観光地
時間が出来たので、執筆しちゃいました笑
今回は筆者の素晴らしい妄想が出てしまいましたので、今まで以上に温かい目でよろしくお願いします。
大切なことなのでこれは言っておきます。
可愛いとカッコイイは正義!!
気づかない間にとんでもない称号を手に入れてしまった私は、倍化の効果で元々高いステータスが倍になったので、少し戦々恐々としていた。
レイとして少し力を使っただけであの反応なのに…。
それを考えただけで溜息をつきたくなる現状だが、手に入れてしまったものは仕方が無い。
とにかく以前より隠蔽と幻影と鑑定権限を駆使して誤魔化すしかなかった。
私は取りあえず、ステータスの事は思考を放棄して皆と約束した観光をするために準備を整えて部屋を出る。
1階に降りると既に皆が私を待ってくれていた。
「「スゥ!」」
クロとシロが私の元に走ってきて腰に抱きつく。
それが可愛くて2人の頭を撫でた。
気持ち良さそうにニコニコしながらされるがままの2人は頭をグリグリと私に押しつける。
すると、私の方をぱっと見上げて昨日のことを話し始めた。
「スゥ!聞いて聞いて!僕ね、昨日面白そうなお店見つけたんだよ!沢山の見たこと無い物が並んでた!」
「スゥ!僕の話も聞いて聞いて!僕もね、本屋さん見つけたんだけど、たーっくさんあったの!」
何だろう。
子ども達が母親に「僕凄いでしょ!?」って褒めて貰いたいっていう光景とスゴく似てる気がする。
さらにこの可愛い上目遣いでキラキラと輝かせながら見てくる天使達。
私の母性本能を刺激しに来ていないだろうか?
可愛すぎる。
私は本能のまま2人をぎゅっと抱きしめる。
「そっか。じゃあ、今日は一緒に昨日見つけた楽しい場所に連れて行ってね」
最後にぎゅぅっとしてから、ゆっくり離して2人を見ると、少し頬が赤くなってお互いをパチ、パチと見てから先程よりもキラッキラの笑顔で嬉しそうに「うんっ!」と2人して頷いて私の手を握ってくれた。
本当に天使。
本物の天使より天使だと思う。
~天界~
天使くん「クシュンッ。…最近、くしゃみ多いなぁ?風邪なんかに僕は負けないぞっ!おーっ!」
久しぶりのいつも通りの天使くんでした。
その後、私はフード付きマントを被って女性だとバレないように皆とあれこれ回った。
外はドワーフの国と言うだけあって、見たことの無い雑貨や小物で溢れていて見るのに飽きがなかった。
武器屋にも行った。
人族の武器屋よりも値は張るものの、やはり質がとても高くて感心するばかりだった。
他にも2人が言っていた雑貨屋さんや本屋さんを回ったり、マークさんとノースさんはトニーさんに捕まって武器についての熱弁を聞かされたり、バナじぃの知り合いが多くて中々次の場所に行けなかったり、私が気になる料理を片っ端から皆で食べたりと色々あった。
私はこういった旅行は初めてで本当に楽しかった。
こんなにもはしゃいだのはいつ以来なのか分からないけど、とても懐かしく感じる。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、辺りはもう日が沈みかけていた。
「もうこんな時間かの?夜は危ない。宿に戻るとするかの」
「え~!もう帰るの~!?」
「まだ遊びたいよ~!」
バナじぃが声をかけるとクロとシロが頬をぷぅっと膨らませながら下唇を出して抗議する。
うん、安定の可愛さである。
そんな2人を大人3人でなだめに掛かる。
「まぁまぁ。また頑張ったら来れるんだから良いんじゃないか?なぁ?」
「そうですね。またここに来れるなら私だって試合でも何でも頑張ります」
「し、試合は遠慮したいけどね…。2人もそれまで我慢できるかな?」
「「…うん、分かった」」
しょぼんと小さくなった2人の頭を撫でながら、私も話しかける。
「大丈夫よ。また皆で来よう?これからも、私達は一緒にいるから急ぐことないわ。私が何回だって連れてきてあげる」
