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理想のヒロインは汚く生き足掻く  作者: 蟹電波
絶対正義の切断男
10/27

望まぬ上京

 新緑の爽やかな風が開いた窓から入る。私は深呼吸をすると共に微かに残った微睡みを身体から追い出す。

 窓から外の景色を眺めると遠くに王城が聳え立ち、その程近くに王城程ではないにしろ立派な建物が建っている。

「今日から私はあそこに通うのね」

 空はとても爽やかな青と白のコントラストで彩り、背中から吹く風はまるで私の人生を後押ししてくれている様で。嗚呼――

「……今からでも通知ミスって事で退学にならない?」

 おっといけない、この爽やかな空気を全てぶち壊すような腐った声が出てしまった。

「お嬢様、準備はお済ですか?」

「ええ後少しですわ」

 いつまでもグダグダ考えてももうどうしようもないので手早く身嗜みを整える。

 部屋の壁に掛かっている新品の制服に袖を通す。新品のパリっとした手触りは着ているだけで身が引き締ま……らないわ。中古の制服でもいいので今からもっと馬鹿な学校に行かせてくれない?

 嫌々着ているからか少し時間はかかったが制服に着替え終えると先程の声の主の元へと急ぐ。

「お嬢様、とてもお似合いです」

「ふふ、ありがとうメイド」

 よし、ちゃんと外行きボイスも出ている。御者が扉を開けてくれるので馬車にメイドと共に乗り込む。

 出発した馬車の車窓から流れていく人波を眺める。遠くにあった学園がどんどんと近づいていく。

「どうしてこうなったの……」

「お嬢様どうかなされましたか?」

「いいえ、なんでもありませんわ」

 にっこりと笑みを浮かべ応える。やっべぇ心の声が漏れてたの? 気を付けなければ危ない。

 私は笑顔を張り付けどうしてこんな事になったのかこの八年間を振り返った。




 あの後涙すら枯れ呆然としていたのだが、やるべき事をする為にすぐさま動き出した。

 まずはスキルを掛けた料理長と家庭教師のボンドルに全力で謝罪と認識の改定を求めた。

 私は今七歳だ。家を出るまで十年近く掛かるとして、十年間あんな料理を食べ続けたら間違いなく生活習慣病で死ぬ。

 異世界転生した上で生活習慣病で死ぬなんて絶対嫌だ。一生ゴルゾニーヴァに笑われる事になるだろうことは明らかだった。よって即刻に状況を好転させる必要があったのだ。

「料理長、私は道を示しただけで貴方までたどる必要は無いのよ?」

「いえ、お嬢様のセンスは間違いありません、私はお嬢様(リベル)(・デ・)気まぐれ(カプリース)を必ずや全世界に広め――」

「申し訳ございません、私の指し示した道は、道では無く行き止まりでしたわ。料理長の腕には遠く及びません。どうか私めに料理長の研鑽した腕を見せては貰えないでしょうか?」

 大体こんな問答を二時間はやった気がする。どれだけ腕を褒めても、こちらの非を謝罪しても、一向にお嬢様は正しいって言われるだけで改善出来る気がしなかった。

 そこでやったのが料理長に料理を教わる作戦だ。

 私のスキルは私が褒められる為に周囲の技能を私以下に下げるスキルなのだ。ならば私の技能が上がれば相対的に周りの技能も元に戻り、更に私が全く競う気が無い事ならある程度の技能さえ習得出来れば元に戻るのではないかと思い付いたのだ。

 結果としてこの作戦は成功したのだが地獄を見た。

 人が何かを頑張る理由の一つが人から評価されたいとかの承認欲求だと思うのだが、私の場合評価されようとするともれなく周囲の技能を下げるので、結果として自分がどれだけ頑張ろうとも謙虚にするしかなく自慢できないのだ。

 最終的に家庭料理でもかなりの高いレベルの技能を習得したのだが、「全然興味ありません、こんな事普通に出来て当たり前ですわ」と言うスタンスを取り続けなくてはいけなくなってしまった。

 ちょっとした飾り切りとか大きい魚とかおろせるのだから「料理、すっごく得意よ!」と言いふらしたいのだが、それをするとやっとプロの腕前に戻った料理長が今度は家庭料理しか作れなくなるので言いたくても言えないのだ。

 ここまでなら私も大変だけど料理の練習をするだけだしまあ仕方ないで済む。しかしこれと同時並行でボンドルとの勉強も行っていたのだ。

 正直ボンドルの勉強は無視でも良いかと思っていたのだが、ある日父がこんな事を呟いていたのを聞いてしまった。

「既存の枠を壊して新しい事をするべきだとボンドルが言っていたな……」

 さぁっ、と血の気が引いたのが分かった。私のあずかり知らない所で父の治める街の崩壊は着々と進んでいたのだ。その足でボンドルの所に走り三時間頭を下げ教えを請い続けたのは苦い思い出だ。

