居眠り
今回はスゥ視点とゼノール視点の切り替えがあります。
夕食を出した後、ゼノール様と分かれた。
とても満足して下さったのか、尻尾がゆらゆらと揺れていた。
とても可愛らしいかった。
そんな愉悦に浸り、片付けを終えて明日の準備をしようと食堂から出ると、ラウンジのソファーで眠っているゼノール様を見つけた。
しかも、髪が濡れ、焼けた肌でも分かるくらい頬もほんのり朱がかかってた様子を見るとお風呂に入った後ということがわかる。
ラウンジはフロントのすぐ近くにあり、特に夜になると扉で区切ったとはいえ冷たい風が入ってくるのでお風呂から出た後なら涼しくて気持ち良いのだが湯冷めすると寒い。
綺麗な整った顔をまじまじと見るのは、大変眼福で永遠と見ていられるのだが、さすがにそんな場所で寝ると風邪を引いてしまうと思い声をかける。
「ゼノール様、ここで寝たら風邪を引きますよ。さぁ、部屋までご案内いたしますから起きてください」
そう言って肩をトントンと叩く。
しかし、それでもゼノール様からは反応がない。
んー、これはどうしようかと考える。
「あ」
とそこでふと私は良いアイデアを思いついたので、それをするための必要な物を取りに行った。
【ゼノール視点】
腹いっぱいに親子丼食べて満足した俺は部屋に戻った。
(料理…上手だったな…)
料理を作っていたスゥの姿が頭をよぎり笑みがこぼれる。
この世界において女性は少ない。
となれば女性は大切に扱われるため、刃物を扱うキッチンに立つ女性は平民だとしても少数派だ。
そのためエプロンを着た女性を見ることはない。
だから、それはこの世界の男性にとっては理想と言っても過言ではないのだ。
それを見れたことに嬉しく思わない男は存在しない。
それはゼノールも例外ではなかった。
「…風呂に行こう」
もう、それしか彼の雑念を払う方法はなかった。
部屋にある風呂に浸かる。
(にしても、ここはどこの宿よりも豪華だ)
宿の風呂と言えば一般的に、外に作られた大浴場や温泉のお湯を自ら体にかける方法が主流とされている。
一方、夢の宿ではスゥの前世の知識と、もしかすると1人で入りたいという人が多いかもしれないという考えから、ホテルのような作りになっていた。
シャワーもこの世界に存在してはいるものの、作れる職人が少なく実物を使われることは例え王族であったとしても片手で数えられる程度なのだ。
そんな珍しいシャワーを使い興奮気味になったゼノールは、上せてしまったのだった。
下の階に降り、ラウンジのソファーで横になると気持ちいい風が吹く。
普段のゼノールなら、このようなことは絶対にしなかったが、自分を見てくれる存在を見つけ、優しさに触れ、美味しい物をお腹いっぱい食べ、疲れた体をお風呂で癒し、心地良い場所でのんびり出来ることに安心してしまい、つい睡魔に身を委ねてしまったのだ。
少し肌寒さを感じるものの、俺はフワフワとした灰色の世界で1人彷徨っていた。
(寂しい、寒い、誰か居ないのか)
そう思っていると周りがだんだんと明るくなっていき、体もポカポカと暖かくなってきた。
そして、明るくなったことで誰か人が居るのが見える。
腰まである長い髪を持つ女性だ。
俺はなぜか無性にその人を抱きしめたくてたまらない気持ちになる。
そこからひたすら走った。
彼女のもとへ行くために。
それでも、女性の側に辿り着くことは出来ない。
彼女は俺が居ることに気づかずそのまま背を向けて歩き出そうとする。
「待ってくれ!俺を置いていかないでくれ!」
そんな悲痛な叫びに気づいた彼女は止まって俺の方に体を向ける。
そして、手を広げて待っていてくれるのだ。
俺は自分の力の全てを出して走り、辿り着いた俺は彼女を自分の腕の中に閉じ込めた。
「どうか俺の側にいてくれ」
そうして頭を彼女の肩に擦り寄せる。
やっと見つけた俺の居場所を。
誰にも渡すものか、これは俺のものだと。
そんな意味を込めて。
すると声が聞こえた。
『大丈夫、あなたが私を必要とする限り側にいますよ』
そんな優しい声を聞きながらその幸せな世界を離れた。
目を開くと目の前には何か細く柔らかい何かがあった。
しかも、俺の腕はしっかりとそれに抱きついているのだ。
さらに、頭には枕にしては温かく弾力がありこれは何だと考える。
そして、俺の頭を誰かが撫でている…ん?撫でている?
誰が?俺に触れられるのは…知っている中でも1人しか…知らない………ん!!!?!?
そこでようやく、俺の意識が覚醒した。
今の俺の状態を。
目の前にあったのはスゥのお腹の辺り。
俺が抱きついていたのはスゥの腰。
頭を置いていた場所はスゥの膝。
つまり俺は、何故か膝枕をしてもらっていて、寝ぼけてスゥ腰に抱きつき、頭を撫でられていたのだった。
もう俺は頭がショート寸前だった。
【スゥ視点】
私は髪をしっかりタオルで拭き、少しでも風邪にならないようにしようと考えていた。
そのため中々起きないゼノール様にブランケットをかけ、拭きやすくするために頭を膝に乗せ髪を拭いてあげていた。
すると、いきなりゼノール様の腕が私の腰に巻き付いてきて、頭をグリグリとお腹に押しつける。
まだ、眠っているゼノール様は寝言で何か言っているようなので、聞きたくなって耳を彼の顔の近くまで持っていくと
「どうか俺の側にいてくれ」
とどこか寂しそうに熱のこもった声で突然言われる。
(えーっ!!!?どゆこと!?可愛すぎませんか??甘えてくるとか母性本能くすぐられるよ~、はうぅ~っ!)
かなりの時間悶えていた。
あまりに寂しそうに、ずっと私に抱きついてきていたのでつい返事をした。
「大丈夫、あなたが私を必要とする限り側にいますよ」と。
それからゼノール様が起きるまで、寂しくないよ、1人じゃないよと思いを込めて少し癖のある髪を優しく撫でていた。
そうして、その後やっと起きて状態を理解したゼノール様は顔を真っ赤にしながら「すまない」と言葉を残して足早に自分の部屋に戻っていったのだった。
(良い年齢なのに子供みたいに甘えてしまったのが恥ずかしかったのね。ふふふっ可愛い)
と笑いながら私は自分の部屋に帰った。
可愛いですよね、ゼノール。
王道犬系イケメンです。
ありがとう、ゼノールよ。笑