そう言うと2人は花が咲いたように笑顔を取り戻して、またぎゅっと私の腰に抱きつく。
何て可愛いのだろうか。
はうぅ~っ…うちの子は。
私は癒されながら、宿に戻り、部屋へ移動した。
パタン
遊び疲れた私はイスにもたれ掛かるようにして座る。
私は皆が出来ることが増え、比較的動くことが最近では少なってきていたので若干筋肉痛になっていた。
「いてててっ…う~ん、やっぱり運動しないとなぁ」
まぁ、幸せだったし、治癒ですぐに治るから良しとしよう。
楽しかった余韻に浸りながら私はそのまま眠りに落ちた。
明日はゆっくりしながらラメルへ向かおうと心に決めて。
そして翌朝。
私の決意は儚く散ることとなり、私達はテヒンを慌ただしく後にしていた。
「…も、もう、来てない…?」
「もう大丈夫そうじゃ。大丈夫か?スゥ」
「うん、ちょっとだけ、休憩させて」
その場で私はペタンと地面に座って大きく息を吐く。
私の心臓がドクドクと大きく脈動しているのが収まるまで、ゆっくりと深呼吸をする。
何故こんな事になっているか。
それは少し前に遡る。
出発の際、従業員全員…と言っても5人ほどだが見送りのために集まってくれた。
相変わらず、従業員は挙動不審でこちらをちらちらと見ていたし、ここのオーナーであるザリウスさんは堅い挨拶だったが少しだけ疲れていたように見えた。
きっと私を守るためにワイバーンの小屋で寝泊まりしていたせいだろう。
少しだけ目に隈が出来ていた。
真面目に私を護衛してくれていたんだなと感心しつつ、見守ってくれていたのはちゃんと実体だったときもあるんだろうが、その中に幻影も含まれていると思うと後ろめたさがあった。
だから、私はつい普通に「ありがとうございました」と感謝を伝えてしまったのだ。
笑顔で。
だが、それが良くなかった。
まず、ザリウスさんが頭を下げたまま固まった。
次に、従業員たちが一瞬固まってから「うぉぉぉおおお!」と叫びはじめる。
ザリウスさんがその雄叫びですぐ元通りになって従業員たちを静めてくれたのは良かったが、他の観光客や住民が店の前まで何事かと野次馬のように集まってしまった。
結果、私が女性であるとバレたあげく、私と少しでも関わろうと人でごった返しとなったのだった。
ザリウスさんは私よりも真っ青な顔で深く頭を下げ謝ってくれたが、転移が使えない今、打開策がなく困っていた。
流石の私も焦ってしまう。
扉の外から扉を開けようとするようにガチャガチャと音が聞こえ、窓の外にはたくさんの人からの視線を感じる。
私は背を向けて見ないようにして自分を落ち着けていると、バナじぃが私の頭を撫でながら落ち着かせるような優しい声で話し始める。
「大丈夫じゃよ。そんな不安そうな顔はスゥには似合わんよ。この老いぼれに任せなさい」
「バナじぃ、何をするの?」
バナじぃは悪戯っぽく笑う。
「ほっほっほ。伊達にわしも異名を持っている訳ではないぞ?ちと、怖いかもしれんがわしが守ってあげるから心配いらんからの」
バナじぃは前世で言うイケオジだ。
特にバナじぃは私に甘々対応なわけだが、普段は確かにおじいちゃんっていう感じなのに、こんな困ったときにイケオジなのに頼りになると、惚れてしまいそうになる。
…バナじぃ、カッコイイ!!
…はっ!?
いけない、いけない。
こんなときに見とれている場合ではない。
「…バナじぃ。どうするの?」
「スゥ、ちと、わしに捕まっておくんじゃよ?」
そう言うと、バナじぃは私を軽々と横抱き…つまりお姫様抱っこをした。
「え!?ちょ、バナじぃ!!?」
「今からわしの風魔法で空飛んで逃げるぞ。しっかり捕まるのじゃ。絶対に落とさんから、落ち着いて身を任せておけば良いぞ?」
バナじぃは御年60歳。
だが、皺は少なく髭も整えているからか、見た目は40代に見える。
そんな若見えダンディなイケオジ紳士にお姫様抱っこで空を飛んで守ってくれるというこのシチュエーション。
極めつけは、身を任せておけば良い?