「ボンドル様、私は新しい事に固執しておりましたが古き物を壊すにしてもちゃんとした知識が無くては出来ない事に気付きましたの! どうか私にその叡智の一端をご教授お願い致しますわぁああ!」

 ボンドルも始め「お嬢様程の御方に私如きがご教授するなど烏滸がましい限りです」と言い、『コイツもしかして普通にスキル関係なしで根に持ってんじゃ……』と疑いたくなったが、後半鼻水を流しながら号泣して頼み込んだらなんとか勉強を再開する事が出来た。苦い思い出じゃ済まないな……。

 その後の私の生活は、どどめ色の澱んだ思い出しかない。来る日も来る日も料理に勉強漬けの日々。

 三年程経ち、やっと料理長の腕が全盛期に戻ったので料理は卒業したのだがそこから勉強以外にも魔法や武術の鍛錬も追加される事となった。

 本当ならサボりたかったが私の糞スキルのせいでサボれず。どれだけ技能が上がろうと謙虚であり続ける地獄を続けていた。

 この頃にはだいぶ世界一理想の女の子(糞スキル)の使い方も理解してきていた。

 まず一つ目がこの糞スキルは任意で効力を強める事が出来る、が決しておすすめは出来ない。

 何故なら料理長の様な大惨事に繋がるからだ。

 そして二つ目、任意発動で変えた認識は完全に取り消す事は出来ないが変える事は出来る。ただし死ぬほど大変なのでそもそも任意発動はするべきでは無い。

 そして三つ目、この糞スキルは常時発動しているのだがこちらにはいい面と悪い面が半々ある。

 まずいい面は基本的に人に好かれる点だ。例えで言えば町に買い物に出かけると百パーセント値引きやおまけをつけて貰える。他にもお願いすれば基本的には断わられる事は無いのだ。

 悪い面は調子に乗って偉そうにすると自分に発動の意思が無くても効力が強まってしまいスキルの暴発をやってしまいかねない点だ。昔街で褒められた事に気を良くして調子に乗っていると徐々にスキルの威力が強まって行くのに気付いた時は凄く驚いた。どうやら自動には発動以外にも状況次第では微調整する意味合いも含まれるらしい。

 仮に私が調子に乗って町中で「一番強い人と付き合いまーす」とノリノリで叫んだとしよう。それをこの糞スキルが要らん空気を読んで勝手にスキルの出力を上げたとする。次の瞬間には一斉に町中で喧嘩が勃発するだろう。

 一応スキルの効力が強まった時などは分かるし勝手に出力が上がる事などそうそう無いのですぐに落ち着かせるようにはするのだが、日常生活でもある程度は気を張っていなくてはいけないので正直かなり大変だ。

 この惨事を回避する方法はある。それは()()()()()()()()()()()事だ。

 このスキルは理想の女の子になるべく他者の足を引っ張るので自分が理想であり続けたらマイナスの効果は殆ど無いと言っていい。

 しかしこんなスキルを望み更には邪神に召喚される女が理想の女の子で居続ける事が可能なのか? 答えは否だ。

 よってあくまで誤射をしない範疇で楽しくこの糞スキルと付き合って生活をしていた。


 更に月日は流れて七年目、この頃にはかなりの才女になっていた。そこそこの魔法も使えるし勉強だってそれなりに出来る様になった。

 来年、私は学校に通い始める。表向きの目的は勉学に励み知識を蓄える事なのだが実際は貴族の付き合いやらパイプやらを築く為らしい。まあ私には腐ってもスキルがあるのでそこまで人付き合いは気にする必要は無いんだけどね。最悪困ったら上目遣いで「助けて?」って言えば誰かが助けてくれるだろうし。

 よって私は自分の実力より低めの学校を狙おうと思っていた。私のスキルは私より弱い奴にはデバフの効果が掛からない。よって馬鹿な学校で私が余裕で上位を取れる所ならば今程頑張らなくても問題ないと思ったからだ。

 幸い父の治める街にも学校があるのでそこに通おうと考えていた。そんなある日父から衝撃的な事を告げられる。

「リベル、お前には確かな実力がある。来年王立魔法学園を狙いなさい」

「嫌ですわ」

 即答した。

 王立魔法学園とは正式名称王立魔法学園ラヴィノギアの事である。

 国中から才能のある若者を集め高度な学習を施し、国の発展に貢献してもらうと言った感じの学校だ。

 まずこの数十文字の情報だけで、既に私よりスペックの高い奴しかいなさそうでは無いか。

 それに実績として過去に勇者と呼ばれる者は全てこの学園の卒業者だ。邪神の手下になったつもりは無いし別に何か悪だくみをしている訳では無いので邪神の転生者だとバレるとは思わないが、万が一の事を考え何かあっても面倒なので断りたかった。

