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決意★~ゼノール視点~★

ブックマーク登録してくれる方が少しずつ増えてくれることが嬉しくて仕方がありません。

本当に感謝です!


前回に続きましてのゼノール視点です。

 暖かい。

 あまりに気持ちが良いため眠ってしまいそうになる。

 まどろむ意識の中、ベッドに仰向けに倒した体の重心が下へ、ゆっくり沈む。

 そして、息を最後まで吐き出せば、さらに沈む。

 息を吸うと、あの女の匂いが鼻をかすめる。

 その事にまたひどく安堵する。

 これはちゃんと現実なんだと。

 俺の醜い顔は、嬉しくなって口角が自然と吊り上げる。

 心が躍るとはこういう事をいうのかと思い知った。


 次第に、涙は収まっていた。

 ここでやっと視界が良好になったので改めて部屋を見渡す。

 フカフカの暖かいベッド、用意されている机イスは所々に模様があるが華美ではない。

 壁は、自然を生かし木目調である。

 扉を隔てて、貴族が使うのかと聞きたくなるようなお風呂トイレも部屋の中にあった。

 こんなにも設備が整っているにも関わらず、1泊が食事代も含め銀貨6枚。

 安すぎて本当なのか疑ってしまう。

 さらに、女1人でこの宿を管理・営業しているという。

 あり得ない、というか常識を知らないのだろうか。

 女が少ない中、しかも1人で、宿屋をやることがどれ程危険なことか。

 男に襲われても何も言えないぞと少し頭を抱える。

 そこで俺は、あの女が困っているのなら絶対に助けてやろうと思っていた。

 こんな俺に笑いかけてくれて、手を取って地獄から助け出してくれたあいつを。


 何か助けになればと思い

 食堂で食事を用意しているであろう女の元へ向う。

 食堂に近づくにつれて、食欲をそそる香りが強くなっていく。

 すると、俺の腹は正直に悲鳴を上げた。

 それにつられ俺もどんな料理が出てくるのか楽しみになる。

 女を見つけたが、もう料理が完成する間近だった。

 俺に気づいた女はまた微笑みながら待つように俺に言う。

 待ち遠しい気持ちとブンブンと後ろで揺れる尻尾を抑えながら、料理が出てくるのを待った。

 少しして出てきたのは女曰く「親子丼」というものらしい。

 初めて見る料理だったので食べるまでに勇気がいったが、わざわざ作って貰った手前、今更断るのも気が引けて、覚悟を決めて一口食べた。


 するとどういうことだろうか。

 今までなぜこの料理が存在しなかったのかが不思議なくらい旨かった。

 いや、もしくは存在はしていたが俺が知らなかっただけなのかもしれない。

 もしそうなら、人生を損したと本気で思った。

 俺の好きな肉が卵と混じり合い、口の中でトロッとして何とも言えない食感。

 さらに、肉と卵の下にある米と呼ばれる物も一緒に口に掻き込めば、もう絶品だった。

 ついでに、野菜も含まれているためバランスも良い。


 女に顔を向ければ驚いた後、嬉しそうに顔が綻んだ。

 パッとしない印象で、特別可愛いというわけでもないが、そんな女を見て俺は心臓を捕まれたような感覚に陥る。

 男の胃袋を掴むというのはこのことかと実感する。

 そんなことを思っていたら、あっという間に完食してしまった。


(…まだ食べたい)


 そんな衝動から俺は、つい「ん」と女に向かってお皿を渡す。

 女は分からないといった様子で狼狽える。

 恥ずかしいが親子丼をまた食べるためには言うしかないのだ。

 人と接する機会が極端に少なかった俺はしどろもどろになりながら消えそうな声で「おかわり」と言った。

 本当は聞こえてないのではないかと不安になったが、女はしっかりと聞こえていたらしく、また嬉しそうに親子丼を出す。

 そして俺はまた食べ始める。


 その間もずっと俺の側にいてくれた。


 今まで誰も俺の側にいてくれる者なのいなかった、むしろ、近寄らなかったり、逃げ出していく者ばかりだった。

 だから正直、何度も側にいてくれる存在を探すなんてこと辞めようと思った。

 どこを探しても俺の居場所はないのだからと。

 そんな夢は捨ててしまえと。

 それでも俺は足掻いて足掻いて足掻き続けた。

 そうしてやっと見つけた。

 お前を。

 俺が居ても良いのだといく証拠を。

 あぁ、俺はこいつのために努力しよう。

 それが俺の存在理由だと思えたのだ。

 この穏やかな時間を守りたい。

 そう思い女に問いかける。


「あんた、名前は?」

「申し遅れました。私はこの〈夢の宿〉オーナーの『スゥ』と申します」



『スゥ』



 何度も心の中で名前を呼ぶ。

 言葉にはまだ出来ないが心の中で伝えた。

 スゥ、お前に出逢えて良かった。

 俺がスゥに救われたように、今度は俺が、スゥが困っているとき絶対に助けるよ。

 きっとスゥにとっては、今日は何と言うこともない日だろう。

 もしかしたら、営業だからと割り切っているのかもしれない。

 俺のことなんて何も考えていないのかもしれない。

 それでも、こんな俺に笑顔を向けてくれるお前を。


 守りたい。


 まだ知り合ったばかりで、お互いに何も知らない状況だ。

 無理と分かっているから信用してほしいとは思わない。

 だから言わない。

 それでも、この決意だけは嘘じゃない。

 もし「店員」と「客」という関係じゃなく。

 いつかもっと信じ合える仲になれたら。

 いつか俺の隣にいることが当たり前になったら。


 今みたいに俺の側で笑っててくれたら良いなと思う。


 心がトクンと優しい音をたて始める。



 その気持ちに俺はまだ気づいていなかった。

 これが『愛しい』という感情であることに。


やっと1人じゃないと思えたゼノールでした。

人と接する事が少なかったゼノールは、相手や自分の気持ちの理解が遅めです。

早くその面でも成長していってくれると嬉し作者です。

次回はスゥ視点に戻ります。

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