二次審査
二次試験開始です。
二次審査当日。
私は前回同様、レイに変身して時間通りに森の入り口に到着した。
しっかりと8人全員揃っているようだ。
「皆さん、おはようございます。今回も私が審査をさせていただきます。二次審査を始める前に、今回も残念ながら"不適合者"がいらっしゃいましたので前回同様通達させていただきます」
私は噂を流した3人に触り、理由やブレスレットの件について説明すると、逆ギレしながら帰って行った。
本当に、人間の程度がしれている。
「…さて、残られましたマーク様、トニー様、ノース様、クロ様、シロ様の5人の皆様には、引き続き二次審査を受けて頂きます。二次審査の内容は、今日から2日以内に宿に辿り着くことです。そこで、合格発表をさせていただきます」
私の説明を受けて納得した彼らに、私は荷物を渡していく。
皆、首を傾げて不思議そうにするので説明をした。
「皆様に渡したバックには、それぞれ1日分の食材が入っています。足りない場合はご自身で補ってください。では、次の準備をするので皆様に渡したブレスレットを出して下さい」
彼らは指示通りに持っていたブレスレットを出す。
私はそれらに回復魔法、もとい治癒を付与した。
「回復魔法を付与しておきましたので、1回だけ使うことが出来るようにしておきました」
「…あの、レイさん、付与に関しては…」
「秘密にしてくれると嬉しいですね」
付与は、知識、技術、魔力が無いと出来ないため出来るのは人族では宮廷魔法士が出来るくらいしかいない。
だから、魔道具が高額になっているし、他種族との貿易で輸入しているのだ。
私が出来ると知られても返り討ちにするため、別に問題は無いが面倒事は避けたかった。
「も、もちろんです!しかし、こんなに貴重な物を私達に…よろしいのですか?」
「貴方達のために作ったので、どうぞお気になさらないで下さい」
何故か崇めるようなポーズを大人組3人がし始めたので、さっさと始めるとしよう。
「では、これより二次審査を開始します。皆様を宿でオーナーが待ちわびていると思いますので、どうかお気を付けていってらっしゃいませ」
こうして5人を見送った私は宿に戻り、変身を解いていつもの格好でくつろいだ。
「さて、どうしているかなぁ?」
全知全能を使って、森の様子と5人を観察した。
すると、ちょうど魔物と出くわした所だった。
「マークさん!右斜め前方から小型の魔物が複数近づいてきてます!」
「了解!前衛やるから、他の人はサポート頼む!」
マークさんが中心となって、それぞれが役割を持って行動していた。
そして、以外にも双子は優秀だった。
確かに得意なことを聞いたとき、剣と魔法だと言っていた。
でも、これは…。
「そっち行ったよ~」
「わかった~」
ゆったりとした話し方とは違って、子供にしては戦いになれていた。
いや、慣れすぎていた。
「君たち、今まで魔物と戦ったことあるの?」
「…うん、あるよ」
「…いっぱい、してきたよ」
…聞いてるだけで、悲しかった。
そうしないと生きていけなかったんだ、と言われているようで。
しかし、世間は違う。
マークさんを含め、3人が少し震えていたのが見えた。
私でもほんの少しだが、マークさん達が抱いている感情が分かってしまった。
恐怖。
いくら幼い頃から培ったステータスでも、幼い容姿で大人顔負けの戦闘力を見せつけられたら怖いと感じるのは当然だった。
でも、私はそれを理解した上で今後、一緒にいて欲しかった。
協力して欲しかった。
それも、今回の森での野宿の目的の1つだ。
さて、マークさん達どうしますか?
