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マスク警察(4)

<12>

 デュークとツカサは、アスカ区内にある、ファッションショップ「アイランド・ビレッジ」を訪れていた。広い店内には、若年層をターゲットにした、カジュアルでポップな洋服が、センス良く陳列されている。駅に近いこともあり、平日でも多くの若者で賑わう人気の店だが、本日は、臨時休業で、店主の佐藤という40歳前後の男性とマスク警察の2人だけが店内にいた。

 

 センスの良い店内に少し違和感があるのは、マネキンの口元のマスクのせいである。マネキンや銅像にマスクを着用させている風景を頻繁に見るようにはなったが、この店のマネキンが着用しているマスクは、ちょっと奇妙だ。マスクに笑っていたり、怒っているような口元が黒マジックで描かれているのだ。しかも布ではなく、不織布マスクにだ。店主の佐藤の話では、ここ1ヶ月で、3回ほどやられているらしい。


「朝出社すると、マスクが着けられていたそうですが、取られたもの等、他に被害は?」

「現金も、洋服も取られていません。マスクを着けられているだけなんです。」

「どうして2回目の被害までは、通報なさらなかったのですか?」ツカサが佐藤に聞いた。

「身内のイタズラかと思ったんです。ドアや鍵も壊された形跡が、無かったので。」

 イタズラが3度も続いて、さすがに気味が悪くなったのだろう。


 デュークが店内をぐるっと見回す。防犯カメラが設置されている。

「防犯カメラの映像を確認させていただけますか。」

「はい。事務所へどうぞ。」

 犯行当日の動画には、暗い店内で、不審な人物が、店内のマネキンにマスクを着けている様子が映っていた。不審者は時に踊りを踊るように、楽しそうにマスクを着けている。何を歌っているかよく聞こえないが、まるで、ミュージカルの主役にでもなったようにこの人物は、踊り歌っているのだ。


「女性のように見えますね。」

パーカーのフードを被って眼鏡をかけているので、顔はよくわからないが、体の線や、動きで女性的な印象を受ける。マネキンにマスクを着けて、自分はマスクを着用していなかった。防犯カメラの動画データをコピーさせて貰ってマスク警察の二人は、一旦引き上げることにした。


「先輩。さっき店主のSNSをチェックしたら、今回の事件を画像付きで、アップしているんです。」

ツカサが、スマートフォンの画面をデュークに見せる。

「被害にあっているのに、たくましいな。」

「先輩。そんな呑気なことじゃないんです。視聴数を見てください。かなりバズっています。」

「本当だ。それで?」

「先輩、ピンと来てくださいよ。さっきの店主が、自作自演で、SNSのバズり狙いの可能性があるんじゃないですか。近所の人に聞いたら、最近SNSの影響で、客足が、かなり増えていたそうですよ。」

「なるほど。被害を受けたことに同情して店を訪れる人もいるだろうな。」

「あの、店主の佐藤は怪しいですね。」

 ツカサは店主の佐藤を怪しんでいるようだ。

「ちょっと待て。防犯カメラに映っていたのは、女性だぞ。」

「そんなの誰かに頼んだんじゃないですか。2回目まで警察に届けなかったのも、おかしいです。」

「いや、じゃあなんで今回は通報したんだ。警察に通報して、自作自演がバレるリスクを負うとは思えないが。」

「確かに…。」



<13>

「ツカサ。今回は、張り込み捜査をやってみようと思うが、どうだ。」

「え、張り込み捜査ですか・・・。」

「いや、無理にとは言わない。私一人でも・・・」

「やります!先輩!やらせてください!是非!!」

 ツカサの瞳は、今まで見たこともない輝きで、キラキラしている。

「あ、ああ。頼むぞ。」

「了解!!!」

 こいつ絶対、刑事ドラマの見過ぎだ。張り込み捜査への憧れが爆発してるじゃねえか。まあ、いいか。やる気あるみたいだし・・・。


 ファッションショップの犯行は、週末の深夜が多いという事で、金曜日の夜からデュークとツカサは張り込むことにした。


「先輩。どうして張り込む車が、奥様御用達でお馴染みのダイハツタントなんですか。」

「パトカーじゃ怪しまれるだろ。署長の弟さんの奥さんの車らしい。」

「なんですか、その友達の友達から聞いた、みたいなヤツ。こういう時って、普通セダンじゃないですか?覆面パトカーの。」

「うちの覆面パトは、先週事故って、修理中らしい。」

「何やってるんですか。うちの刑事は。」

「仕方がない。カーチェイスの末に犯人の車両に激突したらしい。」

「本当、マスク警察って、一課の刑事より過激ですよね。」

「ツカサ、無駄口はいいから、ちゃんと見張れ。俺は眠いからとりあえず寝る。3時間交代だ。もちろん不審な人物が現れた時は起こせよ。」

「了解。先輩疲れているんですね。」

「ああ。昨晩は、アダルトVRの、ヌルテカ過激水着でアジトに潜入する、熟女捜査員モノを3本立て続けに観たので寝不足なんだ。オヤスミ。」

「・・・どの部分からどう突っ込めば良いのか分からない事を言わないでください。一体私は何ハラで貴方を訴えれば良いんですか。」

「済まない。冗談だ。」

「あっ、あの女性。怪しいです。」

「え?早速現れたのか?」


二人の視線の先には、周りをうかがいながら、店舗の裏側にある、ドアに近づく女性の姿があった。その女性は、慣れた手つきで、玄関マットをめくり、カギを拾い、それを鍵穴に刺した後、暗証番号を入力し、ドアを開けて店内に入っていった。その間数秒の出来事だ。


