行き過ぎの冗談は笑えない
家と言うより屋敷だな。
門構えは確実にヤの付く人達の屋敷にしか見えないな。
まあ、普通に呼び鈴が付いているけど。
ピンポーン
呼び鈴を鳴らして暫く待つとインターホンから声がした。
『どちら様でしょうか?』
「あ、慶君のクラスメイトで今日の1時から約束している佐々木です。って知ってますよね、ユリさん」
相手は慶の屋敷で使用人をしているユリと言う人だ。
本名は慶ですら知らないらしく、基本ユリとしか名乗っていないそうだ。
ユリさんを連れてきた雇い主である慶の祖父さんは、流石に知っていると思うけどな。
ユリさんは声に強弱があまり無く平坦だが、冗談好きな人で、その上この道場の使用人な所為か慶並みに強い。
実際に戦ったら慶の方が勝つと思うけどね。
俺は慶を信じてる!
「佐々木様ですね。慶様から聞いております。」
「また話を聞かないな、この家の人は」
チッ「既に使われていたとは」
まさかの舌打ち⁉︎
き、気付かなかった事にしておいた方が良いのかな?
「えっと、いつまでインターホン越しで話せばいいんですか?」
「今開けます」
何故か急に機嫌が悪くなった。この人本当に使用人か?
俺、これでもお客様だよね。
「えっと、ありがとうございます」
暫く待っているとユリさんが門を開けに来てくれた。
「佐々木様、客間でお待ち下さい」
それだけ言うとユリさんは1人屋敷に戻っていった。
慶を呼びに行ってくれたんだろう。
俺は何回も慶の屋敷には来たことがあるので、客間の位置も覚えている。
ユリさんに言われた通り屋敷の客間に行くと、既にお茶と茶菓子が置いてあった。
いつも思うが部屋に入る前にお茶が入れてあったら、部屋を間違えたのかと思い心配になる。
まあ、俺が来る時間を予想してお茶を入れているだけだろうがな。
少し温くなっているお茶を飲みながら待ち、暫くするとユリさんが客間に入ってきた。
「佐々木様、それは私のお茶です」
「入ってきて第一声がそれですか。 と言うか何回目ですか。流石にもう騙されたりはしませんよ」
最初に慶の屋敷に来た時もユリさんに1人客間に連れられて慶を待っている時に入れてあったお茶を飲んだら、ユリさんがそれは私のです、なんて言うもんだから吹いてしまった事がある。
「そう言うと思って今回は事前に湯呑みに口を付けておきました」
「んッ! 俺はこれをどうすれば良いんですか?」
「お好きなように」
ユリさん、本当にお客が口を付けると分かっている物に口を付けたのか?
お好きなようにってどうすれば正解なんだよ。
表情が読めないから全く分からない。
大丈夫? これで良かったの? 成功だよねユリさん!
唯、変な空気になっただけじゃないのか。
こう言うネタは気不味くなるだけだと俺は思うよ。ユリさんにユーモアのセンスは無いのかもしれない。
俺は湯呑みを机に置き、もう手をつけない事にした。
「もう暫くしたら慶様がいらっしゃいますのでお待ちください」
「慶はついでか」
ユリさんの様子は特に失敗した様な状態のようには見えなかった。
この冗談は成功したって事で良いんだろうな、多分。
ーーー
気不味い。物凄く気不味いな。早く来てくれ慶。
慶を待っているが、その間ユリさんと客間で2人っきりは胃が痛くなりそうだった。
しかも、さっき冗談で間接キスをさせられた相手だ。
そんな気不味い中待っていると、10分程で慶がやってきた。
「悪い、少し待たせたな光希」
「ああ、凄く待っていたよ」
「ん? 10分も待たせてないと思うだろ?」
「今の俺にとって10分とは、永遠の事なんだよ」
たったの10分しか経っていなかったのか。気分的には2時間ぐらいユリさんと一緒に居た気がする。
「それでは私は失礼します」
「ああ、ユリ。光希の事ありがとう」
慶にお礼を言われると、ユリさんは会釈して客間から出ていった。
もしかしたら、ユリさんがやりかったのは、湯呑みネタではなく、その後の気不味い10分間の方だったのかもしれないな。
「で、また揶揄われていたのか」
「ああ、多分」
「ユリは光希の事、気にいっているからな」
「いつも思うがそれ本当の事か?」
「本当だって」
笑いながら言われても全然信じられなかった。
それよりも今日ここに来たのは、唯の待ち合わせの為だけだ。
「じゃあ、慶も来た事だし探しに行くか」
「出掛ける前に美月や咲良には会っていかないのか?」
「明日は2人とも入学式だろ。今日は忙しいんじゃないのか」
「そうかもな。なら、もう行くか」
慶と俺は屋敷を出て自転車に乗る。
「ダンジョンは何処に探しに行くんだ?」
「それよりも光希、今日誰にもダンジョンを探しに行く事を教えていないだろうな?」
「勿論。教えたりしたら何の為に未発見のダンジョンを探しに来たか分からなくなるからな」
まあ、春は付いて来たがっていたがな。
「なら良し。それでどこに行くかは、まだ考えてないぞ」
おいおい、考えていないのかよ。




