開始
これも私の好きな展開なので少しお付き合い下さい。
待ちに待った今日という日がやって来ました。
朝日がまだ顔を出し始めた頃、私は宿の食堂にいた。
私が到着してすぐ、他の面々も集まり始めた。
「ふわぁ~、おはよ。今日はえらく、早いな」
「「僕たちまだ眠いよ…」」
「寝ないでください、これから仕事ですよ」
「オーナー、どうしてこんな朝早くに呼んだんですか?」
「ふっふっふ~、皆にはこれからバナじぃの高速特訓を受けに行ってもらいます!」
「「「え」」」「「ん?」」
「バナじぃには、もう許可は取ってるから既にいつもの場所で待ってるはずだよ。はい、いってらっしゃ~い」
バナじぃが待っていると言ったら、青ざめながら走って行った。
バナじぃ、どんな特訓をしてるんだろう。
皆を見送った後、朝食と昼食を作り始めた。
トニーさんは、きっとくたくたになるから今日は私が料理を担当することにした。
朝食は簡単にソーセージエッグサンド。
昼食にはちらし寿司や巻き寿司を作って置いておいた。
久しぶりの和食でもう気分は最高潮である。
どれも、魔法を使えば以外と簡単な物ばかりだったので他の皆が来る前に全て終わらせてしまった。
食堂で待っていると1番にやって来たのはタンザさんだった。
「おはようございます。やはり、朝が早いですね」
「おはようございます。楽しみすぎて、早く起きてしまったので…」
「そちらもでしたか。実は私もです」
仲間ですねと私達は悪い笑みを浮かべながら、話し合った。
団員達がいつもより早く起きて朝食をしているとき、やっと皆も帰ってきた。
やっぱりボロボロだったので、魔法で見た目を綺麗にしてから朝食を出した。
団員達はなかなか来ない皆をとても心配してくれてたので、大丈夫だと言って回るのが大変だった。
「全員集合!」
朝食を食べた後、タンザさんはフロントで団員達に集合をかける。
私も皆をフロントに集めておいた。
皆、どうしたどうしたと並んでタンザさんを見る。
私はタンザさんの横に立つと、さらに、どよめきが大きくなった。
「静かに!…今から、スゥより発表がある。心して聞くように」
タンザさんの言葉で横に立っていた私に、ここにいる全ての人からの視線を受けながら私は発表した。
「これより〈夢の宿〉と〈大地の剣〉による試合を行うことになりました」
「「「え!!?」」」
今回私が提案したのは、従業員と団員による本番を想定した試合だ。
そうすれば、今の従業員の強さレベルが測れるし、お互いのレベルアップも出来ると思ったからだ。
「ルールは、最大5試合で先に3試合勝った方の勝利となります。誰が出るのかは直前に分かると思います。大人は1人での出場ですが、子どもは2人で出場が出来ます。何か異論・質問がある方はいらっしゃいますか?」
「あの…良いだろうか」
団員の1人が手を上げた。
「はい、どうかしましたか?」
「双子を1と考えて計算すると従業員4人だ。もしかして、後の1人はスゥが出るのか?」
「いえ、紹介できていませんがまだ従業員はいるので、その方にお願いしています」
「そうか…なら、安心だ」
うんうんと全員が頷く。
そんなに私、頼りないだろうか?
