遊びに行ってくる
再投稿です
その日、突然世界中に謎の大規模地下構造体ーー通称ダンジョンーーと呼ばれるものが現れた。
ーーー
進級して高校2年の始業式を控えた春休みが始まる。
その日、俺は自転車で意気揚々と自宅から40分掛かる山道を登り、ある森に来ていた。
この森で自由気ままにキャンプをする為である。もちろん無許可だ。
誰の私有地かも分からない森だが気にした事がない。
高校生だから見つかったとしても、ちょっと警察のお世話になる程度で済むからな。
既に1度実証済みである。
俺こと佐々木光希は昔から自然が大好きだった。
いつも1人で夏でも無いのに海や川に飛び込んだり、まだ雪が残る山に私服で登山したりと遊んでいた。
別に友達がいなかったから、1人でそんな苦行を楽しんでいた訳じゃない。
自分で言うのもなんだが、俺は昔から運動神経が良く、全力で遊ぶと友達がついてこられなかった。
それがつまらないと感じ、自然と1人で遊ぶ事が多くなった。
実際、中学の時に友達に雪の残る山をその場のノリで私服のまま登山した事を話したら、頭のおかしい奴を見る目で見られた。
まあ、その方が良かったのかもしれない。
実は両親にも言っていないが、こんな1人遊びをしている所為か、俺は結構な回数死にかけていたりする。
海で足をつり溺れたり、沖に流された事や、崖や滝、高い木から落ちそうになったり、実際に落ちたりと色々とあった。
そんな中でも一番命の危機を感じたのは、森の中で熊に遭遇した時だった。
その時、俺は咄嗟に熊に背を向け走って逃げてしまった。
当然、熊は逃げた俺を追いかけて来た。
熊は時速50キロで走るとされ、オリンピック選手でも走って逃げる事は出来ない。
俺はこのままでは追いつかれる殺されると思い、咄嗟に近くの木に登った。
木に登り逃げ切れたと安心していると、下からガリガリと音を立てながら熊が木の幹に爪を立て登って来ていた。
迫る熊の姿に、顔の血の気が引きていくのを今でも覚えている。
しかし、幸いにも熊の木を登る速度は遅く、両手も木の幹に爪を立てていて塞がっていた。
俺はそこに一か八か、熊の鼻先に思い切り蹴りを入れた。
すると熊は鼻先に走った痛みに怯んだのか、木から転げ落ちるとそのまま逃げていった。
熊が去った後、俺は熊が戻って来る前に慌てて森を出て家へと逃げ帰った。
後になって思い返せば、その時の熊は体長が1mに満たない大きさだったので、まだ子熊だったのかもしれない。
いや、それでも戦ったら死ぬけどね。
そう考えると、あの子熊には気の毒なことをしてしまったかもしれない。
熊は出会った相手が逃げてしまうと、狩猟本能で襲ってしまうと聞いたことがある。
確か熊に遭った時の対応は、熊の目をじっと見つめて目を離さない様にゆっくりと後退してその場を離れるが正解だった筈だ。
実際に出会った時は、あまりに突然の出来事でパニックになってしまい、対処法を思い出せなかったけど。
まあ、こんな風に危険な目には幾つもあってきているけど、やっぱり自然の中で遊ぶのはやめられなかった。
今もこうして森の中でキャンプをしに来ている様にな。
「この森ももうすぐ終わりか」
辺りの地形を見ながらノートに描き込む。
ただ漠然と森に入り進むのは危険だ。
遭難のリスクがあり、迷子経験豊富な俺はもちろんその事を知っている。
それに同じ様な景色ばかりが続く森の中での移動中は暇でもある。
何かがあるまでは基本ずっと森の景色だから当たり前と言えば当たり前だが。
だから最近は森の探検時には地図を描きながら移動する事にしていた。
今回決めたこの森の探索範囲は9割方地図が完成したので、そろそろもっと森の奥に探索範囲を広げていこうと思っているところだ。
そして、残り1割の未探索範囲の地図を描きながら歩いて、ちょうど探索範囲の地図が全て埋まった所で、洞窟を発見した。
「お、洞窟発見」
見た感じかなり奥行きのありそうな洞窟だった。中は結構広そうだ。
未知の洞窟!
絶対に中に入って探検してみたい。
洞窟の探検とか、冒険の代名詞みたいでテンションが上がる。
まあ、洞窟と言っても大抵は短いし、長く続いていても何かがあるというわけでもないんけど、それでも洞窟って聞くだけで非日常って冒険感があって楽しいんだよな~
よし、レッツ未知の洞窟探検だ!
と、その前にテント設営を先に済ませておこう。
いい感じの間隔の三本の木にテントから出ている紐を付け、お互いが引っ張り合う様にしてテントが水平になる様に固定する。
それからテントの骨組みを入れると、空中テントの設営完了。
見た目は三点で支えるハンモックの様な、宙に浮いているテントだ。
早速テントに入る。
「おお、ちゃんと浮いてる。これなら安全そうだ」
この前までは一般的な地面に設営する普通のテントを使っていた。
実は前回のキャンプで朝になり起きると、テントが破かれてカバンの中身が荒らされていた。
昨晩に使ったカレー用に持って来ていた野菜の余りが無くなっていた事から、多分何かの野生動物の仕業だと思う。イノシシとか。
あの時はテントやカバンが壊されていたのも怖かったが、それよりもここまでの事がすぐ側で起きていたのにも関わらず、ずっと爆睡していた自分の事の方が恐ろしかった。
このままだと、いつか気がつかない内に殺されてもおかしくない。
まあ、だからと言って1人キャンプを辞める理由にはならないけどな。
だからこそ、今回はこの野生動物が手を出し難いと思う空中テントを買ってみた。
結構な出費だったけどね。
まあ、そんな事よりも洞窟探索の準備を始めよう。
俺はテントの中に入り、洞窟探検用の装備に着替える。
よく洞窟探検に用いられるケイビングスーツと言う上下のツナギの服を着て、そしてヘルメット、ヘッドライト、ベルト、手袋、そして防塵マスクを装備して準備完了。
「えっーと、今が13時だから、長くても2時間くらいで折り返して洞窟を戻り始めればいいか」
まあ、流石にそこまで広い洞窟じゃないとは思うけどね。
それでは、洞窟探索開始!
洞窟の中へと入っていく。
「あ、ヘッドライトのスイッチ入れるの忘れてた」
俺は一旦立ち止まりヘッドライトのスイッチを点けてから、改めて洞窟の中へと進んでいく。