7 アニマ
リリーとソフィが行動を開始したものの、こんな雪山での食事に調理らしい調理なんてない。
やることは、むしろ作業と言った方が近いだろう。
ソフィがテントから少し離れた位置の雪をシャベルで掘り起こし、密度の高い深層の雪をコ
ッヘルへ入れる。
「お願いします」
「了解、ありがと」
トクトクという水の音。背後でソフィとリリーがコッヘルの受け渡しをしたらしい。
熱伝導を上げるためのお湯を魔法瓶からコッヘルに注いでるのだろう。
「火よ、あれ」
リリーの詠唱。詠唱しなくとも火を起こせるはずだが、今は急ぐ場面でもなし。より安易に効率よく火を起こすべく、唱えたのだろう。
詠唱に従って大気のアニマが僅かながら集まる気配。微かに背後の空気が暖まった感覚。
アニマ。
前世紀の天才、ナイト兄弟が残した功績は数え切れねども、一番の発見はこのアニマに尽き
るだろう。
ラストウィルス研究の過程でナノテクノロジーを確立させたナイト兄弟は、そのテクノロジーで人類が未だかつて観測したことのなかった極小の光る粒子を発見した。
構造も何もわからぬ未知の存在。
それを人類で初めて認識した彼らは驚くべき事象を観測する。観測を望む彼らの意のままに、その粒子は動いたのだ。
人類がその存在を認識し、それに願った時、かつての物語の魔法の力が人類に宿った。
「曹長、コーヒーです」
遠慮がちな声掛けが、俺を物思いから引き戻した。
横を見上げれば、ソフィがその小さな手でおずおずとマグカップを差し出してくれていた。
「ああ、サンキュー」
礼を言って、俺はマグカップを受け取る。
手袋のせいでちょっと持ちづらいが、マグカップの温かさがありがたかった。それに口をつければ、熱いコーヒーが体を内側から温めてくれる。
「二人ともできました」
大して時間もかからず、リリーが声を掛けてきた。
「わーなになに!?」
嬉しそうにテンションも高く、シャルが声を高鳴らせる。
「今日のお昼はチキンスープとパンでーす!」
「わー、このパン柔らかい!」
「最初の食事だから、日持ちしなくても美味しそうなパンを持ってきました」
「あー、リリー大好きー」
芝居じみたリリーと、まんまとそれに感謝感激なシャル。
「いいけど、あんま騒ぐなよ。あと、監視は続けろよ」
そんな二人の声の大きさに、俺は上官として一言物申しておく。
「わー曹長イケずー」
「曹長、それはないですよ」
そんな俺に対して相変わらず小うるさい部下一号二号に、俺は口をしかめる。
「うるさい、任務は任務だ」
そんな風になんだかんだ言いながらも、俺達は全員で賑やかな昼食を楽しんだ。
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