はい、好き。
私はイケメン過ぎるバナじぃの虜になりつつ、コクコクと首を縦に振る。
それを見たバナじぃはいつもの優しい笑顔を向けて「良い子じゃ」と私をさらにバナじぃの方に寄せてぐっと抱えた。
さすがの私もキュンとしてしまう。
私は前世のテレビで枯れ専特集でコメントしていた人たちの事が理解できなかったが、謝罪したい気持ちでいっぱいだ。
…何というか、流石は元4大騎士と言うべきか。
引退していても身体は鍛えており、胸板がしっかりしていて安心感がある。
バナじぃが何故今だに独身なのか理解できない。
「他は支えがなくとも自分で何とか出来るじゃろ?さぁ、行くぞ」
そう言うと、皆の足下に小さな竜巻が現れ、それぞれを少しずつ浮かせていく。
少しして窓を勢いよく開いて、野次馬の上を飛んで逃げた。
野次馬もまさか自分たちの頭上を通って逃げるとは思っていなかったようで呆気にとあっれていたが、すぐに追いかけてきた。
私もせめてイケメンに追いかけられるなら喜んで話すのだが、イケメンはこの街から離れたところに隔離されている。
よって追いかけてきているのは、比較的イケメンばかりだった。
大きな丸い巨漢が大勢集まって、目は血走ったようにして追いかけてくるのだ。
私からすればただのサスペンスホラーである。
その光景の恐怖から私は体が少し震え、手先が冷たくなった。
そんな時、バナじぃは私の様子に気が付き安心させようと、子どもをあやすように背中を支えている手でトントンとしながら「大丈夫じゃ。怖いものは全てわしが倒しておくからの?大丈夫、大丈夫」と言って、そのままその片手で軽く振り払うようにピッと動かした。
本当に小さな虫を払うような動作だった。
だというのに、強い風がその男たちを根こそぎ吹き飛ばし、あっという間に視界から男たちが消えた。
あまりの一瞬だったので驚いてバナじぃを見ると、悪戯が成功した時の悪い笑顔でパチンと綺麗なウィンクをしながら
「ほら。言ったじゃろ?スゥはわしが絶対守るから安心せい」
…バナじぃ、イケメン過ぎではなかろうか?
だから、私がこう言ってしまったのは仕方のないことだと思う。
「私、絶対にバナじぃみたいにカッコよくて強くて優しい人と結婚するわ…」と。
小さな声で言ったつもりでも、バナじぃには聞こえてしまっていたらしく驚いた顔をした後、いつにもないくらいデレデレの顔で破顔した。
「そうか…そうかっ…!!嬉しいのぉ!でも、わしみたいにではわしが認められんから、わしより強くて、わしを認めさせる人格者で、スゥが生涯困ることのない程の金持ちで、スゥだけを愛してくれる男にするのじゃぞ?わかったかの?そうと決まれば、わしも更なる特訓を開始せねばのぅ。老いぼれでも腕がなるわい」
え、何故か条件が増えた挙句、バナじぃ、もとい元4大騎士よりも強くて優しい人って。
早々にいないのでは??
しかも、ただでさえ強いのにさらに強くなるの?
私に結婚をさせてくれないつもりだろうか?
…いや、その時はバナじぃと結婚するとしよう、うん。
まぁ、本人には言わないけどね。
そんなことを考えている間に、街から離れた人目に触れない場所に移動していた。
バナじぃは私をそっと降ろして休憩をさせてくれた。
他の皆もどこか疲れた様子だったが、私の下へきてとても心配してくれる。
そんな中で一人元気な人がいた。
バナじぃである。
「スゥは仕方ないが、お主等は男じゃろ。しかも、わしの風に乗っておっただけではないか。これは帰ってこれまで以上に厳しく特訓しなければのぉ?次回からはわしも参加するから、大丈夫じゃて!ほっほっほ!!」
今までのカッコよさは何処へやら。
デレデレなバナじぃは、元の残念おじいちゃんに戻っていた。
クロとシロも孫のように可愛がっていたのだが、それは特訓においては全く関係のないことのようで、二人も含めた皆はどこか遠い目をしながら「はい…」と返事をしていた。
ごめんね、皆。
帰ったらおいしい料理をたくさん作ってあげるからね…!
