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なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ

向日葵は東を向いて溜息を吐く

「ママ、ヒマワリ大きいねぇ!」

「ふふふ。でしょ?種が沢山できるねっ。」


 一人息子の翔太が目を輝かせ、窓越しに庭の向日葵を見つめる。堂々たる立ち姿は確かに目を引く。


「立派な向日葵だよなぁ。」

「あ!パパ!おはよー!」


 昼近くにのっそり起きてくる夫。

 何事も無かったように翔太とじゃれつく。


「翔太、向日葵はな、お日様の方を向いて咲くんだぞ。」

「へぇー!」


 子供の相手はちゃんとする。

 人当たりも良い。

 タバコをやめ、お酒にも溺れない。

 浮気もしてない。

 世間は良いパパだと言う。


 だが私はその評価に反駁したくなる。


 昨晩の夫は、私に侮蔑の目と怒りで震わせた声をぶち撒けた。

 思い出し吐きかけた溜息を慌てて飲み込む。夫はこういう事にだけは敏感だ。


 発端は些細だった。お向いさんの夫婦の在り方を嘲笑する夫に嫌気が差し、少し(とが)めたらそれが火種となり、烈火の如く私の人格批判が始まった。


 理解を深める為の喧嘩なら光は見える。しかし寄り添う気もない夫とのやり取りは、いつも私を論破する為だけのもので喧嘩ですらない。昔は応戦したが、舌戦で強いのは説得力がある人ではなく話を聞かない人であり、子供じみたケンカはより子供な人が勝つのだ。勝ち負けを求めていない私は、辟易し閉口し心も離れた。



 不意に夫に呼ばれる。

「今日、暑いから出掛けるのやめよーぜ。

 お昼も適当なのでいいから。」


 昨晩のダメージもまだ残り、尚更心を毛羽立たせる。


 向日葵が太陽を向くのは若い時だけで、成長し日光が必要なくなれば追わなくなるのはご存じか?

 ウチの向日葵だってとっくに東を向いたままだ。


 何故、家族にずっと慕われてると自惚れられるのだろう。


「おい、早くしてくれよ。俺は朝ごはん食べてないんだから分かるだろ。」

「ごめんね。今やる。」


 先日派手に怪我した指はまだ完治に程遠く、包帯をラップで巻き手を洗いながら、いつまでこの生活を続ける?とぼんやり思う。

 翔太を歪ませない為なら笑顔も作れるが。


 お向いさんは今、どうしてるだろう。

 近所の噂話はお向いさんの話で持ちきりだ。

 旦那様が毒入り珈琲を飲み、亡くなった事故。記事も読んだ。

 最初は奥様が疑われたが、実は奥様の自殺用に隠していた珈琲を、勝手に旦那様が飲んでしまった様だ。気の優しい奥様だったから色々心配だ。でも、うらやま…あー、無し無し。今のは嘘。


 素麺を茹でる鍋に水を張る。

 静かに揺れる水面。

 冷えたトマトをすとんと切る。

 包丁の切れ味は良い。

良ければ他のなろラジ大賞4への応募作品にもお立ち寄り下さい。本文のタイトル上部『なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ』をタップして頂けるとリンクがあり、それぞれ短編ですがどこかに繋がりがあります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ランドセルのお話で登場した翔太君の家庭の闇を覗いてしまったようでゾクッとしました。 でも、家庭には人様から見えない闇を多かれ少なかれ抱えているものですよね。
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