EX.94「血の刻印」
『心なき人間に共血を拒まれ······死んだ!!』
それは人間の業。
人間と魚人を分け隔てた悪魔のような出来事。『第一次英雄対戦』——————それは、流血と種族絶望の戦争。歴史に名を残す『始まりの大戦争』。その被害、その死者は尋常ではないほど。
そうか······あの日からだったか······。
歴史上から魚人の存在が著しい間、抹消されたのは——————。
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「························」
当たり所が······撃たれ所が悪かったハルトは防ぎようのない血の量を流し続けている。
一刻も争うような事態でも、他人事になってしまうのか······いや、まあ人間も同じなのか······。
「そんな部下一匹の命なんか諦めて······お前ら俺達と"魚人街„へ来い!!『新·解放軍』頭首レオナルド·ディザスター様がお前らをお呼びだぁ!!」
「おい······法律か何か知らねぇが頼むよ!!誰かいねぇか!?『N型』!!礼なら何でもするからさ!今はとにかくコイツの命を救ってくれえ!!」
岡田の叫びも虚しく、人魚達はうつむいて顔を合わせないようにする。
「チッ······無視か······まあ、いい。力ずくで連れて行くぞぉ!!······"打瀬網„!!」
本来ならば漁業で魚を捕まえる為に使われる網が、アキヒト、モフ、カレン、岡田、ハルトに襲いかかる。
「お前らの言う事は······」
既にレインボーの力をフル始動していたアキヒトが、目にも止まらぬ速さで敵の懐に入り込み。
「聞かねぇよ!!」
アキヒトはレインボーの最速奥義『スター·ショット』を放ち、魚人三人を吹き飛ばす。
既に己の武器を手にしていたネプチューン軍の三兄弟達も、居合わせた兵士、人魚達も動けなかった。
「ぎょ······魚人街のハモンド達が······!!」
「アキヒトくん!!後ろに海獣が!!」
牙を向き、襲いかかる海獣にアキヒトを手のひらを向け、黙りこむ。
——————皆が見たのはレインボーの光を身にまとうアキヒトの姿。
——————しかし、光の無い深海に棲息し、触覚神経で相手のオーラを読み取っていた海獣から見たら、異様な姿を持つ化け物の姿だった。
その姿を捉えるや、海獣は牙を収め。服従のポーズをとった。
「あんな海の化け物が······戦わずに負けを認めた······!!」
「何なの!?あの子すごい!!」
「流石だ······」
「おいそこの少年達いっ〜〜〜〜!!ハルトくんを乗なさい!町に行くわよ!!」
「!!——————リアさん!!」
「町の港にはまだ生き残っている人間の人達がいるはず!!急いで!!」
リアさんが乗っていたのは先程までネプチューン三兄弟とヘラクレズ達が乗っていた船であった。
「街たまえ君っ!!リュウグウ号は王子達の······」
「ごめんなさい!ハルトくん助けたら必ず返します!!」
「よし!!乗ったぞリアさん!出してくれ!!」
「お願い、リュウグウちゃん!町までだして」
リアさんが頭を撫でてそう頼むと、リュウグウは「モス!!」と鳴いて進みだす。
「——————ごめんね。わたしが同じ血液型なら拒否なんてしないのに!!」
「リアさんが謝る事じゃないですよ!元々は岡田くんがもっと早く気づいたらハルトくんもあんな行動を取らなかったのに。——————って言うか何で銃声鳴って体出すのかなぁ······」
「いやまあ、本当にすみません。······ん?ちょっと待て、サプレッサー付けた銃声気づけた事に感謝してくれよ!!」
「諦めな岡田よ。狙撃手なら遠くからの殺気に気づけただろうに······だからカレンに色々言われんだ」
「狙撃手あてにしすぎじゃね」
「なぁーー!!皆さんちょっと黙って止血手伝ってくれませんかね!?本当に一刻を争う状態なんですから!!!!」
モフに説教を受けて渋々動き出す三人。
ある程度の傷口は防げたものの、小刻みに血が漏れ出すハルトを見ながら。岡田が先程までの光景を思い出しながら言う。
「——————しかし、第一次英雄大戦の事も然り。······何よりもリュウギョウさんの件でさえも、根っこは深そうだな······捨て身の守りであっても大事になるなんて······いや、それは上でも変わらないか」
