ダンジョンだった
魔法陣と謎の文字が吸い込まれた胸を触ってみるが、特に何とも無い。
「大丈夫か?」
すると突然、眼球に無理矢理お湯を入れられた様に熱くなり、激しい痛みが走った。
「うぐぐぅぅ、熱い、目が焼けるようだ」
あまりの痛みに立ち上がれなくなり、その場で蹲る。
全然、何ともあった。
いったい何が起きているんだ。俺はこのまま死んでしまうのか?
いつか、命を落とすとは思っていたが、こんな意味不明な状況でとは思っていな…か……った……
痛みの限界にそこで意識を失った。
ーーー
どのくらい時間が経ったのか分からないが、どうやらまだ死んではいないみたいだ。
今も目眩と多少の吐き気はあるが、目に走っていた熱は引いたようだ。
「あ~気持ち悪い。これ失明とかしてないよな? 怖くて目が開けられないんですけど。どうしよう?」
心臓は不安からうるさい音を立て続けていた。
軽口で自分は落ち着いているんだと言い聞かせているが、殆ど効果はなく心臓の音は激しくなる一方だった。
死んでいなかったにも拘わらずうるさい心臓だ。
止まっていなかった事に感謝した方がいいのかもしれないがな。
しかし、いつまでも目を瞑ったままこの場所でじっとしている訳にもいかない。
遅かれ早かれ、目を開けて洞窟の外には出なくてはならないんだ。
俺はゆっくりと息を吸い込む吐き出す。
落ち着くまで時間を気にせず深く深呼吸を続ける。
「ふぅ~」
ある程度落ち着くと不安を押し殺しゆっくりと瞳を開ける。
【ダンジョンの壁】
「はぁ?」
目が正常に見える事よりも、目の前の部屋の壁に添う様に【ダンジョンの壁】と言う文字が浮いていることに意識を持っていかれた。
いや、文字が浮いて見えている時点で正常じゃない。
視線を壁からスクロールが出てきた木の宝箱に移そうとしたが、既にその宝箱は消えていて、隠し部屋の中には何も無かった。
【ダンジョンの床】
「まあ、そうか。じゃあ一応上も見ておきますか」
【ダンジョンの天井】
「あはははは、そうだよなぁ」
さっきとは別の理由で落ち着きたいので、洞窟を出てテントまで戻ろう。
俺は目眩にふらつきながらも立ち上がり、ダンジョンの壁で体を支えながら出口へと歩いていく。
ーーー
俺は苦笑いを浮かべながら、それを見る。
【スライム】
「はあ、何となくそうなんじゃないかな?とさっきから薄々予想していたよ」
このゲル状の生き物を最初に見た時は、ゲームとかのスライムが現実世界に居たらこんな感じかな?とは思ったよ。
それがまさか本当にそうだとはな。
これって新種の生き物と言えるんだろうか?
まあ、今は兎に角、早く洞窟を出てテントまで戻りたい。
ーーー
「ハァハァ」
やっと戻って来られた。
洞窟から出て、取り敢えずテントに入り横になる。
そして、再び落ち着く為にゆっくりと深呼吸して、何も考えず頭を空っぽにして瞑想をする。
「落ち着いた」
状況を整理しよう。
まずはこの空中に浮いてる文字からだ。今も【テント】と言う文字が浮いているから、全て夢だった訳じゃない。
文字が見えているだけで、自分がおかしくなって幻覚でも見えいるんじゃないかと考えてしまうので、如何にか見えないようにしたい。
「そうだな、えーっと解除? お、消えた。じゃあ逆は、発動! おお、文字が見える」
結構簡単に発動と解除は出来た。
あと言葉に出さなくても念じるだけ発動、解除が出来るようだった。
今度は、発動したまま自分を見てみるか? 手を目の前に持っていき見てみると。
【名前:佐々木 光希
性別:男
年齢:16
職業:学生
lv:0
スキル:鑑定ⅡA 14/100
HP:100/100
EP:?/? 】
「うーん、ファンタジーだなー」
としか感想が出てこない。
案の定、ステータスらしき物が見えた。まるでゲームのシステムだな。
これまでの事を整理すると、俺が今も生死の境をあの隠し部屋で彷徨っているか、遂に頭がおかしくなって幻覚を見ているのでなければ、この洞窟は『ダンジョン』で、中にはよくゲームや小説に登場する、話や物語によって強かったり弱かったりする定番のモンスターの『スライム』。
俺はそのダンジョン内に入り、隠し部屋の宝箱を発見して、中から出て来たスクロールで得たと思われるスキル鑑定Ⅱ。
そして、下へと続く階段があることからダンジョンはまだまだ続きそうかな?と言う感じだ。
物語に登場するダンジョンだと、ダンジョンは下の階層へ行くほどモンスターが強くなる。
ちゃんと適正レベルまでlv上げをしてからでないと、下の階層でモンスターとのlv差で死ぬ事になる。
そしてlvを上げるには、モンスターを倒して経験値を稼がないといけない。
だから、モンスターを倒していない俺は今の所lv0と言うことだ。
だが、気になるのはこの鑑定Ⅱ。最初から鑑定Ⅱだったのか?
