プロローグ『新聞部ってバカだよね』
「んぎぎぎぎ! たたたたいへん! たいへんよ!」
ガラガラピシャーンと勢いよく引き戸をあけて教室の前方から私は飛び込んだ。
何人かのクラスメイトが小さく悲鳴を上げたが、かまっている場合ではない。廊下側後ろから二番目の友人の席へとつんのめりながら走り寄る。
「樽井! タルイ! 大変なのよ!」
「……くかー」
「これだけ騒いでるのに寝てんじゃないわよ!」
「……ううミカン揺らさないで。目が覚めちゃう」
「これ! 下駄箱開けたらはいってたのよ!」
「なあに? ラブレター?」
「こ、ここは女子校よ!? 物騒なこと言わないでちょうだい!」
「私入ってたことあるけど」
「えっ」
「……まあそれは置いといて。どうしたの?大変って」
「へあっ? え、うん。えっと。コレなんだけど……」
正直ラブレターの衝撃のが大きいんだけども。
私は手に持っていたメモを広げる。
「読むわよ。新聞部へ大スクープ。なんと来年度からこの学校は共学になります!」
少し大きめな声で読み上げて目の前のタルイの様子を窺う。だけど反応は薄く眠たげな目を無機質にメモへと向けただけで。
「……いやそれって」
彼女が核心に迫るなにかを言いそうになる――その時だった。
「クックック……ハーッハッハ!」
唐突に教室に響き渡る高笑い。
声をしたほうへと振り返ると開け放ったドアのへりに寄りかかる長い黒髪のすらりとした人物が。
「おはようシメジ! なんだその高笑いは! なにがおかしい!」
「おはよう! まんまとひっかかって無様だなミカンよ! 同じ新聞部として情けないぞ。ああまったく情けない! 新聞部たるもの本物と偽者の情報を選別しろと常日頃から言っているだろう」
「ホンモノとニセモノ? ……ハッ! まさかこのメモは偽者? つまり貴様の罠だとでもいうのか!」
「ククク。やっと気づいたか愚か者めが! そうだ! 私が貴様の下駄箱にしかけた罠だったのだ!」
「お、おのれシメジ! たかばっかな!?」
「……ミカン。たばかっただよ」
「たばかった? ……たばかったな!」
「ふん。いつまでたってもミカンは本当に馬鹿だな。あー満足した。いつもありがとうな素直に引っかかってくれて。くだらない茶番が私の一番のストレス発散なんだ」
「……まわりはストレスがたまっていく一方だよ」
「お、おのれシメジ! もう絶対だまされないんだからね!」
高らかに笑うシメジ、眠りだすタルイ、ぷりぷりと怒り出す私。
これが日常になっているせいで、勢いよくドアを開けて悲鳴を上げていた子達に謝りにいったとき『大丈夫大丈夫いつものことだから。でもホントば、あ、いや小学生みたいだよね新聞部』と言われてしまった。
これ以上悪いイメージを植えつけないためにも気をつけなくてはと思っている。