「話は別だけど、町に着いても少し心配な事があって献血者がすぐ見つかるかどうか······一応"人間差別„があったときでも研究者や漂流者が何度も来てたけど、ここ半年人間の人達が全然この島にやってこなくなって······君たちが珍しい漂流者なのよ」
「ふ〜ん?そうなのか、どうしてですか?」
「わからない······誰かが航海者の邪魔をしてるんじゃないかってね。——————何か大きな陰が動いてるんじゃないかって国中の噂で······」
航海者······いや、まあ俺たちも船に乗って釣りをしていたのだから航海者か······そして、その上で漂流者であり遭難者であるのか、不運なものだ。
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「困るじゃないか君たち······なぜ人間達を匿っていたのです······?」
場所は戻り、『人魚の入り江』。ウバボシがアキヒト達を隠していた人魚達に優しく窘めていた。
「ごめんなさいウバボシ王子······でも、リアさんのお友達だと思ったし······」
「悪いコ達じゃなかったから。不法入国で捕まるのはかわいそうだと思って」
「大丈夫かしらハルトちゃん······」
「——————それは早とちりです。彼らは既に私達の恩人である人間。入国審査なら受けて貰わなくとも構わない。······素性はおよそわかっている」
「我らが彼らを捜していたのは別件なのレロレロ〜〜」
「······そうだったんですかっ」
焦る人魚達を裏腹に、ウバボシは小さく息を吐くように。
「リュウギョウの伝言も伝え損ねたな······」
と言った。
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『リュウグウ王国——————港町サンゴが丘』
「ハルトぉ〜〜〜!!気が付きましたか!!」
ハルトが目を覚ました時に見たのは、自分が医療に使われる血液パックのチューブを腕に付けられている姿だった。
「············ここは······どこだ······」
「よかった······!」
「港町の知り合いの家······ハルトちゃん体の血がほとんど抜けちゃったからさ」
「血液の提供者が見つかって本当によかった······」
「そうか······血が······!?どうしちまったんだ······おれは?」
体を起き上がらせると、リアさんが「まだ寝てて」と制する。周りをよく見ると三人がソファのような何かにぐったりと息を切らせながら倒れ込んでいた。
「だけど——————魚人達はほんとに何で血をくれねぇんだ······町中走り回っても全然人間が見つからなくて······」
「——————実際もうダメだと思ったよ······!!」
アキヒトが焦っていた内容を話し、岡田が珍しく毒づく。カレンはジュースらしき液体を必死に飲み込んでいた。
「お前ら······俺の為に······!ありがとな······だけど思い出せねぇな、俺は一体どこで何をしていたんだ?」
「············この世にはもう思い出さなくていいことがあります」
モフが真剣な眼差しで訴えかけるので、ハルトはこれから考えないようにした。
「······そういやハルト。この島の酒場でやっと見つかった血の提供者だ······」
「あっ、そうか。感謝しねえと」
「いいさ。人間同士、困った時はお互い様です······ごファ!!」
「俺よりも圧倒的に体調悪そうな人がいるんだけど!?」
「おいハルト!ほんとぉ〜〜に感謝しろよ!!お前の『N型』はO型でも輸血出来ないんだから!」
「いや、だからって······もはやトドメ刺してるだろ!血ィ吐いてんぞ!!」
「······いやいや、大丈夫ですよ。わたしの能力は『亡者。希少な死なない人間ですから。限界まで血を取って貰って構わないですよ······ゴフッ······」
「言い切って吐いた······」
「いや······そこまでは出来ませんよ。······しかし、恐ろしいのは、僕は何も準備出来ていない事です。たとえマスターであっても血の流し過ぎは死にますよ」