心の中で謝罪をしながら、呼吸を整えるまでゆっくりと休憩をしたのだった。
しばらくして、私は落ち着きを取り戻した。
皆はすでに休憩完了しており、あとは私が皆を転移してあげるだけである。
「さて、私はもう大丈夫になったから行こうか。エルフの国ラメルへ!!」
「「「お~!」」」
皆が返事をしたのを確認して私は転移を発動させた。
転移した先にあったのは、テヒンとは正反対の光景だった。
その里からは離れているがよく見える。
木々は青々と生い茂っていて、花もそこらかしこに美しく咲き誇っている。
しかし、他と違うところを上げるとするのなら、その大きさと魔力の多さだった。
木は以前私が見た神樹と変わらないくらい大きく立派だ。
花も大きな花弁をつけ、色も鮮やかで人族の力などでは取れない程頑丈だ。
それらの植物を自分たちで工夫して家を建てたり、木の上に木材で家を建てたりしている。
行き来にはそれらを結ぶ縄橋を使って生活しているようだ。
そして、水や土や植物から魔力が少しだけ漏れ出ている。
他の国の植物は魔力が漏れ出るほど魔力を保有することができない。
無理に魔力を込めようとすると、急激な栄養過多によって枯れてしまうのだ。
土や水も同じで人工的に作ろうとすると、使い物にならない。
大先生によると魔力そのものを与えるのではなく、その前の状態である魔素から与えないと無理なんだそう。
だから作れないことはないらしい。
ちなみにこの世界の人たちに魔素という概念はないためこの情報は極秘情報である。
まぁ、大先生いわく魔法研究があと1000年したら魔素まで辿り着くとのことなのでぜひとも頑張ってほしい。
「「わぁあ!!大きいね!」」
「俺たちはそもそも旅行なんてしなかったから、ここも初めてだ」
「私も本で読んだくらいです。やっぱり実際に見るのとでは違いますね」
皆がとても感動しながら景色に目を向けている中で私は衝撃的事実が見えてしまい、周囲の音が聞こえなくなっていた。
目の前で差も当たり前のように見えて、この世界ではあまり見なかった光景。
それは不細工とイケメンが関係なく同じ場所に住み、笑顔で話している光景だった。
人族でも、ドワーフでも、獣人でも、妖精族でも差はあれど美醜差別があり、不細工は迫害の対象だった。
しかし、これはどういう事だろうか。
私はすぐに大先生を問いただす。
大先生の返答はこうだった。
エルフは魔力の多いこの地で長い時を過ごしている。
その中でエルフ自身にもこの土地からあふれ出ている魔力の影響を受け、とても長寿になったのだそう。
詳しく言うと、魔力がなくなると生物は死ぬが、ここではその魔力が植物からあふれ出て、それを気づかないうちに吸収しているため魔力が尽きることなく生きながらえているのだそう。
だから、エルフの里を狙ってくる輩は多く、エルフの里は閉鎖的な里が多く、他種族を嫌う傾向があるのだと。
これによって仲間意識が高く、さらに長い時を一緒に過ごすうちに顔の美醜は気にしなくなったのだそう。
何それ!!??
不細工でも幸せに過ごせる夢の楽園がこの世界にもあるじゃん!!
他の種族もそうすればいいじゃん!
と、思うのだがそう簡単にはいかないことはわかっていた。
この世界では魔力が全てといっても過言ではない。
魔力の保有量が多ければ多いほど、どの種族も長生きする。
でも、種族によってそれは変わる。
長寿が多いエルフや魔族たちは魔力の保有量も高く、かつその魔力に耐えられるだけの体のつくりになっている。
でも、人族や獣人たちは違う。
保有量も体の強さも様々だ。
どちらか片方でも偏ってしまえば、長い時を過ごすことはできない。
だから、少しでも良い遺伝子を残そうとして、取捨選択をする。
そして捨てられるのはこの世界では不細工だったのだ。
どうしたってこの世界は私を救ってくれた存在を蔑ろにするのだ。
改めて、この世界での不細工の暮らしにくさを感じた私は以前よりも強く「絶対に幸せにする」と誓い目の前の里へと向かった。
先ほども説明したように本来ならエルフの里は閉鎖的だ。
しかし、ここラメルでは閉鎖的な部分は一切なく、むしろ解放的で観光地としてとても有名な場所であった。
