表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/60

朝食

今回も読んでくださりありがとうございます!

 

 朝日が昇り始めようとする藍色の空が広がる頃。

 窓を開け少し肌寒い空気を肺いっぱいに吸い込む。


「すー…はー…よし!」


 昨日の怠さは無くなり、元気になった私は朝ご飯を作るために起床した。


(それに、今日で全員行ってしまうものね)


 あの2人からの告白の後、ルノマリア様が代表として"大地の剣"は出立する旨を伝えてくれた。

 怪我は全て完治したらしく、もう居座る必要は無いとのこと。

 ゼノール様も、私が心配だから1日延長してくれたので治ればここを出ると言っていた。

 彼ら以外に誰も泊まっていないので、居なくなってしまうと淋しくなってしまうが仕方の無いことだ。


 せめて、最後の朝食は昨日のお礼も込めて、とびきり美味しくしてあげようと張り切りながらキッチンへと向かった。

 食堂に着くとそこには、すでに多くの人で溢れていた。

 時間を間違えたのかと不安に思っていると、タンザさんが私に気づいて声をかけてくれた。


「おはようございます。体調の方はいかがですかな?」

「おはようございます。お陰様でもうすっかり元気になりました。それにしても、朝早くにどうされたんですか?もしかして、私が起きるのが遅かったのでしょうか?」

「いえ、違います。ルノマリアから聞いたとは思いますが、私達は今日でここを去ります。あなたは私達の命の恩人です。そんなあなたにこれ以上負担をかけたくなくて朝食を自分たちで作っているだけなのですよ」


