宿
読んでいただきありがとうございます。
今回も、楽しんでくれると嬉しいです。
お店の人たちが教えてくれた宿〈マリアージュ〉を目指す。
思うところがないわけじゃないよ?
だって、マリアージュ(Mariage)って《結婚》を意味するんだもん。
本当に宿なのか何回も聞いちゃったよ。
何でも、オーナーが女性らしい。
この世界では珍しく、女性専用の宿で安く対応も良いと評判なんだとか。
いやいや、何で男性陣知ってるのよ。
そんなことを思いながら道を歩くと、鳥の看板に〈マリアージュ〉と書かれている木造の大きめの建物に着いた。
私はコンコンと扉を叩く。
しばらくすると扉は開かないまま声が聞こえる。
「何か用かい?」
女性の声だった。
きっと男性でないかを確認しようとしているのだろう。
そこで私はその場で答える。
「スゥと申しますが、今日こちらの宿に泊まりたいのですが、今、部屋は空いているでしょうか?」
しばらくして扉が開き宿の中に入れてもらえた。
大丈夫ということなのだろう。
そこにいたのは30代前半くらいのふくよかなで肩上のフワフワ緑髪でオレンジの瞳の女性がいた。
「悪かったねぇ、確認なんかして。でも、男に入ってこられるのは商売上ダメなんで許しておくれよ」
少し申し訳なさそうに優しく話してくれる。
「いえ、当たり前の事ですよ。お気になさらないでください」
女将さんは少し驚いたように感心した。
「ほー、普通のあんた位の女の子だとわがままなのに、この年でそれだけ礼儀が払えるなら上等さね。よし!気に入った!スゥ!あんたには安くしとくよ。1泊銀貨5枚(5,000円)でどうだい?」
この世界では男性と女性だと部屋の安全面を考えて料金が女性だと跳ね上がるのが普通なのだが、それを男性が泊まる時と同じくらいの値段で良いと言うのだ。
「ダメですよ。ありがたいんですけど、それじゃ女将さんの商売にならないじゃないですか。私、今こう見えてお金あるんで普通に出しますよ?」
すると、ビックリした様子の女将さんがお腹を抱えて豪快に笑い始めたのだ。
「はははっ!面白いよ、あんた!はー、そうかい、お金はあるのかい、じゃあ普通料金にさせてもらうよ。子供扱いして悪かったね、あとありがとうね、気を遣わせたね。じゃあ、その代わりに出す料理を今日はとびきり美味しくしてやるよ」
と片目をぱちんとお茶目にウィンクをした。
(可愛いな、この人)
そして、1泊の普通料金を払い部屋に案内して貰った。
階段を上がり案内された部屋の扉を開けると、ぬいぐるみや小物があり、花を描かれた壁、床はモフモフとした白の毛皮が敷かれているとても可愛い部屋だった。
「か…かわいい」
そういうと満足そうに
「そうかいそうかい!なら良かったよ、ここは私の自信作の部屋なんだ!好きに使ってくれて構わないからね。料理はリビングに降りて来たら出すから。お風呂も下にある。言ってくれれば暖めておくよ」
と言い1階に降りていった。
部屋に残った私はしみじみとここで泊まれて良かったと思った。
夕方、お腹をすかせた私はリビングに向かった。
机にはサラダとお肉を焼いてソースをかけたものとスープが既に準備されていた。
今、泊まっているのは私だけのようで1人分しか置かれていないのが寂しく感じた。
「女将さんも一緒に食べませんか?」と聞くとまた笑いながら「わかった!一緒に食べよう!」と言ってくれた。
女将さんとひたすらお話をした。
話を聞くと、昔、知り合いの方がレストランを経営していたこの建物で旦那さんたちと出会い結婚したから〈マリアージュ〉と名付けたのだそう。
ちなみに、女将さんには旦那さんが4人いるらしい。
子供もそれぞれの旦那さんとの間に1人ずつの計4人居るらしいが全員が男の子とのこと。
「男の子も元気があってかわいいんだけどね、やっぱり母親だからか、女の子が欲しくてね。もういっそのこと、話せればいいやって思ったわけよ。それで、考えたのが女の子専用の宿を経営するってことだったのさ」
女将さん、スゴすぎるよ。
ただ女の子と話したいと思って、宿を経営するなんて。
「でも、どうして宿だったんですか?女の子と関わりたいなら他にも、女の子の物も置いてある雑貨屋さんとか服屋さんを経営したほうが、男性客も来て利益って出るんじゃないんですか?」
この世界で女性自体が少ないから宿を女性専用にすると、どうしても回転率が悪く利益も少ないのではないだろうか。
そう思い訪ねてみると女将さんは優しい笑顔で答えてくれた。
「スゥ、私はね、女の子と関わりたいと思っているけどそれだけじゃないんだ。関わった上でその子の人柄を知り、嬉しいこと悲しいこと楽しいこと、何でも良い。話して心を通わせたいと思ってるんだよ。そしたら、私は幸せを感じれるからね。相手もそれで幸せを感じてくれるならさらに良いだろう。要は、相手と関われる時間があれば私から関わっていけて、幸せを感じる。それが出来るのは、私にとっては宿の経営だったっていう話さ」
"心を通わせたい"
"幸せを感じられる"
"相手が幸せを感じてくれるなら"
"時間があれば"
女将さんの言葉が頭の中を駆け巡る。
そうして、この話を聞いてようやく何をすべきなのか明確なものとなった。
宿を経営する。
私の幸せのために。
それが今の私のやりたいこと、そして、やるべきことなんだ。
只今、フィーバー状態はとりあえず抑えられましたがたぶん、少ししたら爆発しますので、またよろしくお願いします!
感想、誤字報告、何でもお待ちしております。
次回もお願いします!




