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New Era
VRMMOFPSとして発売されたこのゲームは、あらゆるジャンルのゲーマーを呼び寄せ、一気に人気タイトルの仲間入りを果たした。リアルな経済システム、政治、そして、SFチックな銃撃戦とメカバトル。それら全てが最高の出来で提供されているこの世界に、入り浸るプレイヤーたちは次第に増えていった。
そんな世界で、俺は飛び交う銃弾にビビッて逃げまどっていた。
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大学への進学が推薦入試のおかげで早めに決まり、暇を持て余していた俺、新島優平は、噂になっていたこのNewEraを迷わず購入した。運動も特段できるわけでもなく、FPSなぞやったことのない俺にとっては、なかなか敷居の高さを感じてしまったのだが、まぁ、たかだかゲーム合わなければやめればいいという軽い気持ちで、ベッド型デバイスごと購入した。これにより毎年貯めていたお年玉は無に帰したわけだが、後悔はきっとしていない。していないったらしていない。
サービス自体はほぼ1年前に始まっており、ちらほらと有名なプレイヤーがいるようだったので、軽く動画サイトでその人たちの動画を見て見る。
FPS自体の経験がないため、あまりわからなかったが、銃の持ち方や撃ち方などはシステムの補助が存在しているらしいので、専門的な知識がなくてもある程度はできるだろう。
通っていた高校からは、冬休みからの自由登校を命じられていたので、朝っぱらからゲームを謳歌することを決め込んで、新品のデバイスを起動する。
少しの浮遊感と共に目の前の景色が入れ替わった。
青白い空間に光る球体が浮かんでいる。
『あなたはまだ精神体のままです。アバターの設定と、身体値の割り振りをお願いします』
アバターは体格などは、現実のものをコピーしてもらい、顔のみ時間をかけて入念にそこそこイケメン(当社比)になるよう仕上げていく。
そして、作業を終えて身体値の項目に移ると、思った以上に複雑で、全てを理解できなかった。
球体に質問したところ、特定の値を超えると常人を超えた動きも可能になると、一定の値以下は元の身体能力を参照した動きを反映すると答えられた。
ただ、初期値ではたいして大きな効果も得られないということも教えてもらったため、極フリなんかせず、まんべんなく視力・聴力・臭覚・スタミナ・心肺機能・筋力(両腕・両足・胴)と、それぞれの部位に存在する持久力と瞬発力に振っていく。あまった10ポイントはとりあえず心肺機能へぶち込んでおく。
『最後にあなたの名前は?』
「えーっと、アラインでお願いします」
『承認しました。では、よりよい生活をあの世界でお送りください』
そんなわけでざっくりとした世界観の説明なんかを聞いて、俺はこのNewEraの世界へ降り立ったのだった。
このゲームのクリア条件は、ほとんどないと言ってもいい。5つの勢力に分かれた宇宙空間のなかで、所属を決め、戦争に参加したり、政治に参加したり、はたまたメカニックとして施設や戦闘用メカを生産したりすること。これらがこのゲームのメインコンテンツと言えるだろう。また、現実の6倍速の時間が過ぎていて、現実の1年がゲーム内では6年になる。まぁ、最近のVRゲームはみなそんな感じらしいので、慣れれば問題ないだろう。
初期装備の確認を待機時間でしながら、現状の確認をする。
今はどこかへ向かう輸送船の中にいる。初期装備は、ナイフ1本と、レザージャケット。あとは薄手のシャツに、ジーンズパンツという至って普通の格好だ。ナイフは腰のベルトへ収納されている。FPSという割に銃などを持っていないのは意外だった。ピストルくらいはあってもいいんじゃないかとぼやきつつ、目の前のモニターを眺める。
傭兵国家オーズランドへようこそ
傭兵国家の説明は先ほどの球体に聞いていたので理解している。この世界では4つの国家と、1つの集団で形成されているらしく、その1つがこの傭兵国家オーズランドらしい。
この国、というより集合体は、どの国家へも属さず、金や装備、もしくは施設などの提供によって戦闘行為を代替している勢力らしい。現状多くのプレイヤーがここに所属しているようで、メリットとして、戦争に気軽に参加できるという点と、各国へ自由に移動できるということがある。しかし、デメリットも多く、資源の確保が難しく、メカニックプレイをしたい人にはそもそも向いていないし、国内リーグとよばれる賞金のある大会への参加もできない。加えて、傭兵拒否の戦争にはそもそも参加できず、政治という政治も存在しないため、自由であるけれど、プレイスタイルによっては存分には楽しめないという国家になっている。
俺は、特段確固たる目標なんかはもっていない。けれど、どこかの国へ所属して国内リーグに参戦したいと考えているので、あまり傭兵国家に長く身を置くつもりもない。ただ、事前に調べた情報によれば、有名プレイヤーのほとんどは傭兵プレイヤーが多いらしい。それは現状戦争が限られた地域でしか起きないことが原因のようで、より多くの戦闘機会を求めると、どうしても傭兵国家に所属する人が多くなるのだとか。ただ、じきにうまく戦力が分配されるのではないかと言われている。
と、今後の方針を考えていると、輸送船がゆっくりと停止し、少しの衝撃があったあと、後ろにあった扉が開いた。
どうやら目的地についたらしい。
