求人
お仕事開始です。
「んー…」
タンザさん達を見送ってから、早数日。
現在、私は大きな問題に直面していた。
「多すぎるでしょ…どうしよう、これ」
目の前の大量の志願者の名簿を見て溜息をついた。
まさか、こんなに集まるとは…。
あれから、従業員を雇うことにした私はすぐに従業員専用の建物を増築した。
この森は魔物が出るため毎日来るには危険すぎる。
家庭を持つ人には悪いが、住み込みで働いてもらわないといけない。
そういった配慮から作ったのだが、これが人気の1つとなった。
普通は住み込みで働くと、部屋が大人数の共同部屋で衛生状態も良いとは言えない。
しかし、今回私が作ったのはホテルの部屋ばりの綺麗な個人部屋だった。
そりゃあ、皆、誰しも綺麗な場所で働きたいだろう。
2つ目の人気になった理由としては、福利厚生についてだった。
学校の社会の授業で、会社について勉強していたとき、仲の良い先生が「いいか、絶対に俺のようなブラック企業の社畜になるんじゃないぞ!!?」と大人が本気で泣きながら説明していたのが印象強く残っていたので、取り入れたのだ。
まず、週2休暇と半年で有給5日は絶対だ。
私だって休みたい!
次に、給料は月金貨5枚でボーナス付きだ。
平均月給が、金貨2枚あるかどうかの世界でこれは高給取りだろう。
うん、お金はあって困るものじゃないからね。
そして、賄い付きだ。
もちろん、タダ。
食べることは生きる上で大切なことだからね。
と、安直な理由ではあるが、これを書いてギルドに求人募集をかけてもらった所、たちまち人が応募して今や打ち切ってもらっているのにまだ応募者が後を絶たない状況と化してしまった。
頭が痛くなるばかりだ。
頭を押さえながらやる事を決めていく。
「まず、雇う人数は最初は6人で良いかな」
量より質。
信頼できる人を少しずつ増やしていこうと考えた。
私の秘密をバラされたら面倒だ。
「あとは、どうやって人数を絞るかな…」
これだけの人数を6人に厳選するには話しを聞くだけじゃダメだと思った。
嘘をついたり、猫を被ったりする人は山のようにいるだろう。
「んー…あっ!良いこと考えた!」
妙案を思いついた私はすぐに行動に移すため、ギルドへと足を向けた。
「…よし、これなら良いかな」
私はギルドの求人募集の張り紙の上に
"3日後、ギルドにて朝10刻の時より面接を行う"
という紙を貼る。
ギルドの方には当日、私の代理がギルドの1室を借りて面接出来るように申請を出しておいた。
申請が通り、嬉しく思っていると女がギルドにいることが珍しいのか、全員が私を見る。
居心地が悪いので早々に引き上げ、女だとバレないようにフードを被って、ギルドを出た。
(久しぶりに街に出たから、お金もあるし、何か買っていこうかな)
この街には宿の調査をして以来、あまり来たことが無かったので市場や雑貨屋さん、日常品売り場や魔道具屋までありとあらゆる店を回った。
道なりに歩いていると、とても寂れている建物が目にとまった。
家かとも思ったが、それにしては大きく古びている。
あからさまに周囲とは違う雰囲気に見つめていると
「そこの方、ここに用事ですかな?」
しわがれた声が私に向けられた。
咄嗟に振り返ると、そこにはミルクティー色の髪を持つお髭が似合う少しダンディなお爺さんが立っていた。
「いえ、この建物が気になっただけです」
「おや、お前さん旅人かい?この建物を知らないなんて」
「まぁ、そんなところです。それより、この建物は有名なんですか?」
「そうさ、有名と言っても、悪い意味で、だがね」
悲しい顔をしてお爺さんは説明してくれた。
ここは元々は、身寄りの無い子を育てるための施設だったらしい。
その身寄りの無い子どもを育てていたのが、お爺さんの貴族の友達だったそうだが病気で3年前に他界。
その方が亡くなり、当主となった息子はすぐに支援を打ち切り生活が回らなくなったそう。
