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少女が壊す『永遠』  作者: 甘党
第一章 ノンライブ
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第二話

キツネは自信ありげに断言したが、当然、さっぱり思い当たる節はない。むきになって質問を重ねたが、キツネはぼやかすばかりで、具体的に説明するつもりはないようだった。


 しまいには、「首都に行って、実際に見れば嫌でも分かる」と返すだけになってしまい、とうとう私は追及するのを諦めて、話題を変えることにした。


「はあ、もういいや。そもそもあんたって結局何なのよ。私がここへ来たのは使命のためなんでしょうけど、あんたは誰に頼まれて案内役なんて買って出たの? その割には大して説明もしてくれないし、いったい私に何をさせたいんだか」


 本気で怒っているわけじゃなかったが、ついつい詰る(なじる)ような口調になってしまう。キツネもこちらの態度の変化を感じ取ったのか、しおらしく俯いてみせた。


「不安にさせてしまったのなら、ごめんよ。でも、信じて欲しい。僕は君のためだけに、こうして案内役をやっているんだ。納得のいかないことは多いかもしれないけれど、まずは僕に着いてきてくれないか」


「口ならなんとでも言えるじゃない。だいたい、そのノンライブの首都って歩いて行ける距離なの? 全く影も形も見えてこないんだけど」


 最初はすがすがしかった草原の風景も、歩き続けているうちにうんざりしてきていた。まだ体力に余裕はあるものの、終わりの見えない旅路に、私の両足は着実に疲労を重ねていた。浮いたり座ったりで(私が座らせたのだが)、ずっと楽をしているキツネを恨めし気に見やると、彼はとんでもないことを言いだした。


「うん? 無理に決まっているじゃないか。この速度だと、日が暮れるまで歩き詰めても、きっとたどり着けない。暗くなったら獣も出るし、僕は御免こうむりたいな」


 その矮躯を地面へと力任せに叩き付けたい衝動を押さえ、私はにこやかに聞き返す。


「どういう意味? 今まさに、私達はノンライブの首都へと歩いて向かっているはずだよね」


 漏れ出た殺気を感じ取ったのか、キツネは慌てた様子でぶんぶんと手を振った。

「違う違う! 僕が今、連れて行こうとしているのは給油場だ。そこから収集車に乗り込んで、首都まで運んでもらうってわけ」


「給油場? 収集車?」


 目が点になる私に、キツネは今度こそ丁寧に教えてくれる。ノンライブは実際、無人の国ではあるものの、科学技術が非常に発達していて、完全に自律した機械達が、国としての機能を維持しているそうなのだ。それはもう、大抵の仕事は人の手も借りずやってのけるらしく、重作業はもちろん、状況に応じて機械そのものを作ることすら可能とのことだ。

 そこまで有能な機械がいるなら、人がいなくても国としての体裁を保つことは難しくないのかもしれない。しかし……と私は胸の奥がつっかえるような気分になった。どこか歪で、空しいような、そんなえもいわれぬ不愉快さがある。


「で、収集車というのは、発電のための燃料や、設備の修理のための資材を集める車型の機械さ。国中をあちこち走り回る彼らは、定期的に給油しなきゃいけない。

そのために、草原のあちこちに給油場が設置されている」


「そこで待っていれば、給油しに停まる収集車に乗れるって寸法ね」


「その通り。トワ、急に物分かりが良くなったじゃないか」


 上から目線でのたまって、キツネは「ほら、あれだよ」と前方の砂利道から少し外れたところを指さした。目を凝らしてみると、確かに黒色の箱のようなものが、ぴょこんと砂利道のわきの草むらから顔を覗かせている。その高さは私の膝にも届かないほどしかなく、キツネに指摘されていなければ、そのまま通り過ぎていたことだろう。

 その給油場とやらに辿り着くと、キツネは私の肩から箱の上へと乗り移った。


「こうやって上を陣取っていると、給油ができないんだ。その隙に収集車へ乗り込んでくれ」


 キツネは言うが、私には収集車がいったいどんな物で、どうすれば乗れるのかさっぱり分からない。車輪で動く機械とまでは想像がつくが、一口に車といってもいろんな種類があったはずだ……。

 いろんな種類?

