遭遇
スゥ視点とゼノール視点の切り替わりがあります。
穏やかな太陽の光が顔に当たり眩しくて、私は目覚める。
ぼんやり目覚めたそこは、私の部屋ではない木目の天井が広がっていた。
「…ん~??」
体を起こして目をこすりながら辺りを見回す。
すると、そこは私が作った客室だった。
訳が分からず少し頭痛がする頭を働かせ、昨晩の事についての記憶を掘り起こしていく。
(まず、タンザさん達をもてなして、お風呂や料理の準備をして、ルノマリア様の石を探してて、それから…あ。そうだ、部屋に戻る途中で限界が来て倒れたんだ…。)
誰が助けてくれたんだろう。
疑問に思っていると扉をノックする音が聞こえたと思い、顔を向けると「入るぞ」と聞いたことがあるような声がしてから扉が開いた。
ルノマリア様だ。
「スゥ、起きたのだな。体調は?」
普通に話すルノマリア様に驚きと動揺が隠せない。
「は、はい、少し怠いです、けど、気にならない程度なので大丈夫、です。…もしかして、倒れてた私を運んでくれたのはルノマリア様ですか?」
「ああ…魔力欠乏症で倒れてて、その……一応、治療、した…。元気になって良かった…。」
ルノマリア様が助けてくれたようだ。
何故か歯切れが悪いが、
助けてくれたことに代わりは無い。
「ありがとうございます。大変でしたよね?本当、ご迷惑おかけしました…」
迷惑をかけてしまったことが申し訳なくて、その場で頭を下げる。
すると、ルノマリア様は美しい顔を陰らせ、私から目を逸らす。
「気にしないでくれ…その…スゥが倒れた理由って…もしかして、私のせい…なのではないかい…?」
なるほど、それで暗い表情をしていたのかと理解した。
確かに、あの時、トドメとなったのは全知全能を使ったせいだろう。
でも、それ以前にバカなことをして魔力を消耗させたのは他ならない私だ。
私は首を横に振りながら答える。
「いいえ、魔力配分の加減を間違えた私が悪いのでルノマリア様は気にしないで下さい。仮に、ルノマリア様のせいだったとしても助けてくれたじゃないですか」
「それは…そうだが…」
ルノマリア様は私がどんなに貴方のせいではないと言っても、腑に落ちない表情をする。
なら…。
「…そこまで言うのでしたら、まだ本調子じゃないので今日1日私の代わりをお願いできますか?これでお互い様って事で…!どうでしょう?」
私の言葉に少し明るさを取り戻したルノマリア様はコクンと頷いた。可愛いかよ。
「じゃあ、皆さんには私が説明しておくので、すいませんがお願いしますね」
そう言って、掛かっている布団を避けてベッドから出ようとすると動かしている手を掴まれた。
どうしたのだろうか?
「…今日は、安静にする日だ。皆には、私が伝える」
「…そうですね…、分かりました…」
ルノマリア様に言われては致し方ない。
それでも、今日はゼノール様の出立の日だったのでせめてお弁当を作ってあげたかった。
初めてのお客様で2日間だけだったけど、それなりに仲良くなれた。
なのに、次にいつ会えるかも分からない、もしかしたら会えないかもしれないんだ、と思うとすごく寂しい。
でも、宿屋ってそういうものよね。
そうやって少し落ち込んでいると、ルノマリア様が心配そうに私の顔を覗き込む。
「…何か、心配事か?」
「えっと、その…今日はゼノール様が出られる日なんです。だから、見送り出来ないかなぁと」
「え」
「???」
ポカンと少し口を開け、固まる。
え、私何か変なこと言った?