その大きな理由は、里の近くにドラゴンの巣があるためだ。
長寿であるのはエルフや魔族たちだけでなく、ドラゴンも長寿であった。
近くに住む彼らは長い年月をかけて友好関係を築き、ある協定を結んだ。
それはエルフは里をドラゴンに守ってもらう代わりに、ドラゴンの卵の保護をすることだった。
ドラゴンの卵は価値が高く高額で取引されている。
エルフの里と同じで狙う者が後を絶たない。
卵が孵化するまでは親ドラゴンが面倒を見るのだが、盗まれてしまった場合、ドラゴンでは探すことがとても困難だった。
卵を見つけることができるのは、かなり高い知性を持ち数千年以上生きたドラゴンの親のみ。
しかし、卵を産むのは比較的若く知能の低いドラゴンが多く、見つかるまで周囲を破壊しながら卵を探し続ける。
だから、そうなる前にエルフたちは盗まれぬように警備したり、盗まれてしまった卵を見つけて親の元へ帰す役割を当時のドラゴン長が頼んできたのだそう。
こうして生物で最強と言われるドラゴンがエルフの里を守ってくれるので、エルフたちはできていなかった他種族との交流を図り、物流をした。
そして、その美しい環境が注目を浴び今の観光地としての形ができたのだ。
そんな観光地であるラメルに辿り着いた私たちは、里の景色を歩きながら堪能したつつ、今日の宿を探す。
エルフが多いが、観光客である他種族も里を楽しそうに歩いていた。
中でも多いのは、エルフと仲が良い妖精族。
ルノ様は妖精族だが冒険者だからか、背中の羽をしまっているので見たことはなかった。
でも、ここにいるのはその羽を隠すことなく広げ、色や形が様々な模様は美しく輝いていた。
エルフと妖精族は仲が良いようで子どもたちが遊ぶ光景が見える。
耳が長く尖っているエルフの男の子が魔法で下から風を起こして、妖精族の男の子が身体よりも大きな羽を羽ばたかせて、そのエルフの男の子を持ち上げて一緒になって飛んでいる様子は本当に絵本でしか見たことのないような光景だ。
…今度、クロとシロと空飛んで遊ぼうかな?
そんなことを考えながら歩いていると、私たちからかなり離れたところに人族の男性3人組が見えた。
普通の観光客に見えるが、動き方が普通の人たちとは違う。
以前バナじぃがマークさんを驚かすときに隠密に特化した影と言われる人たちが使っている音を出さないようにする歩き方を教えてもらったのだが、彼らは自然とその歩き方だったのだ。
つまり、隠密行動を普段からしているということ。
それが私のように観光に来ている女性の護衛なら全然いい。
でも、どうしてか私は引っ掛かりを覚える。
「「スゥ!行こ~!?」」
クロとシロが歩みが遅れている私を呼ぶ。
「うん、今行くよ~!」
私はもう一度振り返って、その男たちのいた方を見るともうすでにその姿は見えなかった。
気になりはしたが、私はあまり問題に首を突っ込んでしまうと注目を浴びてしまう。
それに言い方は悪いが、私は自分や大切な人たちに害がなければいいのだ。
そう、害が及ばず、いつもみたいに幸せに暮らしていけるのならそれで。
でも、もしその存在が私の大切なものを傷つけるようであれば容赦はしない。
だから、私はそのままみんなの下へと移動した。
移動しているとようやく観光客用の宿を発見した。
男女共有のこの宿はかなり新しくきれいで、何より部屋から見える景色が良く男性からも女性からも人気の宿だった。
テヒンでのことを反省して、皆が高くても私が安全に過ごせるように選んでくれたのだ。
あとは私の行動次第とのこと。すいません。
エルフたちは人族よりも美醜差別はしないのでクロやシロたちの事は気にせず接してくれるだろう。
問題は、他の観光客だ。
私の心配をよそにマークさんたちはチェックインをスムーズに済ませていく。
お金を払い、鍵を貰ったことを確認したので皆で部屋に移動しようとしたとき、エントランスの扉が大きな音を立てて開いた。
「ふんっ、有名な観光地だからと足を運んできてみればこの程度なの!?」
観光するには豪華すぎるかなりきついピンクのドレスを着て、ジャラジャラとした宝石をそこらかしこに散りばめ、贅沢してきたのが分かるほどお腹に脂肪を溜め込んだ化粧の濃い女性が従者らしき男性を怒鳴り上げる。
