2 登頂開始
「クリスマスに山登りって軽く拷問よね?」
アイゼンを装備しながらもシャルはうるさい。
「や、あんたの一セントにもならない愚痴聞き続けるのも軽い拷問なんだけど」
「いいね、リリー。俺も賛成に一票」
「あんたら酷くないっ!?」
「シャ、シャルちゃん、私も大変だと思う」
「ありがとう、ソフィー! でも大変とかじゃなくてさ!」
ソフィに縋りつきながらも、シャルは一々うるさい。
そこは味方してくれたんだから大人しく感謝だけしとけよと思うが、指摘するのも面倒なので先を急がせることにする。
「準備できたなら、さっさと行くぞ。夜までにはベースを確定させたいからな」
「はーい」「うぇー」「りょ、了解です」
三者三様の返事で、
「うん。ソフィを除いて、お前ら上官に対する返事じゃないよね」
「申し訳ありません、曹長」
「パワハラ、はんたーい」
口だけ謝罪してヘルメットに入りきらないホワイトの長髪を指先でクルクル弄ぶリリーと、口だけすら反省の色がないシャル。
こいつらどうしてやろうかなんて思ってみたが、考えるのすらめんどくさいので無視することにして歩き出す。
そうすれば、言葉と態度こそクソ生意気だが、さはあれ部下一号から三号。大人しく背中についてくる。
わかり切っていたことだが、初めからこうすればよかった。
「ウィリアム班よりコマンドポスト。これより登頂を開始する。どうぞ」
マイクスイッチを入れて、司令部に報告を行う。
『コマンドポストよりウィリアム班。了解。二時間置きに定時報告を入れられたし。どうぞ』
短い応答が戻ってくるが、その間にすら欠伸まじりで通常運転なバカオペレーターへの殺意が高まる。
「ウィリアム班よりコマンドポスト。了解。寝不足な貴局に今年最後の不運が訪れますように。オーバー」
一方的に言い捨てて通信を終わらせる。
『コマンドポストよりウィリアム班。貴局の頭に落石という名のクリスマスプレゼントがあらんことを。バッドラック。オーバー』
だというのに、勝手に通信を続け、シャレにならない捨て台詞を吐いてくる。
「ウィリアム班よりコマンドポスト。終了した交信を続けるな。どうぞ」
『コマンドポストよりウィリアム班。一交信前の自局を振り返られたし。どうぞ』
「ウィリアム班よりコマンドポスト。現場の貴重なバッテリーの無駄遣いは止められたし。どーぞ!」
『コマンドポストよりウィリアム班。他局交信の邪魔である。黙ってさっさと任務に励まれたし。オーバー!』
この腐れオペレーター!
と思うものの他の班の邪魔になるのは本意ではないので、仕方なく通信を終える。覚えとけよ、あのアマ。