「私、何か可笑しな事言いましたか?」
「…いや、何でも無い、取りあえず今日は休んでくれ」
いつもの無表情でルノマリア様は「後で来る」と告げて部屋を出て行った。
何か気に障る事でも言ってしまったかと思ったが、頭痛と倦怠感から上手く頭が働かずそのまま眠りにつくことにした。
【ゼノール視点】
今日はこの宿に泊まってから3日目の朝。
つまり、俺がここを出る日だ。
正直、昨日、スゥにそれを言われてから気づいた。
いや、気づきたくなかったから、見てみないフリをしていたのだ。
スゥの側は居心地が良い。
離れがたくなるほどに。
側にいたい。
たが、それはただの俺の独りよがりでしかない。
きっとそれは、スゥの迷惑になるだろう。
俺にここまでしてくれたスゥに恩を仇で返すような真似はしない。
だから、今日、ここを出る。
別に今生の別れというわけではない。
俺がこの宿に泊まりに来れば、また、スゥに会える。
そして、またあの笑顔で迎え入れてくれるに違いない。
それでも、離れる事を拒絶する自分がいた。
重い足取りでスゥの朝食を食べようと今日も食堂に向かう。
着くと食堂には既に人が大勢いた。
これだけいて、さらにスゥの朝食を食べられるのだから、さぞかし煩いと思っていたのだが、どんよりとした重苦しいこの世の終わりみたいな空気で静まり返っている。
不思議には思ったが興味も無かったので、今日も朝食を作っているはずのスゥを手伝おうとキッチンに向かった。
しかし、スゥの姿はなく、代わりにそこにいたのは金髪の俺と同じくらい醜い男だった。
(そういえば、スゥはこの男のことをルノマリアと呼んでいたな)
俺は昨日、こいつとスゥが話しているのを見かけていた。
気になって聞いてみればギルドの内の1人らしかった。
「おい、スゥはどうした」
こいつがスゥの手伝いをしている事に、何故か少しイラついてキツく当たってしまう。
俺の声を聞いた瞬間、何かを混ぜていた手を止め、振り返って俺を無表情で見る。
「…貴方がゼノールか?」
「ああ、そうだが?」
俺が返事をすると、無表情ではあったが目の奥に強い闘志を感じた。
「…スゥは1日休憩だ」
「は?」
「…今日は私がオーナー代理だ」
「何でだよ」
「…スゥは昨日、倒れた」
「は!?!?」
倒れただと!!?
昨日、お風呂から出た後、上機嫌にしてたはずだ。
それがなんで急に!?
スゥは今、大丈夫なのか!?
疑問は尽きないが、早くスゥの側に行きたくて仕方なかった。
「おい。今、スゥはどこだ」
「…言えるわけがないだろう」
「何故だ」
「貴方は会ってどうする」
「決まってるだろ、看病しに行「迷惑だ」」
「何?」
「それに今日、ここを立つ者には関係の無いことだ」
無表情から眉をひそめ、イラついた様子で言い放つ。
それに対して俺も、怒りを抑えながらも冷静に話していたが、遂に堪忍袋の緒が切れた。
「お前こそ昨日スゥと関わったばかりで関係無い奴だろ?そんな奴にスゥやこの宿を任せる訳にはいかない。俺はここに残る」
そう言うと、向こうもやっと分かりやすく怒りを露わにする。
「それを迷惑だと言っている。それに、私は何があってもスゥを傷つけないし、役に立てる。貴方こそどうなのだ?今の貴方に何が出来る」
ルノマリアは高濃度の魔力を練り上げる。
片やゼノールは剣に手をかけ殺気を向ける。
完全に一触即発の状態だった。
あまりに強すぎる魔力と殺気を感じた団員達が止めに入るが、2人とも聞く耳を持たない。
互いに睨み合いが続く中、怒号が走った。
「てめぇら何やってんだ!!!ここはスゥの宿だ!てめぇらが喧嘩するのは勝手だが、スゥが大切に使ってた場所を壊す気か!!?時と場所を考えやがれバカ共が!!」
2人に力強い拳が頭の上から振り下ろされた。
「「いっっっ!!!!?」」
脳天かち割れたと思えるほどの強い衝撃に2人は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
ぱっと殴った相手を見ると、タンザだった。
今回もありがとうございます!
読んでくださる方が増えてくれて、執筆も進みます!
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