5 キャンプ設営
日がほぼ天頂に至った1213時。
俺達は山頂付近に至っていた。
人類が8000フィート級の雪山登山にどれだけの時間がかかるのかは知らないが、俺達亜人
だとこれ位なもんである。とはいえ決して安全でも楽なわけでもないので、進んでしたいとは
思えないが。
「曹長。あそこなんてどうですか?」
リリーが左前方の一点を示す。確かに比較的平らで見晴らしも良さそうだ。
「確認するぞ」
頷き、俺達はそのポイントに進む。
山頂間近だけあって風が強い。正直、キャンプをしたい場所ではない。
ポイントに至り、現場を確認。テントを二つ張るに足るだけの余裕がある平坦部。雪を踏んでみるに、雪面状況、地盤も安定していそうだ。
不安要素があるとすれば、吹き抜けであり風が強いことだが、周囲に風よけになりそうな地形で条件のいい場所はない。また、風よけは視界を狭めるとともに、落石等の危険もはらむ。
総じて言えば、悪くない。
「よし、ここにキャンプを設営する」
「「イエッサー」」
珍しくリリーとシャルがいい返事をしたが、これまた珍しくソフィの応答がない。
「どうした、ソフィア三等軍曹?」
「あ、えっと、その」
俺の問いにソフィは言い淀み、そのまま首を縦に振ろうとする。
「ソフィ。いつも言ってる通り、上官の命令は絶対だが、俺が間違うこともある。少なくとも
俺の命令に疑問がある時は確認しろ」
「……あ」
「これも命令だ」
声を漏らして見上げたソフィに、俺は笑いかける。
「曹長、いつも思うんですけど私達とソフィで対応違いすぎません?」
「そうだそうだー。部下は平等に扱えー。私達は不満を表明する」
「うるさいな。お前らは言わなくても文句言ってくるからいいんだよ」
うるさい脇からのヤジを、手を振って追い払う。
「あ、あの」
そんなことをしてたらソフィがおずおずと声を出したので、俺は慈愛の笑顔でソフィを見返
す。
「ゆっくりでいいぞ。上官に意見するんだ。本来、それ位怖いものだからな。あいつらがおか
しいんだ」
「私は疑問がある場合は意見しろという曹長の命令を忠実に守っているだけです」
「そうだそうだー! 自分の命令には責任を持てー!」
……ホントにこいつらとソフィ、足して二で割れないかな。なんて思いながら部下と思えない部下達を見返していれば、そんな俺達を見てソフィは口元を抑えた。遺憾ではあるがバカ二人の言い様がソフィの緊張を解したか?
「ここは風が強いですが、大丈夫でしょうか?」
そうしてソフィが口にしたのは、もっともな主張だった。
「そうだな。ソフィの危惧はもっともだ」
風は俺達の体力を奪うだけでなく、火を使う上でも、テントを張る上でも危険だ。
「ただ、今回の俺達の任務の性質上、キャンプはどうしても高所から全周を見張れる場所を選
定せざるをえない。見晴らしと風除けは相反する条件で両立しがたい」
説明するものの、こんなことはソフィもわかっているだろう。わかった上で、不安なのだ。
いつ何があるとも知れぬ雪山。自身の身を守る上で、万全を期すに越したことはない。
「見晴らしの良さは作ることができないが、風除けは作ることができる。索敵の邪魔にならな
い範囲で雪の風除けを作ろう。それでどうだ?」
気休め程度でしかないが、提案をする。少なくともこれで俺達とテントが風に晒されると
いう問題点はカバーできるはずだ。
ソフィはまだ不安ではありそうなものの、
「はい、わかりました」
こくりと頷いてくれた。
「ありがとう。それじゃあ、キャンプの設営を始めよう」
言って、雪を踏み固めようとし始めると、袖を引かれる。振り向けば、
「こ、こちらこそありがとうございました。曹長」
ソフィはいつも伏し目がちな顔を上げて、お礼を言ってくれた。
「どういたしまして、ソフィア三等軍曹」
見上げてくれた目に微笑み返して、俺は返礼を伝えた。
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