声を掛けたと言うのに、男子は周りを見渡し緊張した面持ちでこちらに答える。

「用があるのは確かだがここで話すのもなんだ。人気の無い場所で話しても良いだろうか?」

 ――お?これはまさか()()なのか?

「……ええ、構わないわよ。それでは校舎裏にでも行きましょうか?」

「そうして貰えると助かる」

 そう言うと男子は校舎裏へと向かっていく。

 これは、もしかしなくても()()だろう。確かに最高の異世界生活をする上で、何か足りないとは思っていたのだ。勿論スキルを使えば簡単に解決するけど、こう言うのってそう言う事じゃないじゃん。でもやっぱり私の隠しきれない魅力をもってすればスキルが無くても自然と出来ちゃうんだよなぁ。

 男子を改めてみるとDクラスで見た事が無いので恐らく上位クラスだろう。将来性もばっちりなので問題もない。まあ、遊びと言うかお試しならアリって感じでしてよ?

 そんな事を考えていると目的地の校舎裏に辿り着いた。おあつらえ向きに人気も少ない。日が傾いて少し薄暗くなっているがそれすら幻想的に感じる。

 男子はこちらに振り向く。その顔は緊張故か、かなり強張っている。

 その微笑ましい様子に思わず顔が緩んでしまう。彼ならばその場で返事を出してもいいかも知れない。

 しかしなかなか話を切り出さないので、痺れを切らして私から話を切り出す。

「用があってここに呼んだんじゃないの?」

「ああ、そうだ。ここに来てくれた事感謝する」

 少し態度がぶっきらぼうな感じがする。今時そんな亭主関白な感じは流行らないと思うのだが、まあ緊張しているだけかも知れないと思い納得する。

 男子の目がこちらを真剣に見つめる。嗚呼、ついにされるのね。

 私は少しとぼけた質問をしてみる。

「それで用って何かしら?」

「貴様の目的はなんだ?」

「……はぁ?」

 そう言うと男子は腰の剣を抜刀してこちらに向ける。

 いやなんで? 一瞬の出来事で何が何だか分からない。

「どうして邪神の手先がこの学園に堂々と居るんだ? 答えろ!」

 その気迫はこれが冗談などではなく、本気である事を理解させる。何が何だか分からないが、これだけはまず言わせて欲しい。

「告白するんじゃないのかよ!!!」

「何を言ってるんだお前は!」

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