違い★~ゼノール・ルノマリア視点~★
成長する2人を温かく見守って下さい!
ついでに私も少し成長する予定なので、よろしくお願いしますm(_ _)m
【ゼノール視点】
少し疲れた体に鞭を打ち、次の担当へルノマリアと向かう。
次は、洗濯・掃除担当の補助だった。
ずっとソロだったこともあって自分の分しか洗濯なんてしたことはなかったが、今回は朝風呂や顔を洗うときに使ったタオルとさっき外へ出ていた者達の服の洗濯だ。
当たり前だが、量がとても多い。
水魔法は使えるが、魔力が少ないためとてもじゃないが連発は無理だ。
だが、ルノマリアなら魔力も多い分水魔法が多く使える。
不本意ではあるが、魔力の面ではルノマリアに頼る他無かった。
「…おい、悪いが洗濯はお前に任せて良いか?魔力の多いお前なら水魔法を連発できるお前の方が適任だ。代わりに俺は、魔法で出来ないところの掃除をしてくる」
「…」
「…おい」
「…」
「返事くらいしろよ」
「…」
何も喋らない。
本当に何なんだ、こいつ。
まぁ、補助だがら他にも人はいる。
そっちに言いに行くかと歩き出そうとしたら、襟を掴まれ死ぬほどではないにしても首が絞まり息苦しくなる。
「…お前、いい加減にしろよ。何なんだよ」
「何でだ?」
「は?」
「何で私に話しかけることが出来る?」
今度は訳の分からないことを言い始めた。
怪訝な顔をしている俺をよそにルノマリアは話し始めた。
「私はお前が嫌いだ」
ストレートに言ってくるルノマリアは本気で俺に喧嘩を売っているのかと思ったが表情からしてただ思ったことを言っているらしい。
それもそれで腹が立つが。
「お前も私を嫌っている。ならば、何故私に話しかける?」
「そんなの話す必要があるからに決まってるだろ」
本気で何言ってるんだ、こいつ。
それとも、本当に分からないというのか。
確かに俺達のような醜い者を見て、敵対する相手や蔑んだり貶したり嫌悪感を露わにするような奴を嫌いになって、関わりたくないと思うのは当たり前のことだ。
だが、そんなこと言っていては仕事が出来ないだろう。
それに…。
「…お前は嫌いという理由1つでそいつと話さないのか?確かに俺はお前が嫌いだ。だが、今はお前と一緒に行動しないとダメなんだ。…さっきみたいに俺1人でやったら周りに迷惑かけることも分かった。なら、協力するしかないだろ。それに、これは他の誰でも無いスゥの為だ。なら、俺はやる」
今回は人の命に関わるほどの事じゃない。
でも、もう迷惑をかけたくない。
俺のせいで苦しむ人を作るのは嫌だ。
「…分かった」
一言残して、ルノマリアはトコトコと俺を残して歩き始めた。
「おい、何処行くんだよ」
「決まってるだろ。洗濯場だ。お前も早く他の所に行け」
そうしてさっさと次の場所へ向かう。
こいつ、良い性格してる。
誰のせいで立ち止まってたと思っているのか。
だが、返事の時薄く笑った気がした。
俺と同じくらい醜い顔で笑っても恐ろしいだけだが、まぁ、いつもの無表情よりは幾分ましになったか。
「さて、俺も早く行って終わらせよう」
こうして、洗濯はルノマリアが水魔法を連発して洗う事で早々と終わった。
ゼノールが身体能力を生かして走って掃除しているとタンザから「うるさいから静かにしろ!」と怒られ耳も尻尾も垂れ下げて、小さくなりながら掃除をした姿が目撃されたという。
【ルノマリア視点】
私は大量の洗濯物を終え、遂に最後となった料理を手伝う。
またも、大量の食材を使って大量の食事を作らなければならない事に飽き飽きとしていた。
(本当によくスゥ1人でやってこれていたな。尊敬に値するレベルだ)
改めてスゥの凄さを実感していた。
そして…ゼノールのことも…―。
チラリと横目で隣を窺う。
速いスピードで刻まれていく肉や野菜。
比べて私は、今まで人に頼り切っていたことが仇となって返ってきていて、一向に進まない。
手伝いという手伝いは出来ていないようにも感じられた。
(今の私に出来ることは何だろうか…)
考えても普段キッチンなどに入った経験は皆無だった私には、手順すらも分からない。
そこで先程のゼノールの言葉が頭をよぎった。
『協力するしかないだろ』
協力…か…。
生きてきた中で人と協力した経験はたった2回だけ。
1つは、スゥがあの石を探してくれたとき。