「心配なのは分かる、だがなリベルなら受かると私は確信しているんだよ」

「リベルが頑張って来たのは私たちが一番よく知っているわ」

 黙っていたのを緊張と取られたのか父と母が励ましてくれる。違うのよお父様お母様恐らく受かる事は出来るんですけど受かった後が面倒臭いから別の学校に通いたいのよ。

「どう考えたってリベル姉さんは合格出来るでしょ?」

「クローネ、それってどういう意味ですの?」

「……さあ、勘かな」

 今年で十歳になる弟のクローネにも励まされる。と言うかクローネは物心ついた頃から私になんか冷たいのよね? まあ普段からダウナーな子なんだけれどね。

「みんなの期待は嬉しいのですけれども、私その学校に興味が無いの。家族と離れるのも寂しいし、この町の学校に通いたいですわ」

 ここはストレートに断ろう。下手に言い訳すると後で面倒だからね。

「リベル、才能のある物はその才能を育て他者に貢献する義務があるんだ。何より良い環境に身を置いて才能を伸ばす事は、後々お前の人生の為にもなるのだから」

「お父様、私――」

 その時、言葉に詰まったのは言い訳が浮かばなかったからじゃない。ここしばらく出てこなかった世界一理想の女の子(ミイズガル・デスベア)の気配を感じたからだ。それも任意発動レベルの気配だ。

 私は勿論だが任意発動などしていない。スキルが勝手に調節したのだ。

 私の脳裏にはあの邪神が馬鹿笑いしている姿が過ぎった。ゴルゾニーヴァは言っていた。出来るだけ多くの人と関われと。

 その発言から考えれば今回の王立魔法学園に入る事など願っても無い話だ。なので能力が勝手に判断しより目立てる方に誘導する様に発動したのだろう。

 ここからの発言は一言一句気を付けなければならない、下手をしたら町が滅ぶからだ。

 面倒臭くて行きたくないのは本心なのだが、ここでそのまま言ってしまうと怠ける事が正しいみたいな価値観になって誰も働かない世界になってしまうかも知れない。

 ならば先程義務があるとか言っていたがそこを責めれば、いやもし世界一理想の女の子(糞スキル)が拡大解釈してしまってノブレス・オブリージュまで要らないみたいな事になったら平民対貴族の戦争に発展するかもしれない。

「どうしたんだい、リベル?」

 突然固まって口をパクパクさせる私を心配してお父様が声をかける。駄目だ時間を掛けちゃいけないと思うと余計に思考がまとまらない!! ……ええい、こうなったらもうやるしかない。

「……お父様、王立魔法学園を狙いますわ。なんたって私はエスピリア家の長女ですからね! おーほっほっほっほ……えぐっうっぐ」

「リベル良く言ったぞ!」

「リベルは我が家の誇りね」

「……まぁ受かるだろうけど頑張ってね」

 こんな時に自我を通せない自分が恨めしい。最後の方笑っていたのか泣いていたのか今となっては分からない。

 その後は本当に地獄だった。話を聞いたボンドルが「お嬢様、このボンドル必ずやお嬢様を王立魔法学園に入学させて見せます」と張り切ってしまった為、この八年間の中で一番勉強させられた。

 何度かあの荒廃した世界でゴルゾニーヴァ(肉塊)がこちらを嘲笑っている光景を見たのだが、あれは夢だったのか、本当に臨死していたのかどっちだったのだろうか?




 そして試験を受け合格し今に至る訳だ。

 この学校の試験は定員が無い。合格点さえ取れれば必ず合格出来るのだ。しかしその合格点を取る事が難しい為毎年大半の受験生が落とされるのだ。

 まあ自慢では無いが私のように一年間勉強していた記憶しかない感じならそんなに難しくないレベルだ。

 そして試験の成績上位者から順にクラス分けがされ上からABCDのクラスに分かれる。ABは上位クラスと呼ばれ、より高度な授業を受けるらしい。

 私はCクラスに受かった。言うまでもないが下位クラスだ。

 それこそ私のスキルが正統派なチートスキルなら、歴代トップの成績を収め受験生や教師陣から注目を浴び、上位クラスで無双すると言う展開もあったかも知れないが私の場合、実力以上に目立つと周囲の実力を下げるだけなので目立つと言う選択肢はそもそも無かった。