「すみません!お嬢様!!で、ですがここでは一番の宿にございます。お嬢様のお部屋からここから見る景色の中では最も美しい部屋を取っております。お、お美しいお嬢様にはぴったりの部屋かと!」
「当り前じゃない。私がわざわざ泊まりに来てあげているのよ?感謝してその部屋を献上すべきだわ」
この世界で女性に出会ったのは二人目だ。
皆や大先生から聞いてはいたが、一人目にあったのがあの優しそうな女将さんだったからか、実際に見るとインパクトが強い。
上から目線での話し方も気に入らないが、その顔や体型に似合わない服や化粧も気に入らなかった。
さらにその女性は近くにいたエルフの若干不細工よりの男性を見て眉間にお肉を寄せてしわを作る。
「まぁ、何でここに醜いものがいるのかしら?私は優しい淑女ですから、ここに泊まるなとは言わないわ。だから、早く私の視界から消えて頂戴」
いかにも汚いものを見るようにその男性を見る。
その男性は頭を下げ文句ひとつ言わず、宿の外へと出ていった。
私からするとありえない発言と行動でも、周囲の男性たちはこぞって彼女を称賛する。
「何と慈悲深い優しい方なのだ!」
「あぁ!素晴らしいお人だ」
「聖女様なのか!?」
と、口をそろえて彼女を褒めたたえる。
…まぁ、容姿に関しては誰一人として褒める者はいないが。
「そうでしょう、そうでしょう。私は美しいだけでなく心優しい聖女なのよ!!」
お~ほっほっほと典型的な高笑いをしながら自画自賛をする。
そして、すいません。
本物の聖女、ここにいます。
誰にも言う気はないが。
でも、本当に彼女の対応は優しい方なのだろう。
男性たちは心から彼女を褒めていることが分かる。
でも、それを褒めているのはイケメンたちだけだ。
エルフの人たちは仲間を侮辱されて険しい顔をしているし、他種族の不細工に部類される人たちは下を向いて他の宿を探そうかなどと話し合っているのが分かる。
クロやシロも顔を見せないようにバナじぃの後ろに隠れてしまって可愛い笑顔が消えている。
間接的ではあるが、うちの可愛い子たちに何をするのだろうか。
こみ上げてくる怒りでそのまま注意しようとして動いた時、髭を長く伸ばし長老のようなエルフのおじいちゃんが彼女の前に立ちはだかった。
「お嬢さん、悪いが我らエルフは皆平等。故に、皆を対等に扱ってはもらえぬだろうか?」
「あら、私が何か間違ったことを言ったかしら?私の前から消えてもらうだけじゃない。それにあれが私と同じ扱いを受けるの?冗談じゃないわ」
「我らの考えは伝わらないか。なら、申し訳ないが前払いしてもらった料金は返すから、お嬢さん方はここの宿から出て行ってくれ。例え、女性であっても大切な仲間を傷つけることは看過できないのでな」
「なっ…!?」
彼女も甘やかされて育ったので、反論されることが無かったのだろう。
怒りで顔を真っ赤にした。
「い、言われなくても泊まらないわよ!!2度とこんな場所に来るものですか!」
淑女とは言い難いほど足音を立て従者に当たりながら帰っていった。
先ほどまで騒然としていた場は落ち着きを取り戻し、皆自分の部屋へと戻っていった。
お爺さんは何故かこちらに来る。
そして、私を見て「ふむ…」と髭を触りながらバナじぃに話しかける。
「小僧。珍しい子を連れてきたな」
「そうじゃろ?ぜひ、会わせたくての。場所を変えることはできるかの?」
「あい、分かった」
お爺さんはそう言って私たちを部屋に案内するべく動き始めた。
「バナじぃの知り合いだったの?」
「そうじゃのぉ。わしの魔法のお師匠様じゃ」
「え」
「わしが子どもの頃から面倒を見てもらっているんじゃよ。お師匠様は確か1000歳を超えているはずじゃから、わしを今でも小僧と呼ぶんじゃ。もう、年寄りじゃというのにのぉ」
バナじぃは困ったように肩をすくめるが、どこか嬉しそうで少し照れているようにも見える。
可愛いのですが…?
私は枯れ専的思考を手に入れてしまい、悶えながらお爺さんについていった。
本当に正義だと思ってます笑
バナじぃの回みたいになるつもりは無かったのですが、書いていて妄想爆発しちゃったので…笑
今回も感想や誤字脱字報告よろしくお願いします!
楽しみに待ってますヾ(≧∇≦)