「······気には止めて置くよ」
「アキヒトくん?その跡なに?」
「ん?」「ん!?」
ん······?何か俺とモフで反応が違うような。
「それ毒ですよ!!毒の跡!!ちょっと正しく検査さしてください!!」
「おう······」
モフは持っていた最低限の医療箱を手にとって。そこから白い粉を振りまく。すると、アキヒトから抜いた血が紫色に変わる。
「毒の反応!やっぱりその跡······毒をくらっていますよ!!」
「······そういえばさっき魚人達と戦ったときにチクッとしたような······」
「それでアキヒトくん、なんともないの!?」
「——————これ、猛毒ですよ!······あれ?でももうマスターの体には抗体が出来ていますね······知らない内にはねかえしたのですか······!」
すると、今まで俺の肩に座って足をプラプラさせていたレインボーがジャキーン!と立って。
「私の力は最上級ですからね。そんな安っぽい毒なんて簡単ですよ!!」
「でも、これは多分『ヒョウモンダコ』の毒ですから。ナノグラム程度で常人は死にますからね!······まあ、驚きですよ」
「キラリーん!!」
「タコか······じゃああいつか······タコの剣士だ。——————あいつ、俺の攻撃を受け止めてたからな。アイツはだいぶ強いじゃないか?」
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「ブロンドボーヤはもう大丈夫かい?」
「ええ!シスター·シャロー。お部屋貸してくれてありがとう」
「おーーーきれいな水晶玉!」
「それにはお触れでないよ魔女ガール」
「それは占いに使う水晶玉よ。シスターの未来予知はこのサンゴが丘じゃ有名なのよ」
「ふふ······あの方には届かないわ。——————それにもうやめたのよ、占いは······。未来なんて知らない方がいい······」
「へぇ〜じゃあ最後に見たのは?」
「デリカシーに気をつけ!······いや何でもない」
どうやら俺も『未来視』することを知っている岡田は口を塞いだ。······そういう所が岡田の優しいところだ。
「············さあ?わざわざ覚えるべきではないものよ?」
「そうか············」
そう言うとシスター·シャローはタバコなのかシャボン玉吹きなのかよく分からないタバコ筒で息を吐く。するともしかしたら後者なんだろうかと思うくらいにシャボン玉が漏れていく。
「そうね······リア。今日はその子達を商店街に連れて行ったらどうだい?」
「それいいわね!さあ、行こうじゃないか」
「この話の流れでハルトとモフはねぇな······」
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「今の内だ!船に乗り込め!」
『魚人街【ノア】』
「静かに!静かにだ!!全員オールを持て!!出港だ!!!!」
ツギハギの船にシャボン玉で包んで進んでいく。すると、ふわふわと海中から浮かんでいく。
「よっしゃあ!奴らに見つからずに出てこれたぞ!!」
「急げ!!」「急げ!!」「もう魚人島なんて漂流してたまるかよ!!」「マーメイドカフェは諦めろ!!」「え〜〜〜!!」
「急いで地上へ抜けろ!!」
——————
「——————逃げた?」
「ええお頭!!」
「また逃げたのデスか······懲りんデスなぁ······!!」
「ニンゲンはよく逃げる」
「ジャララララ!!いいさ······!——————また"見せしめ„に使える······!」
「シャハッハッハ!!では私が一発行ってきまっし!!」
「お前はいい!!サルロス」
「シッヒ!了解!!」
「オレが行く······!!」
「え!?」
「シャボンを用意しておけ」
すると、リーダー格らしき魚人がマーブル型の薬を飲み込む。
「だあっ!またそんなに一気に飲んでよぉ!!凶薬を!!」
「ん〜〜〜〜!!あああああああァ!!」
筋肉がせり上がり、ビルドアップしていく。
狂気に血走った目からはサメらしき殺意をにじみだす。
レオナルド·ディザスター。ホホジロザメの魚人。『新·解放軍』頭首。
「ハハハハハハハハハハハ!!······」
今、飛び立つ。