軽く周りを見ると、俺と同じく新規プレイヤーなのか、数人が同じ格好をして出ていく。
中には一緒にゲームを始めたのか、わいのわいのと騒いでる連中もいる。
「よし、楽しんでいこうか」
軽ーく伸びをして、VRゲームとはこんなものかという感想を抱きながら、俺も船を降りた。
降りた先は少し開けた空間になっていて、いくつかのエレベーターが存在している。
その空間では初心者講座開催中やら、チームメンバー募集中やら、初心者です拾ってくださいやら、漫画チックな吹き出しと共にプレイヤーが集まっていた。
さすがゲームだな、なんて思いながら、とりあえず右も左もわからないため、初心者講座なるものには出てみようと思う。
というか、チュートリアル的な何かを受けておかないと詰んだ状態になったときが面倒くさい。ただ初心者講座自体はNPCとプレイヤーそれぞれが運営しているようで、プレイヤーの場合はチーム勧誘だったり、優秀な人のスカウトだったりを兼ねているようだ。
NPC開催の方を受けることにして、受付を済ませた後、なんとなく周辺を見渡してみる。
案外、プレイヤー開催の方が人気で、少し間違えたかなとも思ったが、変に先入観を植え付けられるよりかはマシか、と思い直して、そのままレクチャーを受けていく。
まず、この世界の勢力の説明を受ける。
アントリープ帝国
イルヴァスチア連合
ウルカリオン共和国
エリクシア皇国
オーズランド傭兵国家
現在はイルヴァスチアの兵器開発部門以外は拮抗した力関係らしく、どこに所属するかは政治体制を見て決めるといいらしい。
そして、次に戦闘メカの名称と特徴を教えてもらった。
〈NeVSA〉と呼ばれる神経接続式可変型宇宙戦闘兵器が宇宙空間のメイン兵器になるようだ。
戦闘機形態と人型形態で運用するようで、現状どの国家も『アシャーカ』という量産機を配備しているようだ。アシャーカ自体は、帝国と皇国が共同で開発したものの、オーズランドの傭兵たちに強奪され、他2国に横流ししたために、どの国家も流れに身を任せて同じ機体を使用している。カラーリングを変更をして識別しているようで、この機体は原則カラーリングを変えることができないらしい。
で、歩兵戦はどこで行われているかというと、【イクリプス】と呼ばれる支配領域展開機構の存在を奪取もしくは破壊する際に行っているようだ。このイクリプスの展開されている空間では、強制的にNeVSAのジェネレーターを停止させるANFが発生しているため、どうしてもそこを制圧するには歩兵戦を行うしかないらしい。
まぁ、ゲームの都合上、メカばかり強くても仕方ないという感じなのだろう。どこでも使えるなら全員メカに乗るだろうし。
簡単な座学を終えて、歩兵学科に進むことを選択する。パイロットにも興味はあるが、機体スペックを理解できないとトップにはなれないとNPCに言われたので、無難な選択をしておく。
歩兵学科を選択すると、NPCに案内されて、小さな小部屋の中に連れてこられる。
「ここで戦闘シミュレーションを行ってもらいます。使用火器は自由ですが、フィールド上に存在するもののみです。納得いくまで続けることができますので、気楽にがんばってください」
NPCの声が天井から聞こえた瞬間に、空間の景色が切り替わる。
そして、目の前にいくつかの弾薬アイテムと銃がばらまかれた。
「えっと、とりあえず銃を持って……」
銃を持った瞬間に、頭の中に使える弾の種類が浮かんでくる。
とりあえず落ちている弾の中ではレベルアモのみ使えるようだ。
いくつか銃を持ったり捨てたりして、わかったことは、自分の身体値によって持てる銃の重さに制限があることと、銃には実弾とエネルギー弾と大まかに2種類撃てる弾があって、またその弾も細分化されてそれぞれの特徴をもっているらしいことがわかった。
さきほどのレベルアモ以外にショットガンパックやチャージパックも存在していて、この2種類は弾にランクが存在していて使用する際に、威力が変動するようだ。
で、HPのないゲームでどのように身を守るかというと、防弾アーマーを着たり、エネルギーシールドを展開する機器を身に付ける必要があるらしい。
基本的なことを行動しながら探っていき、覚えていく。
NPCのこれはあまりにも説明不足すぎる。プレイヤー主催のチュートリアルが人気なのもわかる気がした。
で、簡単に装備を整えたあと、銃を構えて出現した的に発砲してみる。初心者向けの武器だからかそこまで大きな反動もなく、いわゆる腰撃ちやADSなども意識すればシステムがサポートしてくれる。
エイム自体はすべてを自前で行わないといけないので、命中精度はそこそこだが、まぁ、慣れればなんとかなるんじゃないかと思う。
「新システムの実戦モードをご利用なられますか。今ならテストを受けてくださったプレイヤーの皆様に初期装備一式プレゼントキャンペーンを……」
しばらく的を撃っていると、NPCが何やら話しかけてきた。
もうすぐ時間だぞ~的な話だと思ったので、適当に返事をしていたら、装備はそのままにフィールドだけが突然切り替わった。
そこは銃弾の飛び交う、まさに戦場。
無機質な人型の的たちが銃を持って撃ち合っている。
壁に当たる弾丸、鼻をくすぐる硝煙の匂い。
耳朶を打つは、鋼の歌。ここは戦場、覚悟なきもの死あるのみ。
一発の弾丸が頬をかすめた。
俺はとりあえずシミュレーションなんてことは忘れて、スタコラサッサと駆け出した。
これがNewEraで最初の俺の戦闘で、情けなく何度もリスポーンを繰り返した地獄の3時間半の始まりだった。