全員遅刻
ダンジョンの前で毒針を投げて遊び始めて、50m先の的に命中させる事が出来る様になった頃。
やっと春がダンジョンにやってきた。
「お待たせ~ってまだお姉ちゃんしか来てないの?」
「いや、春を待っていただけで他の4人は先にダンジョンに入っている」
「へえ~」
しかし、結構時間が経っているのに誰も返ってこないな。
1階層で死ぬ様な奴らでないから、そこまで心配はしていないけど。
「あれ? でも今日って隠し部屋に行くって聞いて来たんだけど、みんなは行かないの?」
「いや、皆で行く。だから慶達が帰ってくるまで春もその辺で待っていてくれ」
先に入った3人は兎も角、慶は俺が待っている事を知っているんだから、一度くらい帰ってきていてもいい筈なんだが。
いや、先に入った3人にも今日の予定は決まっていたんだから、待っていて欲しかったけどな。
もしかしたら慶は先に入った3人を探していて見つけられていないのかもしれない。
隠し部屋付近を見回ってほしいと頼んでいたが、何処かですれ違いがあったのかもな。
俺が探しに行ってすれ違いになるかもしれないので、もう少しだけ待ってみるか。
「ふ~ん、じゃあ素振りでもしておきたいんだけど、私の剣って今何処にあるの?」
「ここにある」
俺はそう言ってマジックポーチから春が使っていた長剣を取り出して見せる。
「え?」
「これの事だろ。そう言えば素振りをやれと言っていたのに、結局ずっと俺が持っていて悪かったな」
「いや、いやいやいやそれよりも!え?今の何⁉︎」
何驚いているんだ?
俺は唯春が使った長剣を取り出しただけだ。それともこれは違う長剣だったか?
いや、同じ剣だ。
このオリーブオイルの匂いがするのは、確かに俺が春の使った後に手入れした長剣の筈だ。
春は何が気に入らないんだ?
「何とはなんだ。春、お前の兄はテレパシーや読心術は使えないんだ。いや、スクロールによってはそのうち使える様にもなるかもしれないけどな。兎に角、今は使えない。だから春が何をそんなに驚いているのかちゃんと言葉で説明してくれ」
「だって! えっ? それって、その腰に着いているポーチって、ファンタジーで言う処のマジックバックだよね!?」
あれ? そんな事なのか。
良かった。この長剣が気に要らなかった訳ではないんだな。
このオリーブオイル臭い長剣は匂いが気になって、俺はあまり使いたくないなと思っていた。
まあ、この剣でモンスターを斬れば、どの道匂いなんて関係無くなるだろう。。
鼻で息したら吐き気がする程、獣の血肉の匂いはキツいからな。
特に凛は辛いだろうな。
王獣化(猫)の獣化は、獣に近い変化をして五感が鋭くなるからな。
その強化された嗅覚で凛はダンジョン探索している。
今度から凛にはダンジョンに入る前にエチケット袋をこっそり渡しておこう。
おっと、マジックポーチの話だったな。
そう言えば、マジックポーチの話は今朝美月達に話したのが最初か。
なら、春や慶がマジックポーチについて知らないのは当たり前だな。
てっきり美月達に聞いて知っていると思っていたと言うのは美月に悪いな。3度目だ。
だから春からして見れば、俺がいきなり腰のポーチから物理的に絶対に入らない長さの長剣を取り出したのを見たから、あんなに驚いていたんだな。
まあ、そのポーチから取り出す光景を見て手品では無く、真っ先にマジックバックだと疑ったのは、かなりダンジョンに染まってきていた。
まだダンジョンが民間に開放されていない段階で、もうそんなにダンジョンに染まってしまって大丈夫か?
何処かで美月みたいなボロを出さないと良いがな。
うちの学校なら兎も角、春の中学校だと隠し通すのは難しい。
「まあ、そうだな。バックじゃなくてポーチだが、大凡春の考えているマジックバックで合っている」
「そうなんだ。良いな、私も欲しい~」
春はマジックポーチを羨ましそうに眺める。
そんな目で見られてもな。
「ねえ~お兄ちゃん。そのマジックポーチ頂戴!」
久しぶりに兄と呼ばれたが、春の満面の作った笑みと上目遣いのあざとさで嬉しさは全く無い。
「あざとい、却下。こんな時だけ兄呼びしても無駄だ。欲しかったら自分で取ってこい」
やる訳が無い。俺にとってこのマジックポーチはそこら辺のスクロールよりも、余程貴重な物だ。
「(チッ!お姉ちゃんのくせに)取ってこいって何処にあるの?」
小声で何か言ったな。舌打ちは聞こえていたぞ、春。
「俺のマジックポーチは隠し部屋の宝箱から出てきた物だ。だから心配しないでも今日中にマジックバックが手に入る可能性もあるぞ」
俺がマジックポーチを何処で手に入れたのかを春に教えてやると、春は落胆した様な表情をした。
「それって唯の運ゲーじゃん」