それにスキルの横にある数字、最初は回数制限かなと思ったけど、他のものを鑑定してから再度自分を鑑定しても数字に変化はなかった。
と言うか、それ以前にもう100回以上、鑑定使っていたわ。
発動状態だと勝手に視界に映るそこら中の物を鑑定してしまう。
なら、この鑑定IIの横の数字は、鑑定スキルの経験値なんじゃないかなと思った訳ですよ。
横の数字が100/100になったら、次は鑑定Ⅲになるんじゃないかな?
スキル表示の下にあるHPとEP。このHPがゲームなどのH (ヒット) P (ポイント)だとすれば、EPは多分E (エネルギー) P (ポイント)だろう。
消去法からEPはスキルを使う為のエネルギーだと思う。
だが、EPの横の数字はバグっているみたいだった。
これらの事を総合すると、俺のlvが0だからEPの数字がバグっているんだろう。
鑑定がⅡになっているのも、EPがバグって無尽蔵に使えてしまうから、鑑定を発動しまくって鑑定Ⅱに進化したんじゃないのかと思う。
まあ、元々このダンジョンで、一度もlvを上げないで宝箱を見つける事自体がこのダンジョンにとってもイレギュラーだったのかもしれない。
ダンジョンに意志があればの話だけど。
そしたら、鑑定を進化させる為に常時発動にしておいた方が良いな。
情報を制する者が戦いを制すとも言うからな。EP無制限のアドバンテージを活用しない手は無い。
「鑑定発動っと」
視界に映るもの全てを鑑定しているから、簡単に経験値を稼げそうだな。
さて、これから俺がしないといけない事を考えよう。
警察への連絡? しない。
家に帰る? 帰らない。
人に教えてあげる? あげない。
折角の俺が求めていた非日常が味わえる場所を手に入れたのに、それを台無しにする訳がない。
警察になんて連絡したら100%立ち入り禁止になる。家に帰るなんてつまらないし、人に教えるのなんて以ての外だ。
家族に教えたら警察に連絡される。友達に教えても秘密を絶対に守るとは限らない。
あと、ネットは絶対に見てはいけない。
もしかしなくても同時多発的にダンジョンが発生しているとしたら、国は絶対に国民がダンジョンに入る事をよしとはしない。
死人が出たら責められるのは国だろうからな。
ネットを見れば、見た事が履歴に残る。警察が調べられれば一発だろう。
だが今の俺は何も知らない。と言う事になるので、万が一問題が発覚した時に罪が軽くなるかもしれない。
まあ、どうでもいいか、そんな事。
それよりも、オンラインゲームではスタートダッシュをどれだけ早く切れるかが強さに直結するからな。ことレベル制のシステムでは特にな。
その事は世界中の廃人ゲーマー達が証明してくれている。
だが、ダンジョンが危険なもので、モンスターがダンジョン外に出ないとも限らない。
だから検証をしてみよう。明日になったら。
「もう18時か、時間が経つのが早いな」
スキル獲得時に倒れ込んでいる時間が長かったのかもしれない。
時間を確認すると、もう18時だったので夕食を作る事にした。
夕食と言っても大した道具は持ってきていないので、簡単なインスタントラーメンだけどな。
キャンプ用の簡易コンロに水を入れた鍋を置き沸騰するまで待つ。
その間に着ていた汚れた装備を外し、タオルを濡らして体を拭いていく。
着替えの服を着て、体を拭いたタオルで今日ダンジョンに入る為に使った装備の汚れを落とす。
沸騰したらそこに麺とかやくを入れ、箸でほぐし最後にスープの粉を入れて完成!
鍋でインスタントラーメンを食べるとキャンプっていう感じがする。家で食べるよりも断然美味しい。
ラーメンを食べ終わると、後片付けをしてから寝袋に入る。
明日は頑張ろう。おやすみなさい。