求めていたもの★~ゼノール視点~★
ぜひゼノールについて知って欲しい!
ということで、ゼノール視点です。
俺は物心着いたときから1人だった。
両親の顔も知らない。
周りが言うには俺は捨てられたのだという。
金がないためすぐに冒険者ギルドに入り、少しずつ貯めていく。
だが、そんな状況でも誰も俺の側に来て助けてはくれなかった。
他の奴らはいつも誰か側に居るが、俺には誰も近寄ることすらない。
初めは自分が何かしたから誰も近寄らないのだと思っていた。
だから、他の人のためになることを率先してやった。
それでも皆俺に近寄らない。
それからも俺は皆のためにと努力をし続けた。
困っている人に声をかけ手伝いを申し出た。
いじめられているヤツを助けたりもした。
幸い、俺は他の獣人よりも身体能力が高かったためこれが皆の役に立つならと頑張った。
それでも、皆、嫌悪の眼差しを向け、悲鳴を上げたり、逃げ出したり、倒れたりする。
やっぱり誰も近寄らない。
(何故だ?どうしてだ?俺は皆のために行動しているだけなのに)
しかし、成長していくとだんだん理解した。
あぁ、皆、俺の見目を嫌っているのだと。
どれだけ頑張っても何をしても何も意味が無い。
それを理解した途端、俺はようやくその国を出た。
金は冒険者ギルドで山のようなクエストをこなし貯めたので心配はなかった。
なにより、俺は俺をちゃんと見て側にいてくれる人と過ごそうと思ったからだ。
この国では俺は醜いから誰も側にいてくれない。
ひとりぼっちだと。
だから、獣人の国を出て人族の国に来たのに…。
「ひっ…何と醜いヤツだ。しかも、獣人じゃないか。近寄らないでくれよ」
「いやぁぁあ!バケモノよ!!来ないで!!」
やはり人族からも俺は醜いとされるらしい。
どこにも俺の居場所は存在しないのだろうか。
そう考えているとき、人族のとある国にもっと様々な種族が集まるらしいと聞いた。
もう、最後の望みをかけてその地を目指した。
金は底をつき始めていたが、
それでも俺はその地をひたすら求め歩いた。
俺は1人でないと、存在してもいいのだと証明するために。
そしてついた場所は変わらず地獄だった。
獣人と分かっただけで逃げていく人族、俺の顔を見て罵ったり逃げ出していく他種族、もう、何度も見た光景だった。
疲れ果てている体と心に鞭を打ち宿を探す。
だが、やはりここでも俺は受け入れられないのだと分かっただけだった。
危険はあるが、野宿をしようと街から離れた森にやってきた。
虚ろになりながら歩いていると1つの看板を見つけた。
〈夢の宿〉
どんな方でもお気軽にお越しくださいませ。
値段も俺でも払える安さだった。
そして『どんな方でもお気軽にお越しくださいませ』という言葉に藁にも縋る思いでその宿に足を向けた。
そんな気持ちを持ちながらも、どうせここも他と同じような場所だと暗い気持ちでいた。
フードを深く被って大きな宿の扉を開ける。
すると、中は外見に比べてとても綺麗で今まで訪ねたどこの宿よりも豪華に感じた。
俺は慌てた。
場所を間違えたのではないかと。
少しして、奥から女がやってきた。
さらに、俺に対して笑顔で挨拶をしてくる。
そんな顔を向けられたことがないため、かなり動揺したがすぐに意識を正常に保つ。
そして用件を伝えると、紙に自分のことについて記入しなければならないらしい。
なぜ?と問えば1人でこの大きな宿を管理しているからと答えた。
その事にもさらに驚かされる。
外見からも分かるようにこの宿は1人で管理するには大きすぎる。
しかも、女が1人でだ。
可笑しな話だった。
俺はまた別のことにも悩んでいた。
記入欄に〔種族〕と書いてあったからだ。
女は人族だ。
人族は獣人を嫌う。
女は俺の顔を見て泣き叫ぶ。
だから、困っていた。
この宿に泊まれなければ野宿するしかないだろうが、明日生きていられる保証はない。
(だが、種族と顔を晒すのは…っ!!)
そう思っていると女が言った。
「大丈夫ですよ、どんな方でもこの宿をちゃんと提供しますから」
耳を疑った。
俺の都合の良い幻聴かと。
いや、幻聴でも良い。
その言葉に賭けてみたくなったのだ。
そして俺は紙に記入し、女に渡した瞬間にフードを取った。
そして、次の言葉を待った。
こいつは何て言うだろう。
やっぱりさっきの言葉は取り消す、とか、他の宿に、とかだろうかと考えていると女が挨拶したときよりも明るい笑顔で歓迎してくれたのだ。
それに俺は困惑しながら女に問いかける。
目が悪いのか、そもそも女なのか、俺は獣人で醜いぞと。
すると女は
「だから何だというのですか?種族や顔が何です?そんなもの、私は気にしません。むしろ、良いではありませんか!」
と返してきたのだ。
それを聞いただけで俺は歓喜のあまり泣きそうになった。
長年、求め続けたものが俺の手の届く距離に、側にあった。
夢を見ているのではないかと不安になった。
きっと、これは都合の良い夢で起きたらまた1人に戻る地獄が待っているのではないかと。
そんなことを考えているうちに、女が俺の手を取って部屋に引っ張っていく。
手からちゃんと感じられる熱に、優しい表情に、ここは現実なんだと教えられる。
部屋に入れられ、涙を堪えていると待っているという言葉を残して女は出ていった。
部屋からはそこら中に女と同じ優しい香りが漂っていた。
俺はベッドに疲れた体を横にして、1人涙していた。
ずっとひとりぼっちで、寂しかったんですよね。
ただ側にいてくれる人を探すためだけに遠い国を目指すってどれだけの思いがあったのでしょうか。
そんな健気なゼノール視点、次回も続きます。