このお爺さんは資金の支援は出来ない代わりに、身寄りの無い子どもの里親を探しているのだとか。
こうして前まで20人を超えていた子ども達は、2人になったらしい。
「すごいじゃないですか!?でも、何で悪い意味で有名なんですか?」
「ああ、それは残った子ども達に対する誹謗中傷からじゃな」
「え」
「里親は気に入った子供を引き取るが、その時どうしても美しい子供達が選ばれることが多い。今残っているのは、醜い子供ばかりじゃ。そして、リーダー格の2人の醜い容姿もさる事ながら、色が特に悪かった」
「そんなに珍しい色なんですか?」
「人族からすると珍しいじゃろう。なんせ、白と黒なんじゃから」
白や黒髪は魔族に多いとされる色。
偏見や差別が多い人族では暮らしにくいはずだ。
しかし…
「でも、少しはいるんじゃないですか?お爺さんのように、接することが出来る人は」
全ての人族がそういったものを抱いている訳ではないはずだ。
非常に差別する人が多いだけで。
それに、人族がダメなら他種族に目を向ければ良いだけの話だ。
しかし、お爺さんは首を横に振る。
「いいや、わしが出逢った人の中では魔族も含め誰1人としておらんよ。…そして、不甲斐ないことにわしも普通に接することが出来てはいないのじゃ」
お爺さんは身寄りの無い子供に里親を探してあげるほど優しい性格だ。
そんなお爺さんでも、普通に接することは出来ないと言う。
「あの子達は双子でな、片目ずつで色が違い、同じ赤い目を持っているのじゃ…」
私は理解した。
この世界の言い伝えで、赤い目を持った者が現れたとき災いをもたらし、片目ずつで色が違う者は前世で重い罪を犯した証とされ2つともどの種族からも不吉の象徴として忌み嫌われている。
つまり、その双子は前世では罪人で、現世では不幸をもたらす存在として扱われているのだ。
「…この双子の年は幾つですか?」
「12だったかのう?それがどうしたんじゃ?」
12歳。
小学校6年生、または中学1年生ということ。
まだ、甘えたい年だったのに親もおらず頼れる存在は3年前に他界。
人には邪険にされているのに、他の子のためと外に出て働いている。
こんな話しを聞いて私は黙って見て見ぬ振りは出来なかった。
「里親を探してるんですよね?だったら、私がなりましょう。その双子の親に」
私なら何の偏見もない。
お金もある。
だからこその提案だったのだが。
「…ありがとうな、心優しき方よ。しかし、気持ちだけで十分じゃ」
お爺さんは本当に嬉しそうな顔をして喜んでいるのに、残念そうに提案を断られた。
「何故、ダメなのか理由を聞いても?」
「あの子達がそれを望んではいないのじゃよ」
何でも双子は、親を欲していないという。
自分たちで働いて2人で生きていきたいのだそうだ。
「わしは何もあの子達にしてあげられなかった。だからせめて、あの子達の願いだけは叶えてあげたいのじゃ」
「すまんの」と泣きそうな顔で頭を下げられては私が出る幕はないだろう。
「いいえ、気にしないでください。代わりに私に出来ることがあればまた教えてください。また、お話ししてくれますか?」
そう聞くとお爺さんは嬉しそうにしわを深めながら笑った。
「ほっほっほ、こんな醜い老いぼれで良ければいつでもお相手いたすぞ。わしはバーナード。お前さんを気に入ったから、気軽にバナじぃとでも呼んでくれ。敬語も無しじゃ」
「分かった、私はスゥ。よろしくね、バナじぃ」
こうして、私は新たなお友達?を手に入れルンルンになってバナじぃと分かれた。
3日後の面接が終わってから、また、会いに来ることを約束した私は気合いを入れて準備に取りかかるのだった。
私、ダンディなお爺さん大好きなんですよね。
この気持ちを少しでも共感してくれる人がいてくれれば、嬉しいなと思って登場しました笑
次回もぜひお楽しみください!