もう1つは…あの少年が逃亡を手伝ってくれたとき。
正直まだ、スゥ以外の人を信じることは難しい。
だが、私はこのまま立ち止まっていてはゼノールに劣っていると証明することになってしまう。
それに、スゥの隣に立つ男になるにはこんな事で立ち止まってはいけないと思った。
魔法では私の方が優れているが、他のことに関してはほぼ私が劣っているのだ。
身体能力も。
スゥとの時間も。
周りとの協調性さえも。
「おい」
そんなことを考えているとまたゼノールが私に話しかけてきた。
「何だ」
「早く手伝え」
そう言われても分からないのだから仕方ないだろう。
「…」
「…何だよ」
…いや、仕方ないで片付けてはいけないか。
私は変わらなければいけないのだ。
スゥのためにも。
自分のためにも。
「…何をすれば良いのか分からない」
「…」
これでも勇気を出して正直に言ったはずだったのだが、やはり迷惑だったようだ。
「…いい、気にしないでくれ」
「無理だろ。気にするなと言われる方が難しい」
「迷惑なのだろう?ならば、いい」
「…はぁ、誰も迷惑なんて言ってないだろ」
ゼノールは額に手を当て、深いため息をつきながら私に言った。
「俺は初めてお前から言ってくれたから何をすれば良いのか分かった。俺もお前と同じで人と関わるのが下手だから偉そうには言えないが、自分から何か言わないと相手に伝わらないぞ」
ぐぅの根も出ない正論。
ゼノールの方が分かっているようで、悔しい。
「…分かっている」
「そうか、なら良い。こっち来い」
「?」
言われた通り着いて行くと目の前に肉を置かれた。
「何をするのだ?」
「これでひたすら肉を刺せ」
そう言ってフォークを渡された私は困惑した。
私にちゃんと教えてくれるというのか。
「…分からないんだろ?だったら俺に聞け」
私に言葉をかけつつ、私の隣で同じ作業をし始めていた。
「…これでさっきの貸しは返したからな」
「…私はお前に何か物を貸したことは無いが?」
「そんな意味じゃない」
「なら、どういう意味だ?」
本当に意味が分からなかった。
言葉と無縁だった私には難しい。
「…だから、その、さっきの洗濯ではお前に頼ってしまったからその礼だ」
少し驚いた。
あれは当たり前ではないのか?
ゼノールでは無理だったのだから、私がするのは分かりきっていた。
それを貸しだと思ってはいなかった。
「…律儀なのだな」
私とは違う。
そんなゼノールがひどく眩しい存在に感じた。
同じくらいの醜さ。
似たような闇を持ち。
お互いに孤独感を知っている。
それでもこんなにも違う。
劣等感に苛まれていたが次の言葉で掻き消された。
「スゥのお陰だ」
「え?」
穏やかに微笑むゼノールを凝視する。
「スゥと会う前の俺は、そんなことを考える事も無かった。自分を肯定してくれる存在を探してたんだ。否定する奴らなんてどうでも良かった。でも…」
「でも?」
「ここでお前らと話してるスゥを見て、それじゃダメだと思った。側にいるには俺も変わらなければならない。だから、今努力してるだけだ」
ゼノールの話しを聞いてて思った。
ああ、私と同じだと。
そこに存在していたのはただ、努力してるか、していないかの差だけだった。
だが、それだけの差がこんなにも違う。
ならば、答えはもう迷う必要は無い。
「…礼を言う。ゼノール」
「!!」
私も一歩を踏み出さねば。
信じることも、協力することもまだ難しいが試しにゼノールとならやってみる価値はあるかもしれない。
晴れ晴れした気持ちで料理を作り終え、その日の肉料理は大盛況で幕を閉じた。
腹が空いている男達にはちょうど良い大きさの肉だが、スゥには小さめに切ったスープと大きい具のスープをゼノールに渡した。
「…これはお前がスゥに渡してこい」
「…良いのか?」
「どうせ後でスゥとはゆっくり出来るからな。今のうちだ」
「…感謝する」
足早に、でも静かに食堂を去って行った。
(あいつのスゥに対する気持ちは誰よりも信じられる。だから、今回だけだぞ。ゼノール)
胸の中で声をかけ、さっさと自分の分のスープをついで席に着いた。
ゼノール、ルノマリアの成長&友情編でした。
次回からスゥ視点戻ります!
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