一話①
再び意識を取り戻したのは、15歳の時だった。
いや、意識をというか、自分が田戸大成という37歳のおっさんだったと
思い出したのが、その時だった。
不思議な感覚だ、あの天使にあってすぐにここに来た感じもあるが、
こちらの世界で暮らした記憶もちゃんとある。
テストでできなかった問題を答えを聞いて思い出す、
確かにやった記憶はあるが、その時は思い出せなかった、
そんな感覚が一番近いだろうか。
手の込んだ調度品が並ぶ部屋、畳と襖の落ち着いた部屋。
「どこだ、ここは」
そんな言葉が口にでたが、ゆっくりと考えみるとぽつぽつと記憶が出てくる。
ここは、自分の寝室。
名前は、色守 正長
青の国の王、色守 正義の長男。
第一王位継承者。
つまり王様の息子、皇太子だ。
だんだんとこの世界の記憶が鮮明になるにつれて、
自分がいかにチートな存在かを思い知った。
俺もいくつか異世界転生ものの話を知っているが、
最初は、平民で貴族に差別されが、それをはねのけのし上がっていくっていうのがお約束だ。
だが、俺はすでに貴族どころか、このままでいけば自動で王だ。
さらには、弱小国家で大国に飲み込まれる寸前なんてこともなく、
現状世界最大の軍事国家。近隣の国は、あらかた従属しており、対抗する国も残り二国。
戦力差は十倍近くあり、仮に二国が同時に攻めて来ても押し返せる国力がある。
ならば権力争いはどうだ。
上に三人の姉がいるが、野心など微塵もない。
三人とも癖はあるが、基本的に良い人で、父が気まぐれで与えた領地の発展に
大忙し、つまりはリアル内政ゲームにドはまりしている。
発展も新規開拓もいくところまで行った中央なんかにまるで興味がない。
有力な貴族はどうだ。
クーデーターで一気に追われる身、なんてことにも良くある話だ。
だが、今は連戦連勝、国民の士気は高く、景気も良い。
転覆を狙う者もいるかもしれないが、今やっても国民が納得しないだろう。
何もかも、できすぎていて順調すぎる。
15歳の純粋な少年なら、この順調すぎる人生になんの疑問も持たないだろうが、37年生きた方の俺は違う。
何かある。きっとある。絶対ある。
「若様」
外から声が聞こえた。
この国では目上は基本、名前で呼ばない。
職位や役職で呼び、よほど親しくないと名前では呼ばない。
俺を正長の名前で呼ぶのは家族とほんの数人だけだ。
声の主はわかっている。
専属世話係の東山 青羽だ。
「どうぞ」
静かに襖が開き、正座した青羽が静かに前に進み部屋に入ってくる。
着物にロングスカート。前の世界なら和風メイドさんだ。
いつ見ても長い黒髪とあいまって良く似合っている。
静かに襖を閉める青羽。それと同時に仕事モードのオーラが一瞬で消え去る。
「あー、とにかく眠い」
そのままふらふらとひきっぱなしになっていた布団に倒れこんだ。
「無理しすぎじゃないの」
夜遅くまで勉強をしていたのだろう。
三日後に魔術学校の入学試験がある。彼女の実力なら入学は余裕だろうが、
ただ入れば良いというわけではないのが、四大貴族と言われる有力貴族の長女である彼女の宿命だ。
この国の仕組みは、とにかく前世の世界がごちゃまぜのような形だ。
俺は歴史に詳しいわけでもないので、正しいかどうかはわからないが、
部屋の作りや名前は、戦国時代に近いし、役職は恐らくヨーロッパのそれだ。
正長の知識と合わせて予測を立てるなら、この世界は大陸と呼べるものは一つしかない。
(もっとも現在のところはであって未発見も恐らくあるだろうが)
その上、竜の咆哮と呼ばれるまっすぐな平原が大陸の西から東まで通っており、l
地図で見るとほんと、竜がビームでも放ったのではないかと思うほど山脈や湖を貫いている。
この竜の咆哮のおかげで物流が盛んで文化が混じりあったのではないかと思う。
「何それ、嫌味」
まあ、そうとられるのもわかる。
俺は、推薦で入学が決定しているのだから。もちろん王族だからではなく、実力で推薦枠を二つしかない推薦枠をとった。
自分で言うと変というか、もはや嫌味にしか聞こえないが、俺基準で比べられるのは、きついと思う。
前世の俺なら確実に投げ出してる。
「今日の予定は、いつも通り田辺師範から」
本来、今日の予定を読み上げる世話係が機能しないので、予定表を自分で確認する。
「あ、今日の予定全部キャンセル」
布団にの転んだまま少し状態をおこし答える。
「田辺師範の剣術指南が」
「そう」
毎日の鍛錬をもっとも重視する、鬼教官であり、四大貴族の一人である田辺師範。
父の勅命だって文句言うだろうし、それを無視できない力もある。
「それだけのことってことじゃない」
青羽にも知らされていないのか、言わないだけなのかはわからないが、
王族の予定と言うのはそうそう変わるものでもない。
「そうか、なら急がないとね」
襖を開けた瞬間、後ろを見ると。
三歩後ろにきちんと控えている。
いつの間にか布団も片づけられ、服の乱れも一切ない。
この変わり身、ほんとすごいと思う。