沈黙の後、マークさんが最初に口を開く。
「…そうか、でも無茶はしてはいけないからね」
マークさんは少し悲しみを含めた笑みで双子に返す。
「おじさん達、僕たちが怖いんでしょ?」
「他の大人達は皆、怖がってたよ?」
「「なのにどうして、僕たちを心配するの?」」
2人は同時に首を傾げる。
時に子供は恐ろしいほど正直で残酷だ。
しかし、2人の言葉を肯定しながらもトニーさん、ノースさんは言葉を返す。
「あぁ、悪いが恐ろしいとは思う。だがな、お前達はそんなことしないんだろ?」
「そうですよ、こんなにもお利口さんなのに」
トニーさんとノースさんが怖いと言うも、それでも構わないと伝えた。
そして、マークさんも双子に話した。
「私達は君たちに恐怖を抱いている。だけどね、これから一緒に働くかもしれない大事な仲間でもあるんだ。だから、私達は君たちが危険なことをしていたら、心配になるんだよ」
きっと、マークさんは2人を自分の子供達と重ねているのかもしれない。
それでも、双子を大切に思う気持ちは大人達にはあるようだ。
「そっか」
「そうなんだ」
「「おじさん達、ありがとう」」
やっとレイ以外にも、笑いかけるようになった2人はとても子供らしい表情をしていた。
もう、満足だった。
全知全能を切って、私はお迎えの準備を整えるため行動していた。
「…私、24歳なんですがね」
「「「「…」」」」
この後、森に4人の叫び声が響き渡ったことを私は知らない。
私は、その頃またウーちゃんを呼んでいた。
呼ぶときには必ず果物を持ってくることが必須条件である。
「ウーちゃ~ん」
トコトコトコトコッ
やっぱり来てくれたようだ。
前回のように手を広げて待つと、ウーちゃんが飛び込んでくる。
「プギッ?」(どうしたの?)
「あのね、大人3人と双子の子供の5人組が森にいるんだけど、良かったら連れてきてくれないかな?」
「プギッ~!」(任せて!)
「本当!?ありがとう!ウーちゃん大好き!」
「プギィ~」(へへへ~)
最近、ウーちゃんの言葉が分かるようになったが、もうそこは気にしてはいけないのである。
ウーちゃんに頼んでから1時間後。
近くに来た気配を感じた私は、宿の玄関扉辺りで5人を待った。
そして、やっと道に5人が歩いてくるのが見えた。
何故か、さっき見たときよりかなりボロボロだったが、ウーちゃんが5人を放って私の足下でスリスリと体を擦りつけてきたので私はウーちゃんに話しかけた。
「連れてきてくれてありがとう、ウーちゃん。これ、お礼の果物だよ。お母さんやお父さんにもあげておいで」
「プギッ!ププギッ!」(うん、ありがとう!)
果物を渡しウーちゃんを見送った私は、ウーちゃんと話している間に入り口辺りまで来ていた5人を見て笑顔で話しかけた。
「ようこそ、夢の宿へ。オーナーのスゥよ」
「…オーナー?」
「ふふっ、そうよ?女がオーナーしてるって思わなかったでしょ」
予想通りの反応に、面白くて仕方なかった。
「…まさか、女性とは。それで、審査の結果は?」
「もちろん、二次審査は5人全員を合格です。これから、一緒に働きましょう」
「あの!…1つ質問をしても良いですか?」
声をかけたのは見た目がインテリ不細工風のノースさんだ。
「うん、良いよ」
「どうして私達を見ても無いのに合格だと言ったんですか?」
「レイが見たことを報告してくれたからだよ。そこから私は、判断したの」
「…あなたは、私の顔を見ても何も思わないのですか?」
「思わないよ?」
予想を裏切らず、ノースさんもこの世界の被害者だった。
私の言葉に、安心したのか蹌踉けたノースさんをかなりイケメンで筋肉質なトニーさんが支えた。
「俺は何人もの女性を見てきたが、ノースを罵らず嫌悪しない、しかも内面を見て、仕事まで与えてくれる女性は貴方が初めてだ。感謝する!」
トニーさんとノースさんは昔からの幼馴染みで、2人の願いはそれぞれが幸せになることを望んでいるくらい仲が良く優しい人達なのだ。
この顔で寄ってくる女性は多かったが、親友をバカにされ、仕事を次々に辞めていき、ここに行き着いたのだそうだ。
「どういたしまして、私も貴方たちに仲間になってもらえて嬉しいよ」
トニーさんとノースさんを見た後、私はマークさんを見た。
やっと従業員確保です!
ちなみに
トニーとノースは30歳の若見え。
マークは24歳の老け見えです。
マークは見た目から年上判定され、リーダーにされてました。
哀れなり、マークさん。