「ツカサ、行くぞ。」

「了解。」

 二人は静かに同じドアから侵入して、店内をうかがった。さっきの女性が、バッグから例の不気味なマスクを出しているところだった。



<14>

「先輩、確保しますか。」

「いや、少し様子を見よう。」


 マスクをすべてバッグから出した女性は、今度は、小さなビンを取り出し、その中に入っているカプセルを口にした。

「先輩、あれなんでしょう。」

「わからん。」


 カプセルを口にした後、その女性は静かに腰を下ろし、そして動かなくなった。


「服毒自殺でしょうか。」

「いや、マスクを用意して死ぬか?」


 その直後、女性は急に立ち上がり、自分が着用していたマスクを口元から剝ぎ取り、近くにあったマネキンに着けた。他のマネキンにも用意してきたマスクを着けながら歌い踊りだした。先日見せてもらった動画と、ほぼ一緒の行動である。


「みんなにマスクを着けましょう~♪貴方も貴方も貴方にも~♪」

 女性の急激な変化に二人は驚きを隠せない。


「先輩。さっき飲んだ薬の作用でしょうか。」

「そうかも知れない。そろそろ止めるか。」


「このお店の~♪このお店の名前は~♪アイランド・ビレッジ~♪日本語に訳すと~♪しまむら~♪ファッションセンターし~ま~む~・・・」


 その時店内の明かりが一斉に点灯した。

「そこまでだ!」デュークとツカサが、女性に拳銃を向ける。一瞬の静寂の後、女性がわめきだした。


「イヤー!!いつから見てたのよー!!恥ずかしーじゃなーい!!」

どうやら羞恥心はあるようだ。

「ずっと見てたよ。もう、おとなしくしなさい。」デュークの一言で、さらに女性は興奮状態に陥る。

「イヤー!ずっと見てたって、高3の夏から??!!」

「いや。そんな前からじゃないよ。」

「イヤー!見ないでー!!お尻は絶対に見ないでぇぇぇ!!」

「いや、見ないでって言いながら、こっちにお尻向けてますよ。」

「イヤー!!胸を触らないでー!!胸だけはー!!」

「触らないですよー。落ち着いてくださーい。」

「イヤー!!ブラックタイガーが!!ブラックタイガーが!!」

「ブラックタイガーはエビですよ。美味しいですよー。大丈夫ですよー。」


「先輩。これではラチがあきません。眠らせましょう。」

「そうだな。やってくれ。」

 ツカサが、麻酔銃で彼女を打った。女性は、あっけなく床に倒れ、静かになった。

「署に連れ帰って、明日、彼女が落ち着いてから事情を聴こう。」

「了解。」




<15>

 翌日、警察の取調室には、デュークとツカサ、そして例の女性、名前は、綾野春香(32)が居た。彼女はデザインの仕事に就いているらしい。昨日、訳の分からない歌を歌い踊っていた人物とは、同一の人物と思えない落ち着きぶりの、ごく普通の女性だ。


「仕事で遅くなった帰りに、あの店の裏を通りかかったとき、店の人が戸締りをしているのを見てしまって。マットの下に隠したカギを使って、適当な暗証番号を入れたら偶然空いてしまったんです。それから仕事帰りにあの店に寄るのが、習慣になってしまって…。」

「なんだか、なじみの飲み屋みたいな感覚みたいだけど、これは不法侵入に当たるからね。」デュークが優しく諭す。

「本当にすみません。ウィルスのパンデミック後に、デザインの仕事が激減してしまって、ストレスが溜まったうえに、趣味の旅行にも全然行けなくて。最初は、入ってはいけないところに入るドキドキ感を味わってストレスを解消していただけだったんですけど。あの薬を知ってから・・・。」

「あの薬とは、この薬の事ですね。」ツカサが、彼女から押収した小瓶を見せた。

「・・・はい。そうです。」


 小瓶の大きさは、風邪薬が入っているような小瓶を、1度100倍に膨らましてから、一気に100分の一に縮小したような大きさだ。ラベルは張っておらず、薬の名前も成分、内容量全て不明だ。

「この薬はどこで?」

「ネット販売で入手しました。以前からSNSで、話題になっていたんです。マスク着用時の息苦しさを軽減するという触れ込みで人気でした。他にも、肩こりや、腰痛、冷え性や、リウマチにも効くらしくて・・・。結構な高額だったんですけど、このご時世では旅行にも行けないし、お金使う予定もないので、思い切って購入したんです。」

「飲んだら、ストレス解消出来たんですか?」

「はい。薬を飲んだ翌日は、とても清々しい気持ちになってて。ただ、薬を服用した直後の記憶がほとんどないんです。まさか、自分があんなことをしていたなんて。」

 彼女には、店内で歌い踊る動画を事前に確認してもらっていた。


「この薬の名称は?」

「パイザー製薬の、≪ビーナス・サイマティクス≫です。」


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