 軽い眩暈を覚えて、私は眉間を押さえた。

 車――知っているとも。牛車、自動車、天輪車。それぞれ機能や用途は大きく異なるが、どれも車と定義される。そう、常識だ。何もおかしくない……。

 湧き上がる気色の悪い違和感を堪えつつ、キツネに尋ねる。


「ねぇ、その収集車ってどんな車なのよ。トラックみたいなの? ああでも、人が乗る必要が無いから、運転席はないのかな」


 口にすると、より吐き気が強くなった。なんでこんなに気分が悪くなるのかが、さっぱり分からなくて憤りすら感じてしまう。


「……そうだね。トワは知らなくて当然だろうし、かといって君に口頭で説明するわけにも……あ、ほら」


 キツネは急に声を高くして、砂利道の方へと顔を向ける。何事かと同じく振り向いて、思わず目を疑った。箱と似た黒一色の直方体が、視界に飛び込んできたからだ。


「あれが収集車。ちょうど良いタイミングだったね」


キツネの指さすその大きさは、箱と比べ物にならず、高さは私の背丈を優に越し、幅はさらにその数倍はありそうだ。下部にはちゃんと車輪が備わっていて、駆動音と共に砂利道をまっすぐこちらへと向かってくる。みるみるうちに収集車はその存在感を増していき、あっという間に私達の所まで着いたかと思うと、おもむろに停車した。

 間近で見るその外見は、予想していた以上にシンプルだった。運転席はおろか、荷台すら無く、車体にも装飾らしきものは一切見受けられない。車輪が着いただけの直方体という初見の印象は、まさしくその通りだったわけだ。

しかしこれでは当然、私が乗り込む場所も無い。収集車というのだから、資材を積む箇所くらいあるだろうと思っていたのだが。

「さぁ、早く」

 だが、キツネは何の疑問も抱いていないようで、素知らぬ調子で促してくる。


「いや、どうやって。中に入れる部分が少しも見当たらない」

「そりゃ資材を収集する場所じゃなきゃ、コンテナは開かないよ」


 言いながらキツネは、収集車の上……すなわち直方体の天井部分を指した。


「上に乗っかるのさ。ちょっと揺れるけど、眺めは良いよ」


 平然と告げる彼に、諦めに似た感情を覚えながら、私は収集車の屋根へと跳び上がった。

 ぱん、と軽い金属音とともに着地して、ひどく高くなった視点に反射的に身を屈めてしまう。屋根部分はわりと余裕ある広さだったが、収集車の移動速度からしても、立ったままというのはさすがに怖かった。

 私が乗ったのを見届けて、キツネもふわふわと箱からこちらへと飛んでくる。それと同時に、収集車のおそらく側面部からホースが伸び始めるのが見えた。スムーズに進展したそれは、給油場の箱へと接続され、しばらく後に液体が迸るような音が鳴りだす。これがキツネの言う給油なのだろう。


「ねぇ、この工程も全部機械が自動でやっているの?」


 私の肩へと相も変わらず居座ったキツネに聞いてみると、彼はなにを当たり前のことを、と頷いた。


「ノンライブじゃ、この程度は日常茶飯事だ。なにせ、動けるものは機械しかいないんだから」


「でも、それっておかしくない? どんな機械であっても、初めて動く時は誰かにスイッチを入れてもらわなきゃいけないよね?」


 この国の説明を聞いた時から、不思議に思っていたことをぶつけてみると、キツネは珍しくちょっと困った顔をした。


「それも機械が入れるに決まっているじゃないか。それで動きだした機械が、いずれはまた新しく製造された機械のスイッチを入れる。これを繰り返しているだけのことだよ」


 もっともらしく語るキツネだが、私はどうも納得がいかず、反論する。


「じゃあ、最初の機械はどうしたのよ。スイッチはもちろん、作り手すら居ないことになる」


 その時、ごうんと大きな音が響いて足元が震えた。どうやら給油が終わり、収集車が動き出したようだ。あれよあれよという間に、周囲の景色は加速し始め、唯一の目印とも言えた給油場の箱が遠ざかっていく。

 砂利道を車輪で走る車の屋根へと直に乗っているせいか、収集車の乗り心地は最悪だった。ひっきりなしに車体はがたがた振動し、それが一切軽減されないまま上の私へと伝わってくる。さらに悪いのは、どうやら収集車の中には重くて大きい物がたくさん詰まっているらしく、事あるごとに耳障りな重低音を響かせるのだ。

 とてもじゃないが会話なんてできる環境ではなく、じっと黙りこんでひたすら理不尽なまでの揺れに耐え忍ぶ。キツネにさっきの質問の答えを聞きたかったのだが、同じく私の肩で気分悪そうにしている彼を見るに、ノンライブに到着するまではお預けだと諦める他なかった。


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