 それにスキルの事を考えるとわざわざ上位クラスに行く意味もない。

 入試は実技と学科のテストを受けた。学科は難しくはあったがちゃんと勉強をやっていれば解けない程の問題では無かった。少し応用の効いた問題や『この出題者は解かせる気があるのかしら?』と思う問題もあるにはあったが恐らくその問題が解ける者は上位クラスに行くのだろう。

 私はもちろん下位クラス狙いなので合格ラインの問題をサッと解いて残り時間は瞑想(睡眠)させて貰った。

 実技は遠くの的に魔法を当てると言う試験だったので、最弱の魔法をサッと当てて終わらせた。パソコンで例えるなら最新のゲームを古いスペックのパソコンで満足に動かす様なものか。

 結構難しい事も複合でやってのけたので少しは称賛の声が上がるかと思ったのだが、同じタイミングの他の試験場で、上位魔法で的を壊すテンプレ転移者みたいな奴が居たみたいで注目は全てそっちに持っていかれた。

 畜生、私が目立てずこそこそ頑張っているのに堂々と目立つなんて努力で得た力だとしても腹が立つ。

 周りの話に耳を傾ければどうやら的を破壊しただの、大きなクレーターを作っただの嘘の様な話だったが私もとんでもない爆発音を聞いているので全て本当の話なのだろう。

 私だって本気を出せばそれくらい出来るもんね……本当よ?

 後から聞いた話だが今年は例年に比べて受験生のレベルが高かったらしい。ますます上位クラスに行かなくて良かったと思う。

 合格の連絡が届き私は数人の使用人と共に王都にある屋敷で生活する事になったのだ。

 父と母は心配して付いて来ようとしていたが私がなんとか説得し、かくして私の一人暮らし(使用人付き)が始まった。

「お嬢様、そろそろ学園に到着します」

「あら、もうそんな時間ですの?」

 遠くに見えていた門は今や目の前にある。王城ほどではないが立派な門だ。威厳や風格の様な物が漂っている。他の新入生も感傷に浸っている者が居た。

 御者のエスコートで馬車を降り、門へと向かう。

 その時、メイドが声を掛ける。

「私はここまでです。お嬢様にとって最高の学園生活が遅れる事を祈っております」

「あら、そうなの? ありがとう、それでは行ってくるわ」

 私はメイドに別れを告げ、そのまま門をくぐり入学式が行われる講堂へと向かった。




「今頃私たちの娘は入学式の最中だろうか?」

 娘のリベルが心配するなと言うので、身の回りの世話をする使用人と屋敷の維持をする数人だけ連れて王都に建てている屋敷に旅立って暫くが経つ。私達の娘に限って何も問題は無いと思ってはいるがやはり幾つになっても心配する気持ちは消えない。これも親心と言う奴だろうか。

「リベルは凄い子ですから本人の言う通り大丈夫でしょうけど、やはり心配ですね」

 ティアナも母親と言う立場から心配なのだろう。いつもは綺麗な形の眉を今は少し歪めている。

「明るい子だから心配要らないかも知れないが、ちゃんと友達は出来るんだろうか」

「同じクラスメイトの子から、イジワルされたりしないかしら?」

 俺とティアナはせっかくの娘の晴れの日だと言うのに嫌な想像が止まらない。

「父さんも母さんも、心配し過ぎだよ。リベル姉さんに限ってそんな事にはならないさ」

 私達の会話を同じ食卓で聞いていたクローネが呆れた様な目でこちらを見遣る。

「クローネは心配じゃないのリベルの事」

「全然してないね」

 ティアナの疑問に事も無げに言ってのける。しかしそれは興味が無いと言うよりは信頼していると言った声音だった。

「だって見てみなよ」

 そう言うとクローネは席を立ち窓際に向かう。

「あんな事が出来る姉さんに、イジワル出来る人が居ると思う?」

 窓からは中庭が見える。綺麗に整えられた芝生が自慢の中庭なのだが、その一角が何か大きな爆発でもあったかの様に地面が捲れ上がっていた。

 あそこはリベルが魔法の実践訓練をしていた所だ。

「……クローネの言う通りだな」

「そうね貴方、リベルは私達の自慢の娘だもの」

 息子の言葉で先程までの心配が自然と私達の胸中から消えていた。

「……それに姉さんなら嫌でも友達が出来ると思うよ」

 呟くようなクローネの声は誰にも聞える事が無く空中に消えて行った。

 一応スキルの自動調節について補足しておくと、自動調節に関して邪神は関わっていません。スキルが目立てる場面で逃げる様な軟弱な選択を選ばせないだけです。

 なので普段はそんなに反応する事はありませんが、仮に魔王城前でRPGの様に魔王討伐に誘われるとYES/NOが現れると同時に出力が最大にされます。

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