 昨日に引き続き、とても心配をかけてしまったらしく、我こそはと皆が率先して行動してしまい今にいたるのだと言う。


「何だかすいません、迷惑をかけてしまったようで」

「迷惑だなんてとんでもない。あなたが私達にしてくれたことを考えればこの程度なんて事無いですから」

「ですが」

「もし、迷惑をかけたと気に病んでいるのなら、良ければ全員に声をかけてあげてくれませんか?それが、彼らにとっても嬉しい事だと思いますので」


 優しいタンザさんはそう言ってキッチンの方へ去って行ってしまった。

 彼の言う通りに、まだ私に気づいていない食堂でお皿の準備をしている2人の団員さんに声をかけた。


「おはようございます、朝からありがとうございます」


 驚かせないように、なるべく優しく声をかけたのだが、2人は私を見て驚いたようでお皿を落としてしまった。

 お皿が割れた音に反応して、周りにいた団員達もこちらに振り向く。

 そして、全員が私がいることに気づいて私を見た。

 さすがに大勢からの視線は慣れていないので、居心地は悪かったが、すぐに全員に向かって挨拶をした。


「皆様、おはようございます。昨日に続いて、今日もお手伝いして下さってありがとうございます」


 ニコっと固くなりながらも返すと、どどどっと一気に周りに人が集まってきた。


「大丈夫か!?」

「元気になって良かった~!」

「無理はしないでくれよ!?」

「会いたかった~!!」


 と、言葉は様々だが私を思う言葉ばかりだった。

 だが、こうも男性が私の近くにいると圧がスゴい。

 イケメンは好きだが、どうすれば良いのか分からなくて困っていると私を二人の背中が映り込んだ。


「会えて嬉しいのは分かるが、困ってんじゃねーかよ」

「か弱い女性に、むさ苦しい男どもがこんなに集まったら怖いよ」


 そんな声を聞いて、周りにいた団員達が少し距離を置いてくれた。

 彼らに声をかけてくれた2人に顔を向ける。

 2人は私が最初に声をかけた団員さんだった。


「ごめん、俺が皿を割ってしまったからだね」

「すまねぇな、驚かせちまって」

「いえいえ!お2人ともありがとうございます」


 割ったお皿を片づけ、彼らは自己紹介をしてくれた。

 剣士タイプで体格が良く、筋肉質な焦げ茶の髪の男性がロックさん。

 魔法士タイプで落ち着いていて、眼鏡をかけた薄緑の髪の男性がビューロ・マクレーンさん。

 2人は仲が良い友人らしくよく飲みに行く仲なのだとか。

 どちらもゼノール様やルノマリア様ほどではないにせよ、なかなかのイケメンだった。

 そんなイケメン2人に、団員達に昨日のお礼を含めて挨拶がしたいと言うと、紹介すると言われたのでお願いした。

 お陰でほぼ全ての団員達に挨拶をすることが出来て私は上機嫌になった。


 こうして挨拶をしている間に、朝食が出来たらしい。

 2人はタンザさんに呼ばれ何故か怖い顔をしながら去って行った。

 机を見てみるとパンやスープやサラダが並んでいた。

 何処に座ろうかと悩んでいると、後ろから声をかけられる。


「スゥ、一緒に食べないか?」


 そこにいたのはゼノール様だった。

 耳と尻尾が真っ直ぐピシッとしながら、不安そうに手を出される。

 いつもと変わらない可愛らしい様子に安心して、自身の右手を乗せた。


「はい、一緒に食べましょう」


 そう言うと少し頬を赤らめ尻尾を揺らして「良かった」とはにかみながら返してくれた。


(可愛い!)


 耳や尻尾をモフモフしたい衝動に駆られるが我慢した。


「なら、私も一緒に同席して構わないかい?」


 持て余していた残った左手を取って、私に笑いかけてくれたのはルノマリア様だった。


「私は構いませんよ?」

「ゼノールも構わないな?」

「…スゥが良いなら」


 2人手を取られ案内された席に座った。

 食堂の角の6人テーブルに何故か向かい合わず、右にゼノール様、左にルノマリア様、真ん中に私という何とも言えない状況が完成した。


「あの…どうして隣り合ってるんでしょうか…?」

「私は隣にいたいからだよ」

「…俺もだが?」

「そ、そうですか」


 2人とも私に告白してから、随分と積極的で困ってしまう。

 でも、私は2人に歩み寄らなければ。

 あんな返事ではなく、ちゃんとした返事を返すために。

 もっと仲良くなるにはどうすればいいのか。

 そう考えたとき、ふとちぃとの事を思い出した。


「あの…これからお2人のこと、愛称で呼んでも良いですか?」

「「!」」


 歩み寄るために仲良くなるには、まず愛称が効果的ではないかと考えた。

 ちぃともそれがきっかけだった。

 だからこその愛称呼びの提案だったのだが、二人からの反応がまるで無い。

 しかし、少しして2人が破顔した。

 大輪の花が開花したような美しい笑顔。


「あぁ、スゥには愛称で呼んで欲しい」

「私もその方がとても嬉しい」


 想像以上に喜んでくれるものだから、胸が熱くなった。


「ではこれからは愛称で呼ばせてもらいますね。ゼノ様、ルノ様」


 また2人は綺麗な笑顔を見せる。

 食堂の角で3人並んで話ながら朝食を食べた。

 スープはゼノ様が作って、サラダはルノ様が盛り付けたとか。

 ゼノ様は"大地の剣"に所属すると返事をしたとか。

 それに対してルノ様が意地悪を言ったりとか。

 2人に付く先輩は優しい人だとか。

 とにかく、色んな話をした。

 しかし、時間というのは楽しいときほど早く過ぎ去っていく。

 タンザさんが全員に声がけをした。


「皆!今から2刻後に出発する!各自、準備しておくように!」


 2刻(2時間)後にはもう行ってしまう。

 少し落ち込んでいると、2人が手を握ってくれた。


「絶対にまた来る」

「会えるから大丈夫」


 また優しい表情で私を見つめる。

 そうだ、生きている限りずっと会える。

 冒険者は危険が付き物とは言え、2人はこの世界の平均ステータスから見ても強い。

 何より、強い瞳を持つ彼らなら大丈夫だと信じることが出来た。

 なら、私は出来ることをして信じて待つしかないだろう。


「はい」


 たった返事1つしか出来なかったが、2人にはしっかり届いたようで満足げに頷いた。

 穏やかに朝食を食べ終えた私達は、食器を片づけそれぞれの準備のため解散した。


(私には私のやり方で見送ろう)


 早速、やるべき事に取りかかる為に、急いで私はその場を後にした。


お久しぶりのロックとビューロでした。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