少しショックである。
「お前ら、これに勝てば宿に1週間滞在しても良いぞ」
「「「マジで!!?」」」
「皆もこれに勝てば、旅行に連れて行ってあげるよ~」
「「「はいぃぃ?!?」」」「「やった!」」
と言うことで、皆がやる気を出してくれたので戦うための場所に移動した。
その場所が、昨日ウーちゃんに教えてもらったあの場所だ。
広くはあったが、草や石ころだらけだったので更地にして綺麗にしておいた。
ついでにイスも用意しておいたので、準備万端である。
「お、スゥ達。来たかの。待ちくたびれたわい」
「ごめんね、説明してたら遅くなってたや」
「良いぞ。スゥなら何でも許そうとも」
本当に甘々である。
「…えっと、そちらの方は?」
「ああ、こちらはバーナードお爺ちゃん。前に騎士団で働いてたって説明した従業員達の先生」
「…はぁ…まさか、4大騎士とも知り合いだったなんて…」
「え?」
タンザさん曰く、バナじぃは引退するまで騎士団最強の4大騎士と謳われるうちの1人で「風の魔神」という異名があったらしい。
「…バナじぃ、そんな風に呼ばれてたの?」
「昔の事じゃ。今はただのバナじぃじゃよ」
やっぱり最強だった。
「この御仁が教えた方々なら、また、面白くなってきそうですね」
「ですよね。私も結果を聞くのが楽しみです」
「もしかして、最後まで見ないんですか?」
「少し用事があるもので、すいません」
「いえ、お構いなく。では、後ほど」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
私はタンザさんと分かれ、皆がいるところへ向かった。
「オーナー!聞いてないですよ~」
「そりゃ、言ってないもん」
「俺達は戦えるが、冒険者相手には厳しくねぇか?」
「旅行のために本気でやればたぶん、何とかなる!」
「確かに教えてもらってはいますが…」
「女の子に慰めてもらうとは、情けないぞ!お主ら!」
「「「!」」」
「見よ。あの2人を!」
バナじぃは双子がいる方を指を指した。
2人は、やる気十分で早く戦いたいといった様子だった。
「いい大人がわしの可愛い可愛い孫達よりもやる気が無くてどうする。わしが教えたんじゃ。自信を持って行ってこい」
「「「師匠っ!!」」」
バナじぃ、師匠って呼ばせてたのね。
しかも、双子のこと、可愛いを2回も言ったよ。
何はともあれ、大人組がやる気を出してくれたようで良かった。
でも、双子がどうしてあんなにもやる気なのか気になった。
旅行に行きたいのだろうが、それだけじゃないような気がした。
ずっと2人を見ていると、2人が気づいて私の元まで来てくれた。
「「スゥ、どうしたの?」」
「何で2人はそんなにやる気なのかなぁと」
「「だって、強くなりたいんだもん」」
「どうしてそんなに強さにこだわるの?確かに、強くなるための試合だけど、もしもの時はレイが何とか出来るはずだよ?」
本当を言えばそうなのだ。
皆が強くなってくれれば、負担が減るからという身勝手な理由で強くなってもらおうと、特訓をしてもらっている。
だから、レイとして出れば、何の問題も無いのだ。
それだけの力があるのだから。
しかし、2人は首を横に振る。
「「僕たちがスゥを守りたいの」」
その小さな手をいっぱいに広げて、私を守ろうとしてくれていたのだと知って驚いた。
同時に嬉しかった。
「私のために…ありがとう」
この子達は悪意に晒されながら生きていたはずなのに、本当に人想いの優しい子達だ。
嬉しくて私は2人の頭を優しく撫でた。
「これで勝ったら皆でお買い物に行こ」
「「うん!」」
私は2人を連れて、全員を集めた。
「もう準備は出来た?」
「はい、もうそろそろですか?」
「うん、ちなみにバナじぃは審判ね」
「師匠は出ないのか?」
「バナじぃは危ないと思ったときに止めてもらうのに適任だと思うし、私達がやらないと意味ないでしょ?」
「で、でも、それじゃあ人数が足りませんよね?」
「レイが出るから大丈夫」
「「レイさん来るの!?」」
「うん、でも私はレイと入れ違いで用事があってその時にはいないと思うから皆、頑張ってね」
今回、私はレイとして出る事にしたのだ。
私も力はあると思っているけど、自惚れるほどの自信はない。
大きな力は使いこなせなければ、何の役にも立たない。
それを試したかったのだ。
どれ程使えるのか。
「スゥは途中抜けるのか。寂しくなるわい」
「バナじぃ、少しだけだから」
「うむ、わしはスゥに任されたこやつらのダメなところを探し出すとしよう」
「「「怖い」」」
「うん、よろしくね。じゃあ、順番は…」
順番を決め、タンザさんの開始の宣言でスタートした。
「これより、試合を始める!」
試合始まります!
さて、誰と戦うのでしょうか?
お楽しみ下さい!




